10話 2月 10日
-St Valentine's Dayまであと5日


「事件や、ちょお行って来るな!」

そう言って、元気良く飛び出して行った平次

見送りながら、この隙にプレゼントを用意
するしか無いな、と思う

予算もあまりないし、時間も無い
翠も、晃くんに贈るものを選びに行くと
言うので、2人で寄り道

晃くんは、今日は部活の面々と一緒に
連れて行かれてしもうたんよ
OBとOGが集まると言う飲み会に

ホンマは平次も呼ばれてたんやけどな
私と翠は、事前に用事があって、と断りを
入れてあった

OBの中にな、翠のお兄ちゃんがおんねん
そのお兄ちゃんが、私と翠に、オマエらは
来ない方がええで、と、事前に教えてくれ
たんや

どうやら、合コンも兼ねてるみたいやねん
で、平次と晃くんは、その目玉

翠は怒ってたけど、お兄ちゃんが大丈夫
オレが見張ってるから、と言い、晃くんも
行きたく無い、言うのを引きずられて行った
んや

さすがに、目玉の両方が無いのはマズイ
言うてな

「後で、平ちゃんにはめっちゃ奢らせる」

珍しく、いらっとした雰囲気の晃くんは
そう言うと、ずるずると引きずられて行った
んやで?

「翠は、何あげるん?」

「チョコレートはもちろんあげるで?
ただなぁ、何を付けようか、迷ってんねん」

どうせなら、ちゃんと身に付けてもらえる
ものがええかな、とか?

翠は、当日、晃くんとデートやって前から
言うてた

「海遊館、連れてってもらう予定やねん」

「ええな、翠」

「和葉は?」

「うちは、事件が無ければどこかへお出かけ
らしいねん」

「やるなぁ、服部」

「でもな、場所も何も教えてくれへんの
1泊か2泊するから、荷物だけ用意しとけっ
て言うてな」

「ええっ!」

翠は驚いてた

「和葉、アンタ、その事、他の人に絶対、
言ったらアカンよ?ええね?」

「何で?」

「何ででも、特に、工藤くんや、工藤くんの
彼女の耳に入れたらアカンで」

「蘭ちゃん?」

せや、と言う翠は真剣
何でやの?と言う私にタメ息を吐くと、人気
の少ないベンチに、私を座らせた

「落ち着いて、聞きや?」

「アンタ、私が晃くんとお泊まりデートする
言うたら、何を想像する?」

ええっ!と叫び声を上げそうになった私

そらなぁ、デートって言うて、泊まりや言う
たら、まぁ、その、あの、ちょっとはそう言う
雰囲気にもなるやろな

「あんな、和葉」

私や晃くんにとっては、アンタが服部に
くっついて泊まりがけやろうが何やろうが
遠出するのは、普通やねん

でもなぁ、世間一般のみなさまは、
そんな状況、異常に映るんよ?まして、
そんだけ一緒で、まだしてへんなんて

「んなっ!!」

「それでええんよ、和葉
でも、アンタもそろそろ、覚悟はしといた方
がええと思うよ」

「覚悟?」

翠は真剣な顔で頷いた
私もまだやねん、でもね、と

「初めては、晃くんとって、決めてん
ちゃんと、お互い、色々責任負えるように
なったら、って約束してるし」

頬を染めて言い切った翠はキレイやった
ちゃんと晃くんと、そう言う話しをしてんや

「服部やってな、相当色々我慢しとると思う
で?アンタは奥手やし、アイツは照れ屋やし
幼なじみが長過ぎて、急に恋人っぽい事
しよ、思うても、中々難しいやろ」

耳が痛い程、自分が赤くなってるのが判る

「やるとかやらんとかは問題や無い
そんなん、興味本位でしてええ事や無いし
ただな、いずれそういう関係に進んでも
ええよねって覚悟は、しといた方がええ」

何だかんだ言って、服部、アンタに甘過ぎ
やからな、と笑う

「アンタ、服部にちゃんと言うてあげてへん
やろ、どうせ」

「何を?」

「好きやって」

さらり、と言い切る翠
図星やった

「アンタ、服部が他の人に惹かれてまうんや
無いかーとかよう心配しとったけどな、あれ
服部かて同じやで?」

「平次も?」

「せや、アンタより大人ぶってる分、アイツ
の方が心配かもなぁ、色々と」

平次が、心配?

「どんなに頭が切れるとは言え、所詮アイツ
やってただの健康な男子高校生や
そら、妄想も膨らむやろし、アンタには嫌われ
たくない思うて必死やろうし」

翠は、優しく私の頭を撫でた

「アンタはな、プレゼントの中身にこだわる
よりも、一緒に過ごせるなら、過ごした時間
にこだわってあげたら、一番、喜ぶで?」

そう言って笑った翠は、言い出した
自分も、晃くんに当日、ちゃんと好きやって
言うから、アンタも、必ず言うんやでって

「後で、服部に確認するで?」

「え!い、いやや!恥ずかしいやん!」

心配せんでも、晃くんに確認、させるわと
笑う翠

アンタは、ええよ、晃くんに直接聞いて、と
笑い出す
意地っ張りの服部は、絶対、私にそんなん
聞いて来ないと思うから、と

「なぁ、和葉」

「ん?」

翠は耳打ちした
好きやって言うのともうひとつ、アンタの方
からキス、したり?と

楽しそうに笑う翠は言った

「学校も、剣道も、事件も、アンタん事も
毎日フル稼働で頑張ってるやろ?
どんなに聡い服部かて、疲れてると思うわ」

堂々と癒してやれるのは、アンタただ一人
やって言う事、忘れたらアカンよ?と

「晃くんはな、しっかりもののお姉ちゃんが
居たから、妹が欲しかったんやって
せやから、私はめっちゃ甘えてやんねん」

うふふ、と笑う顔はホンマに幸せそう

翠ちゃんと晃くんには、何遍も助けてもろ
うたし、私が方恋しとる間も、急かさず、私
のペースで見守ってくれた

私も、2人みたいになりたいな、平次と

「うん、頑張ってみる」

「せや、その調子や、和葉
さ、買い物行こうか?遅くなってしまうと
晃くんも、アンタの旦那も心配するからな」

その後、色々回った私達は、結局、同じ店
で4つの色違いのキーホルダーを買った
1つはお互いのパートナーに、1つは自分達
用に、と

服も雑貨も人気なショップで、セールもやっ
てたから、凄い人やった

価格も手頃やったし、この間、私も平次も
自分のもの、壊したばっかやったから
フックでひっかけて、チェーンの先にキー
をひっかけられるヤツやねん

女の子でも男の子でも持てる程度のゴツさ
もちょうど良かったんや

私と翠は、お互いにプレゼントしあった
頑張ろうなって意味も込めて

平次と付き合ってると公言されてから、
興味本位で色々と聴かれる事がより一層
増えた

元々、その手の話は苦手やし
恥ずかしいし、人にべらべら言う事とちゃう
と思うてた私

翠はさり気なくいつもその話題から私を
逸らしてくれた

「私もあんまり好きやないねん
せやかてみんな、ホンマに心配してくれて
るんやなくて、自分の経験を話したいか、
知り得た情報、自慢げに誰かに言いたい
だけやもん」

でも、時々、誰かに相談したくなるから
そん時は、アンタに言う

翠はそう言うて、護ってくれた

きっと、平次達は、もっと集中攻撃を受け
てるはずやからな、私らは静かにしとこ
と言うのが、翠の言い分

出逢った頃から、さっぱりとした明るい子
だった
それは、現在でも変わらない

平次の事も、平気で叱るし、容赦無いから
平次のファンには、私同様に睨まれてる
それでも、翠は言う

「服部やって、神様でも王子様でもない
アレかて中身はただの男子高校生や」

面はええ面しとるけど、私は晃くんがええ

最初から、そうやった
小学生の時に、交流試合で2度ほど遭っ
ただけやったと

でも、穏やかな会話が出来る人で、そこ
がめっちゃツボやった、と

「あれ程のイケメンやと、中身がある会話
が心もとないとか、面白くない、とか、
意識して、かっこ付け過ぎとかあるやん?」

最初はそう思うてたらしいねん

でも、試合でトラブルが起きた時の対処
とか、身のこなしとか、話した時の感じが
良かったんやそうや

「でもな、その後の試合には、一切出て
来なくて、聞いてみたら、晃くん、あれは
ヘルプで出てただけで、本来は剣道やっ
て聞いて」

もう逢えない、とがっかりしてたところ、
受験してた中学が受かり、入学式で再会
したんやって

せやから、翠にとっては、平次も、私も、
最初は晃くんのお友達、からスタートした

平次も、珍しく翠の事は下の名前で呼ぶ
平次には、私と翠は姉妹に見えるらしい

「もちろん、翠が上、オマエが下や」

そう言うて笑ってたけどな

でも、ホンマの理由、知ってんねん

晃くんがな、翠の事、翠って呼びたい
平ちゃんが、和葉ちゃんの事、和葉って
言うてるみたいに

で、平次も、頑張ってオレがちゃん付けで
呼ぶのはおかしいから、と、下の名前で
呼ぶようになったんや

これからも、仲良うしてや、翠、晃くん

翠と2人、買い物帰りに歩いてると、晃くん
と翠のお兄ちゃんが現れた

「あれ、どないしたん?」

「ん~?オマエの大事な晃くんがなぁ、
肉食女子に食い散らかされる前に回収
して来てやったんやないか、ボケ!」

ごつん、と翠を叩くお兄ちゃん

「オレ、喰われてへんし」

苦笑する晃くんが、翠の頭を撫でる

「和葉ちゃん、服部、事件で良かったわ」

大変やったんやで?連絡先、知ってる
やつ、すぐ連絡せえ、声だけでも聞かせろ
言うてなぁ

と笑うお兄ちゃん

「晃の携帯はな、会が始まる前にオレが
没収しとって、携帯忘れたって事にしてん」

「アニキ、策士やな」

「せやろ?」

「それだけや無いんやで?」

と晃くん

「遠山はどうして居らんのじゃって、騒ぐ
のも居ってなぁ」

2人は、煩いのを酔いつぶして逃げて来た
らしい

「ほな、オレはこれから彼女とデートや
冴島、和葉ちゃんと翠、よろしゅうな」

翠に似て長身のお兄ちゃんは、颯爽と
街中に消えて行った

以前、主将も務めた剣術の腕前のある人
えらい人気やったと聴いている

晃くんに送られて歩いてると、おばちゃん
と遭遇した

「あら、晃くん、ええねぇ、両手に花や」

男前が上がるなぁ、と笑うおばちゃん
ええから、みんなあがり、と言い、みんなで
平次の家に立ち寄った

「せや、和葉ちゃん
さっきなぁ、平次から電話があって、明日
には帰るそうや」

遠山さんには言うてあるから、今日は泊まっ
て行き、と言われる

「晃くんと翠ちゃんは、これから大滝ハンら
が来るから、送ってもらうから大丈夫やで」

泊まってってもええけど、学校の支度、無い
やろ?と言う事で、2人は夕食後、覆面パト
で送られて行った

今日買ったプレゼントを、そっと隠して
その夜は、私は平次の部屋で寝た

明日には、逢えますように、と祈りながら