■scene:06_side Heiji


事件に巻き込まれ、帰宅が間に
合わず、修学旅行に行けへんよ
うになってもうたオレ

出発時間は過ぎてもうた

ホンマは、修学旅行で和葉に
告白しようと思うてたんやけど

ホンマ、アホや、オレ

帰宅したオレは、唖然とした

修学旅行で北海道にいるはずの
オンナが、居るねん

半纏着て、真っ赤な顔して

「オマエ、修学旅行どないしたん
てか、何やってん」

「どないしたん、はアンタもや」

ハスキーボイスの和葉は色っぽい
いや、違う、風邪ひいたんか

「和葉ちゃんなぁ、風邪引いて熱
出して行けんようになってもうた
んや」

和葉に生姜湯飲ませながら、オカ
ンが眉をひそめた

「熱やって、今朝、漸く下がった
んやで?」

でもなぁ、この声、まだまだやろ
と苦笑するオカン

「2人共修学旅行に行けんなんて
全くもう、先生にも欠席連絡する
ん気まずかったわ」

あ~、こらみんなが戻って来たら
騒ぎやな、とため息が出る
美味しい思いも出来てへんのに

「行きたかったなぁ、楽しみや
ってん」

ハスキーボイスの和葉はしゅんと
しとる

オレ達は一緒の班やったんや

函館、札幌、小樽、3泊4日の旅
自由行動の時、和葉と抜け出す
つもりやってん、オレは

あ~あ、最後の修学旅行やった
んに、なぁ

「アンタら、5日間もどないす
んねん」

りんご剥きながら、オカンが
聞いた

今日から4日間、旅行の後、1日
休みがあって、計5日間学校が
無いねん

途中から参加、言うのもアレや
しなぁ

「途中から参加も変やし、せや
ええもん、譲ってあげるから
行って来たらええわ」

オカンがチケットを出す

「淡路島?」

「いや、ここ、めっちゃええ
リゾートホテルやん!」

知り合いの何かを助けた礼にと
貰ったらしいペア宿泊券
親父の都合が一向につきそうも
無いから、使え言うねん

「2人で、遊んで来たらええよ
家に4日も閉じこもってたら、
アカンようになってまうから」

和葉は大喜び
オレは非常に、複雑

その夜、予想通り、オカンがオレ
を呼び出した

「アンタ、携帯は置いて行きな
さいね?」

あと、和葉ちゃんに悪さしたら
海に沈めてまうから、と釘刺し

「ちゃんとケジメつけて、責任
取れん間はあきません」

へいへい、わかりました~

そう言うて、部屋を出ようとする
オレに、軍資金を差し出す

天変地異か?
明日は地球滅亡か?

「和葉ちゃん楽しませるためや
昨日はなぁ、泣いて大変やった
んよ、修学旅行どないしようっ
てなぁ」

熱があるのに、泣くから余計に
酷くなって、結果的にあの声に
なったらしい

「まだ本調子や無いから、無理
はさせたらアカンよ?」

翌朝、修学旅行に持って行くはず
やった荷物の一部を持って、オレ
は和葉を背に乗せて、愛車で目的
地を目指した

明石海峡大橋もちゃんと見学して
コスモスが咲き乱れている公園
にも足を運んだ

オカンに言われとるから、ちゃん
と和葉と2人、訪れた場所で写真
撮影をする

植物館にも、フルーツ農園にも
立ち寄り、伊奘諾神社も行った

ホテルは和葉が言うてた通りに
豪華なリゾートホテルやった

「平次、見て!」

ベランダから海が一望出来る
ツインやけど広い部屋

少しマシになったとは言え、
和葉の声は相変わらずハスキー
なままや

こら夜もええ景色が見られる
やろなぁ、と思う

はしゃぐ和葉と館内探査をして
夕飯までの時間を潰した

事件がオレを呼ぶんか
オレが事件を呼ぶんか

夕飯の席で、オレは事件に遭遇
して、和葉に半目で睨まれる

「はい、どーぞ
私は先に部屋に帰るし、ほな」

オレに自分の携帯差し出すと
さっさと部屋に帰ってもうた

ホンマは夜、和葉が楽しみに
しとった、明石海峡大橋のライト
アップを見に行く予定やった

はぁ~、つくづくついてへんなぁ

散々走り回り、解決したのは深夜

部屋に帰って、オレは項垂れる
和葉は当然、熟睡中

仕方無く、風呂に入ってベッド
に横になった

サイドテーブルにあった和葉の
Walkmanを聴いてみる

風が遠くへ雲を運んで 満天の星空
が見える

あぁ、せや、と思い静かにベッド
を抜け出す
ベランダから見える夜空は圧巻
暗い海も見える

月と星達が 無数に造る 
ホログラフィー
もう少しだけ背が高いなら
届きそうに

和葉を起こそうか迷って諦めた
漸く眠りについたんやろうから

今度は、天体観測が出来るとこ
一緒に行きたいなあ

眠る前、和葉の額にかかる髪を
払ってやり、そっと頬を撫ぜた

おやすみ、和葉

小さな声で呼びかけて
頬と唇に軽くキスを

うちの眠り姫は、この程度では
目覚めてくれへんのや

お目々ぱっちり開いてくれたら
言いたい事、あるんやけどな

ため息をついて、自分のベッド
に潜り込み、無理矢理目を伏せ
眠りについた

オレが目覚めた時、和葉はもう
ベッドには居らんかった

...おはよう、と目覚める和葉が
見たかったんに

どこへ行ったんや、と思い、起
きると、ドアが開いて和葉が帰
って来た

「あ、平次、起きたん?」

「あ、ああ、オマエどこ行って
たんや?」

「ん?散歩や
なぁ、見て!凄いやろ?」

へ?

オレのベッドに飛び乗り、隣に
座ると、お気に入りの一眼レフ
で撮影して来たと言う写真を見
せてくれる

キレイな朝焼けの写真より
くっついとる和葉の方が、オレ
としては非常に気になるんやけど

無邪気に笑いかけられ、毒気を
抜かれるアホはオレ

急に現在のシチュエーションを
思い出し、ドキドキが止まらない

のんきに笑う和葉は、完全に、
オレの事、男としては見てへん

わかってはいたけど
目の当たりにすると、切ない

和葉の腕を掴んで、自分に引き
寄せた
目を閉じて、額を合わせる

目を開くと、唇が触れそうな程
近くに見える、驚く和葉の顔
大きな瞳が落ちそうな程見開い
ていた

じっと和葉の顔を見て、離れた

「熱は無いみたいやな」

にやり、と笑いかけた
途端に、真っ赤に染まりあがった

あれ、全然意識されてへん訳では
無いみたいやな

その事に安堵するオレ
まだ、意識してもらえるチャンス
はあるんや、と

何を1人で笑ってんの、と真っ赤
になって怒る和葉を宥めて、一緒
に朝食を食べに出かける

「楽しかったのに、みんなに話し
出来へんの、残念やな」

ぽつんと和葉はそう言うた

そらそうやろ

修学旅行さぼって、2人で旅行し
てました~なんてことバレたら
さすがに懲罰もんや

「何でもかんでも、誰かに話し
てええもんちゃうやろ」

「そらそうやろうけど」

「ええやん、楽しかったんなら
それで」

秘密、もたまにはええやろ?と
言うと、せやね、と笑った

ふわりと笑った笑顔が眩しい

いつか、昨夜聴いたあの歌の2人
みたいに、夜の海と星空を見に
行こう

きっと、喜んでくれるはず

ふとそんな甘いことを考えている
自分に気がついて焦る

オレ、好きやって気づいた途端、
物凄いスピードで惚れとるやん

まだ何も告げてへんのに
想いだけが先走る

アカン、どないしよう
まだ、相手は全然、スタートすら
してへんのに

元気に朝飯を目の前で食べとる
和葉を見て、ふと笑ってしまう

ま、ええか
和葉がご機嫌で、笑っててくれたら
それで

淡路島の観光を目一杯楽しんで
オレらは家に帰る

「おかえりなさい、和葉ちゃん、
楽しかった?」

「めっちゃ楽しかった!」

オカン相手にはしゃぐ和葉を見て
現在はこれでええんや、と自分に
言い聞かせた