Coffee break 2:taffy

<Side Kaori>

「初めまして 瑛里華(エリカ)です」

「マネージャーの東堂です」

翌日、大量のスーツケースと共に、依頼人は
やって来た

私は、2人をそれぞれの客間に通した

リョウは、朝、ミックに呼ばれて、ちょっと
行って来る、すぐに戻ると言ったきり、まだ
戻って来てはいない

昨夜は、今日からしばらくいちゃいちゃ出来
無いから、と言うリョウが、私を触りまくり
キスしまくったおかげで、私は朝からシャワ
ーを浴びるハメになって、大変だった

まだ、リョウとは一線を越えていない

キスやハグは、慣れだから、とか何とか言っ
て、毎日挑んで来るリョウも、イキナリは
オマエには無理だから、と言って、最後の
ラインはまだ踏み込まないでいる

一応、さすがの私も、それなりに覚悟をして
一緒に眠るようになったのに、これでいいの
かな、やっぱり、私相手だともっこりしない
のかな、と、段々と不安になって来た

仕事だから、今はそれどころじゃ無いけれど

荷物を片付けて、リビングに出て来た2人に
お茶を淹れた

事前に、彼女は珈琲が飲めないと聞いていた
ので、ミックに頼んで、紅茶の淹れ方と、
葉っぱを分けて貰ったのだ

「香だからね、特別に教えてあげる」

そう言って、1から丁寧に教えてくれた
私も、紅茶は興味があったので、シンプルな 
茶器を買ってみたのだ

「うわぁ、良い香り」

瑛里華さんは、喜んでくれた

一緒に、とミックが持たせてくれたtaffyと
言う、日本で言うところのキャラメルのよう
なものも、大喜び

「どうしてこれ(taffy)を?」

「あぁ、知り合いにね、紅茶の淹れ方を教え
て貰ったら、これも一緒にあげて、ともらっ
たのよ」

SALTY LOAD と言うメーカーの、SALTY
WATER TAFFY
パッケージもシンプルでカラフル
バニラ味と、塩味とベルガモット味をくれた

「この仕事を始める前に、NYに留学してた
んですよ、私」

その時に、友達に教えてもらって良く食べた
んです、と

懐かしいなぁ、と笑う彼女は、この間初めて
逢った時の影は無く、柔らかな笑みで魅力的
だった

「うちは、リョウと2人だし、アイツ、甘い
の、全然ダメなの」

だから、どうぞ、と言うと、いいんですか?
と、嬉しそうな顔をした

ふと、その時、射るような視線を感じて、
その方向に目をやると、東堂さんが険しい
表情で立っていた

何だろう、あの瞳…

私と目があうと、普段の彼の表情に戻った
けれど、どこか違和感を覚える笑顔だ

リョウが戻って来たのは、夕方だった

いつものごとく、瑛里華さんに迫りまくって
騒ぐリョウ
私は、窘める程度だったけど、あまりにも
しつこいので、伝家の宝刀を抜いた

「いい加減にしろ!」

ハンマーでぺちゃんこになっても、まだまだ
と言わんばかりに、依頼人に迫るかと思った
ら、拗ねて、東堂さんを捕まえ、こうなった
ら男のパラダイスに行こう!と開きなおり、
窓から向かいのミックに合図を送ると、連れ
だって出かけてしまった

何か、北尾刑事の時を思い出すなぁ~

リョウ、絶対、何か思惑があって連れ出した
んだろうな

「てか、夕飯、どうすんのよ!バカ!」

瑛里華さんがクスクス笑い出したのを聞いて
私は慌てて正気を取り戻す

「ゴメンなさいね、私達だけで食べちゃお
うか」

「そうですね」

2人きり、と言う事もあり、瑛里華さんは
とびっきり伸びやかな笑顔を見せてくれた
あ~、素敵な人だな、と思う

「私、今の仕事、続けるか迷ってるの」

留学中のNYで、スカウトされて、ちょい役で
映画に顔出ししたのがキッカケだったと言う

本人は、単発のアルバイトのつもりだった
そうだ

「演技なんかした事無かったし、監督や周囲
の人々がアドバイスしてくれたのを、その
まんま真似ただけなの」

でも、その映画はヒットして、彼女は業界の
人達の目に止まった

「次々と色んな人が来たし、色んな話が来て
びっくりしちゃって」

戸惑う彼女の背中を押したのは、他の誰でも
無い、当時の彼氏だったらしい

「その役が欲しくて、血を吐くような努力を
しても、手に入れられない人もいるんだ
これも、縁だと思って、頑張ってみなよ」

そう言われて、彼女は少しずつ話を受けて、
仕事をするようになったと言う

「彼は何をしてた人なの?」

「自分でね、旅行代理店を作って、経営して
みたいんだ~って言って、頑張ってた人」

苦学生だったけど、成績優秀で、学校でも
期待されていた人らしい

「私が試験頑張ったりするとね、ご褒美だ
って言っては、あのtaffyをくれたんだ」

彼女の顔を見ている限り、その彼との関係
はかなり良好だったのだろう
人生で一番充実してた、と言う留学時代の
話をする彼女は楽しそうだから

食後の紅茶を一緒に飲みながら、話の続きを
聞いていた

「段々ね、仕事が増えて、学校もあまり行け
なくなってしまった頃かな」

ある日突然、その日は訪れたと言う
海外ロケからアパートに戻った彼女は、愕然
としたそうだ

君の成功を見守っているよ
世界の、どこにいたとしても

彼が残した言葉は、それだけだったそうだ

どこを捜しても、見つからなかったと言う
学校も辞めてしまい、誰にも行方を告げず
彼は姿を消したそう

「哀しくて、辛くて、仕事なんてって思った
けどね、でも、私が仕事をしていれば、彼は
どこかで見てくれてるんじゃないかなって」

だから、がむしゃらに働いたの、と言う

「ゴメンなさいね、こんな話をして」

「ううん、いいの、私も聴きたかったし
初めて逢った日、瑛里華さん、嫌がらせに
何か心当たりがありそうな感じだったし」

私の言葉に、ちょっと困った笑顔を見せた
瑛里華さんは、意を決したように、私に首
から下げていた金色の十字架の凝った鎖
を渡した

「私には、死んでも護りたいものがある」

十字架の裏側に、模様に交じり数字が並ぶ

「私が死んでも忘れる事は無い、幸せを得
た日付なの」

3年前のクリスマスイブの日付だ
瑛里華さんが、彼と別れた年

「まさか、瑛里華さん」

「事務所も、東堂も、私の両親も知らない
秘密なの」

蓮ちゃんと言う女の子だそうだ
彼女は、妊娠をひた隠しにして、極秘出産
し、米国でシスターをしている友人に娘を
預けているそうだ

「羽純恭一郎って言うの、彼
付き合ってた頃ね、男の子でも、女の子でも
将来、子供を授かったら、蓮の字を使いたい
ねって言ってたから」

良く見ると、Rの文字も隠すように彫りこま
れている

「友人が、蓮を預かる時に、私が淋しくな
らないようにって作ってくれたの」

娘と、いつか彼と再会出来るように、と
彼の分と3つだけ、作られた特別なモノなの

繊細な金細工で、素敵なものだった

「東堂には、知られたく無いの
あの人、良い人なんだけど、仕事の為なら
何でもしてしまう危険な人だから」

香さんも気を付けてね、と言う

「私は大丈夫、後、秘密は護るわ」

危険を避けるために、娘の成長を示すものは
一切持ち歩かないと言う徹底振りに、
私は改めて彼女に聞いた

本当に、犯人に、心当たりは無いか、と

不用意に人を疑いたくは無いけれど、と前置
きした上で、瑛里華さんは教えてくれた

2人居る、と

1人は、マネージャーの東堂さん
最近、やたらと留学時代やそれ以前の事を、
探りを入れるように聞かれる、と言う

もう1人は、羽純さんの父親
最近、突然、瑛里華さんのマンションを訪ね
て来たらしい

瑛里華さんは、もちろん、羽純さん本人にも
蓮ちゃんの事は話してないし、まして、面識
も無いご家族には、もっと話してないと言う

「交際の事も、告げて無かったし、彼、実家
の事は何も詳しく話さなかったの」

だから、突然の訪問に驚いたと言う

息子の行方を知って居るか、と訪ねて来た
そうだった

ある日突然、アパートから消えてしまい、
困って1年以上捜し歩いたけど、行方は掴め
無かった、と言うと、難しい顔をして帰った
と言うのだ

「連絡先を教えてくれる訳でも無く、それ
どころか、お父様のお名前さえ、教えて頂け
なかった」

私と知り合わなければ、彼が失踪する事は無
かった、とか思っていらっしゃるのかな、と

自分が、交際相手だとどうやって知ったのか
さえ判らないままだと言う

「最近、身の回りで変わった事と言うか、
そう言うのは、この位しかなくて」

確かに、どちらも何か事情がありそうだ
リョウが帰って来たら、相談してみよう

久々のOFFだと言うので、ゆっくり休んで
もらうために、お風呂に先に入ってもらい、
部屋でゆっくりしてと告げると、そうします
と言って、彼女は浴室へと消えて行った

念のため、彼女の客間とマネージャーさんの
客間に変な仕掛けが無いかチェックして、
危険が無いように、トラップを仕掛けた

リョウが居ないので、アパートのチェックを
行い、セキュリティレベルを最高値にして、
私は片付けをしたり、自分もお風呂に入り
寝る支度を整えた

リョウからの連絡は無い
ミックからも無いところを見ると、今日は
午前様だわ、と思う

瑛里華さんが眠ったのを確認して、私は念の
ため、ソファで眠りについた

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<Side Ryo・1>

「リョウのところで、可愛い子猫ちゃん、
預かるんだって?」

朝からオレを呼びつけたミックは、開口一番
そう言った

どーせ、香から聞いたのだろう

「実はさぁ、昨日、香に紅茶の淹れ方とか
レクチャーしてたんだけど」

香といちゃこらした話を聞かせたいだけだっ
たら、帰るぜ、と言うオレに、話は最後まで
聞けよ、と笑うミック

「昨日、本国のスタッフと話をしてたらさぁ
子猫ちゃんの名前が出て来たんだよね」

ミックは今、表向きは米国の大手新聞社の
特派員として日本に滞在している
律儀に、ちゃんとそちらの取材活動もこなし
ているのだ

「だってボク、かずえをちゃんと養わなくち
ゃいけないからね」

心配しなくても、かずえちゃんの方がオマエ
より高級取りだよ!と突っ込むオレに、意味
深な笑みを浮かべる黒天使

瑛里華と言う名前の女優のたまごを預かると
オレは聞いていた

でも、たまごでも何でも無かった

彼女は、海外で女優として活躍していたのだ

大きな主役とかはまだ未経験ながら、名だた
る監督達から、直接オファーを貰えるクラス
の女優さん

日本での活動は未経験らしく、ちゃんと正式
に事務所に所属したのも、今回が初らしい

「デビューしてから僅か3年だぜ?」

ミックが寄こした資料を見ると、とてもそう
とは思えない数の出演作があった
主役では無いものの、いずれもその映画の
印象を強く残す役どころばかりだ

NYの有名大学に留学中、撮影中の監督に
見染められて、半ば成り行きで撮影に参加し
た事がきっかけだったらしい

その後は、口コミで舞い込む仕事を淡々と
こなしていたようだ、とミック

「ただなぁ、よーーーく調べて見るとな、
この3年の間に、3ヶ月だけ、彼女、仕事をし
てないんだ」

それは、デビューして半年程してからの事

でも、その後は絶え間なく仕事が続いてて
中には同時並行で撮影されているものもある

「主役はやらないから、プロモーションにも
顔を出さないし、取材も殆ど受けない
業界では、幻の名女優なんてニックネームが
付いてるくらいだ」

業界では人気が高く、監督の中には、そろそ
ろ主役を、と言う声もあったそうだ
それを振り切るようにして、日本へと活動の
場を移す彼女を、惜しむ声は多かったと言う

そこで、雑談ついでに、ミック、もし取材が
出来たらして来てよ、と頼まれたと言うのだ

「所属事務所は調べてみた、オマエより
オレの方が伝手は多いからね」

海外に活躍の場を移そうとする俳優も多く
抱えた大手事務所で、特に後ろ暗いところは
無さそうだ、と言う

「ただなぁ、あのマネージャーは、話が別」

「東堂、だっけ」

「あぁ」

新卒で今の事務所に入ってから、本人が志願
して、営業からマネージャー業に鞍替えした
と言う

営業成績はトップクラス
当然、会社としてはこのままの方がいいので
はないか、と言う話になったそうなんだが…

東堂の後任者が言うのには、アイツは正攻法
で仕事を取って来ていた訳ではなさそうだ、
と言ってるらしい

「脅し、か」

何かしらの弱みを握り、意のままに操る
それを繰り返して、のし上がったと言う訳か

「マネージャー業に変わって、瑛里華ちゃん
で3人目だ」

瑛里華ちゃんについて、まだ数ヶ月らしく
今のところ、トラブルは無さそうだけれども
その前の2件は、明らかに何らかの問題が
あった様子

最初についたグラビアの娘は、結局芸能界を
引退し、その後、亡くなっている

彼がマネージャーに付くまでは、順風満帆
オレも何度かミックに借りた雑誌で見た事が
ある娘だった

瑛里華ちゃんの前についていた女優は、
トレンディードラマへの出演が決まる直前に
撮影中事故に遭い、現在活動停止中で、
おそらくこのまま引退だろう、と言う話だ

「営業社員時代と同じ事を、しようとしたの
かもな」

ミックは、オレの趣味じゃねーと言って、
嫌そうな顔をした

いずれの場合も、東堂が担当するようになり
最初の数ヶ月は良好な滑り出しだった様子
だとすると…

「そうなんだ、そろそろ、瑛里華ちゃんも
危ない時期に差し掛かるぜ?」

確かに
ただなぁ、今回はちょっといつものようには
行かないんだよな…

ミックには口が裂けても「言いたくない」
ので、黙って思考する

通常運転のオレなら、いつものように彼女に
迫りまくって、緊張をほぐしてから話の本題
を聞き出すんだけど…

「現在」はマズイよなぁ、さすがに

毎日、一緒に寝るだけでもひと騒動なのに
最近、漸く、大人しく同じベッドに入って
くれるようになったばかりだ

このタイミングで、目の前で他の女に迫った
ら、間違い無く、ハンマーどころか、家出、
されるだろうな、確実に

仕方が無い、今回は、賭けてみますか
CHの絆にねっ♪

「ミック、今夜付き会え」

「え?オレ、オマエとなんかしたくないぜ?
香とだったら考えるけど」

安全装置を外した銃を突きつける

「はいはい、冗談でも止めます」

ホールドアップのミックに、睨みを効かせる
こいつには、容赦無く殺気を浴びせられる
からな

ミックに東堂を連れ出すのを手伝ってもらい
香がオレの行動を読んで、瑛里華ちゃん本人
から、公になっていない、何かトラブルの種
を持っていないか、聞き出してもらう事に
した

上手く行くかどうかは、香次第
頼むぜ、相棒

オレは、ミックのオフィスを借りて、もう少
しだけ、情報収集を続けた

[newpage]

<Side Ryo・2>

案の定、東堂は、中々シッポを掴ませない
嫌なヤローだった

でも、どこの店に行っても、女あしらいだけ
は、異常に上手かった

3件目に立ち寄った店で、馴染みのNo1が
オレにコッソリメッセージをくれた

「リョウちゃん、そいつとだけは、ツルん
だらダメだからね」

香もツケを払いに来てすっかり仲良しになっ
たこの娘は、むしろ今では、オレより香が
お気に入り
香と一緒に来ると、オレなどそっちのけに
されるくらい

「Thanks」

お礼とチップをこっそり渡すと、チップを
そっと返して来た

「またカオリン、連れて来てね」

にっこり笑った笑顔は、営業の笑顔では無い

全く、香の奴、プロのおねーさん達を骨抜き
にするなんざ、すげー技持ってやがるな

ミックも、別の店で女の子から同じような事
を訊き出していた

コレで、おそらく脅迫状のトラブルの原因は
コイツだ、と判る

後は、香だ

ミックとオレに担がれて、潰れない男はまず
存在しない
さすがの東堂も、5件目で、突然、潰れた

悪酔いするように、ミックと振りまわしなが
ら帰宅した

香の仕掛けたトラップにひっかからないよう
気をつけながら、東堂を客間に放り込む

「お!かずえが帰って来てるって」

じゃーなー、と、元気良く向かいの自宅に
飛ぶようにミックは帰って行った

瑛里華ちゃんは、客間でちゃんと眠ってた

それに引き換え、コイツは…

広いリビングのソファーで、毛布一枚にくる
まって眠っている相棒

軽くキスをして、頭を撫でるも、むずがって
目を覚まさない

よいしょ、と毛布ごと抱き上げて、寝室に
運び込んだ

オレも酔いを覚ましたくて、軽くシャワーを
浴びてベッドに潜り込んだ

香と一緒に眠るようになってから、オレは
寝室での喫煙を止めた

香の匂いをちゃんと感じたいから

潜り込んだベッドで、丸まって眠る香を自分
の胸元へと抱えこんだ

額や頬にキスをしてると、不意に香が目を
覚ました

「ただいま、カオリン」

「おかえり、リョウ」

待ってたの、話があって、と言う香は、頬を
染めながらも、小さな声で、瑛里華ちゃんの
打ち明け話をしてくれた

オレの期待以上の成果を上げてくれた香に、
良くできました、と言い、頭を撫で、ついで
にちゅーもしてやった

ハグしたり、戯れてる間に、ぐっすり眠る香

「お疲れさん」

肩までしっかり布団を掛けて、抱き寄せれば
ふんわりいつもの柔らかい香りがするし、
寝顔はどこかまだあどけなさが残る

しっかりと抱き締めなおしたオレの胸に込み
上げるのは...

Bitter sweet 

ふわふわと甘い気持ちと、ほろ苦い想いが
交差する

ほんのりと暖かい香を胸元に抱き寄せて、
大してエロい事もしてないのに、満たされる
感覚は何なのか

オレらしくもない、甘い夢に浸りたい気持ち
になる

香の首筋に指を滑らせ、肩や背中を緩やかに
撫で上げる

顎や耳元、柔らかな髪にも指を入れながら
緩やかなキスを送ると、いつしか自分も、
ゆっくりと微睡み始める

オレも、ほんの僅かな眠りについた

翌朝、香が目覚めたところを捕まえて、オレ
はキスをしながら身体を弄り、香にこれから
の計画を話した

「今日は、ちょーっとだけ、先に進もっか」

ニヤリ、と笑い、オレは布団の中に潜り込む

指先や掌では触れるようになった香の身体に
自分の唇を触れさせた

時間も無いし、依頼人も居るし、アレだけど
少しずつでも進めないと、流石のオレも、
もうガマンの限界、だから

まだ寝起きで、完全に覚醒しきっていない香
も、最近のオレとは違う動きに、身体を強張
らせた

するり、と上着を脱がせて背中にキスを

心臓の上あたりに軽く吸い付くと、真っ白な
肌が淡くピンク色に一気に色づいた
滑らかな肌に頬を寄せ、背中越しに抱き締め
て行く

「前は、夜ね」

耳元に、ワザと低い声で囁いた

あ~あ、真っ赤だよ
かーいぃなぁ、カオリン

くるん、と振り返る香は、真っ赤な顔で、
瞳は涙目だ

ふるふる震えて怒る姿は、逆にめちゃくちゃ
煽られるんですけど?香サン

いっつも、急なんだから!
アンタはプロでも、こっちは初心者だっつー
の!忘れんな!

オレに脱がされて、乱れた上着に気がつきも
せず、振り返り怒る香は、イキナリ反撃して
に来た

がぶっ

い、痛てぇっ!!

肩に噛みつきやがった

コノヤロウ
オレが目一杯、手加減してやってるっちゅー
のに、この天然は、全く

覚えてろよ!

夜、と思ったけど、ちょうど目の前にあるし
もうやっちゃうもんねっ

香の掌は、ハンマー召喚させないように握り
こんで、開きかけた上着の隙間から顔を突っ
込み、背中に付けた跡と同じ位置にキスを

あっ、と言う声にならない前に、一気に行き
たい気持ちになるけれど、今日は色々しなく
ちゃいけない事があるから、そろそろ時間切
れだ

「からかってる訳じゃねーぜ?
依頼じゃなけりゃ、やりたいくらいだし?」

真っ赤な顔、潤んだ瞳
めちゃくちゃそそるんだけどな

軽くキスをして、服を直してやった

「脱がすんじゃなくて、着せてあげるのなん
て、始めてかもしれない」

ば、ばかっ!

あ、ありがと、と言うと、パタパタと部屋を
飛び出して行った香

あ~、危なかった
危うく、全部いただいちゃうところだった

香とは、ゆっくり時間をかけて、初めてを
超えたい

今迄、散々、優柔不断で、曖昧な迷いまくり
の態度でオレが傷つけた分、もう迷いは無い
事を報せるためにも

ちゃーんと、計画、してるんだ
ぐふっ

だから、この依頼、さっさと片付け無いと
間に合わなくなっちゃうんだ♪

さーて、本気出していきましょうかね

キッチンで、朝飯作ってる香に、今日の予定
ちゃーんと覚えてる?と確認すると、すっと
いつもの顔をして、任せといて、と言う

香もすっかり、CHのパートナーとして、成長
したな、と思うのは、こう言う時

頼むな、と言い、髪をくしゃりとすると、頬
を染め、照れた顔を見せた

さ、そろそろ瑛里華ちゃん達も起きて来る頃

リョウちゃんも、お仕事モードに切り替えま
すかねっ

まずは、一服、とオレは屋上へと上がった

Fin.