07話 2月 7日
-St Valentine's Dayまであと8日


やばい
やばいぞ、これは

St Valentine's Day が近いと言うのに
恋人同士になって、初めてだと言うのに

オレは、最大のピンチを迎えていた

「平次なんて、大っ嫌いや!」

「オレかて、オレん事嫌い言う和葉なん
キライや!」

あぁ、どうしてこうなるかな
せっかく、最近、良い雰囲気だったのに

仲裁に入っていた晃と翠

走り去った和葉を、晃が追って行った
翠は、怪我をして、走れないからだ

「アンタの負けやで?服部」

翠は、ニヤリ、と笑う

「和葉は、アンタが嫌い、言うてたやろ?
アンタは、アンタが嫌い言う和葉がキライ
言うたんやもん」

あれ、オレの事、嫌いや言う和葉は嫌いや
けど、それ以外の和葉は好きや言うこと
やんなぁ?

和葉も、あわてんぼうやから、落ち着いて
考えたら、すぐ、判ることやのにねぇ?

笑い出した翠に、オレは目一杯不機嫌な
態度をとった

ケンカの原因は、大したことでは無い
オレが、ヤキモチ焼いた和葉を、ちょっと
だけ、からかい過ぎただけ

ただ、タイミングが悪かった

いつもの煩いオンナ達に、和葉なんか放置
して、浮気しよ、とか、色々からかわれて
いる現場に、和葉が現れたんや

しかも、和葉はその直前、オレらの交際に
異議を唱えるオンナらに、何やら言われて
いて、嫌な想いをしたばかりやったらしく

その事実を知らんかったオレは、逃げ出し
た和葉を、晃達と追いかけて、屋上に来た

あんなん、いつもの冗談や
間に受けるオマエがアホや
とか何とか

オレなりに、和葉を救うために言うたんや
けど、アカンかったらしい

震えながら涙を浮かべる和葉に焦り
焦れば焦るほど、口が滑り

その結果があのセリフだ

晃はちゃんと、和葉を宥め、翠共々、オレ
達を家まで連れて帰ってくれた

嫌い、言うたの、嘘やから
ごめん

そう言うた和葉は、今日は遠山家の中へ
消えて行った

家に帰ると、オカンは誰かと電話で楽しそ
うに話し込んでいて、電話が終わると、
ちょっと出てくる、と、風呂に入ってる
オレを残し、出て行った

夕飯、どないするつもりや、想うてたら
どうやらすぐ近所に行ってただけのよう
夕飯前には帰って来たらしい

食べ始めると、オレの前に差し出される皿

食べなくてもわかる
和葉の出汁巻きや

「和葉ちゃんがな、アンタにって」

「ん」

ちゃんと、お礼言わなアカンよ、と言うと
またしても鳴り出した電話に走るオカン

判っとる、言うねん
言われんでも、今日はちゃんとするし

後片付けをして、自室に入り、宿題やら何
やら済ませてから、メールした

うまかった
ごちそうさん

今日は、すまん
きにすんな

たったそれだけを送信するのに、1時間かか
ったオレを、人はへたれ、と呼ぶ

よかった、おやすみ

返事はすぐに届いたと言うのになぁ

St Valentine's Day が近いと言うのに
恋人同士になって、初めてだと言うのに

こんなんくだらんケンカするよりも
せなアカンこと、たくさんあるんやないか?

はぁ~

思わずついたため息は、深くなるばかり

果たして、こんなんで大丈夫やろか?
オレは、密かに不安を覚えていた

波乱の当日まで、後一週間

折り返し地点に到達したばかりのオレ
だった