▪️28:00 still love her / side Kazuha 

久しぶりに、写真の整理をした

お気に入りの写真は、ちゃんとデータ
ごと保管している

短期留学の時、気まぐれで応募した
写真を気に入られ、素人ながらも
広告に利用された事もある

著名な写真家やと言うその人も
業界の人にとっては、神様みたいな
人らしい
でも、私と平次にとっては、気のええ
英国のおじいちゃん

「和葉、日本人にとって、20歳は
特別なんだろう?」

そう言うて、平次と2人、写真を撮って
くれると言うた

平次と2人で成人式に着る予定の
着物をおばちゃんに送ってもろうて
振袖に羽織袴姿で行くと、大喜び
された

「日本は着物、こちらはドレスだ」

お祝いに、と私にロイヤルブルーの
イブニングドレス、平次に燕尾服を
用意してくれて、それでも写真を
撮ってくれたんよ

「和葉も撮っていいよ」

その代わり、後で見せてね、と言われ
私も自由に写真を撮った
一眼でも、もらったライカでも

撮影した写真を一緒に見てもらって
その中から、良い写真を選んだ

撮り方のコツや、色々なコツを教え
てもらった

「和葉、1日だけ、彼と一緒にモデル
をしてくれないか?」

平次は何やらおじいちゃんと交渉
して、OKと返事をした

「何を交渉したん?」

「ヌードだけはNGや、言うたんや」

「はぁ?」

いくら芸術でも、それだけはアカン
アレはオレだけが見てええもんや
とぷんすか怒る平次

「普段の2人でいいんだ
特にポーズが欲しいわけでもない
普段通りでいい」

お気に入りの家で、学校で、近所
のスーパーで、公園で、色々な
場所で、撮影された
バイクで走るところも、車も

黒羽くん達と遊んでいるところも
撮られた

私も言われて撮影した

「和葉、自分でこれがベストだと
言える写真を、365枚選びなさい
選んだら、データごと、私に見せ
てくれるかい?」

自分で撮った写真限定で、365枚
分を選抜しろという課題

直近の中から選抜を始め、少し
ずつ過去へ遡る

「写真を選んだら、1枚ごとに
何故それを選んだのか、コメント
も付けておいてね」

そう言われたので、365枚目から
順番に、写真とコメントを付けて
行った

この間の撮影で撮ったベスト
ショット

平次とバイクで出掛けた先で撮
ったもの

結季ちゃんが産まれた日の写真

少しずつ、少しずつ、私と平次の
歩みが解かれて行く

ほんの少し前の事なのに、随分
昔に見えるのは何故だろう

ほんの少し前の事なのに、何故
懐かしく思うんやろう

1枚1枚に刻まれた私達の想い出
の欠片
どれも愛おしくて、どれも懐かしくて
大事な欠片やった

1枚目、に選んだのは
プロポーズされた日の2人の写真

神戸で、まだその日、プロポーズ
されるとは思ってへん時の私と
平次が映った一枚にした

「撮ってあげますよ」

神戸の街を歩いていた私達に
シャッターを押して欲しいと
頼んだ親子連れが居たんよ

その時、突然そう言われて、
携帯で撮ってもらったん

その後、私も撮りたくなって、
平次に一緒に撮ってええ?
言うたら、ええでって言われて
2人で寄り添って自撮りしたん

笑ってピースしてる私達は
現在、こんな暮らしをしとる
なんて知らん頃の2人

私に至っては、プロポーズされ
るなん、夢にも思ってへん頃

付き合い始めに撮った写真も
平次の部屋で撮った写真も
自然な2人の笑顔や、掌や
後ろ姿が切りとられている

並べて見て、初めて気が付いた

平次が、少しずつ背が伸びて
少しずつ表情が大人になって
行く様子が

私も、少しずつ顔立ちが変わっ
て行く様子が

「へぇ、ちょっと前なのに、何や
懐かしいなぁ」

提出用にまとめたものを見ながら
平次もそう言うた

「オレ、この1枚目から比べて15
センチくらい背が伸びたんやな」

「ホンマや、おばちゃんと2人、
大変やったんやで?アンタの裾出し
したり、洋服買い直しすんの」

今となっては総て、懐かしい想い出
の1ページやけどな

おじいちゃんに届けに行くと、嬉し
そうに笑って、じっくり見させても
らうな、と言った

後日、我が家に招待状が届いた

招待状と一緒に届けられた箱には
私と平次用の服やら靴やら一式が
揃えられていた

おじいちゃんが、久しぶりに写真展
を開くとあって、招待されて向かった
ギャラリーは、人で溢れていた

実は、私がおじいちゃんの写真を
見るのは、コレがまだ3回目の事

平次と2人、入った時から何や
お客さんによう笑顔を向けられる
のは何でやろ、と思うてたけど
その理由はすぐに判った

たくさんある作品の、一番目立つ
ところのコーナーに、この間撮影
された写真が、堂々と展示されて
たんよ

最近出来た、若い友人夫妻と共に
と書いてあった

私が撮影した、おじいちゃんと私と
平次が仲良う並んだ写真もちゃっ
かり展示してあった

photo by K

ちゃんと片隅にそう表記して

たくさんの人に囲まれてたおじい
ちゃんが、私と平次に気が付いて
近づいて来た

お花を渡して、軽く挨拶のハグと
キスをする

「和葉、作品を見た感想は?」

にっこり笑ったおじいちゃんに、
どれも自然で、どれも素敵な日常
で、心を惹かれた、と素直に言うた

もう一度、原点に返って写真と
向き合おうと思ったきっかけは、
あの小さなコンテストに私が初め
て応募した写真やと言われた

双子ちゃんとお母さんを撮った3枚
組みの写真

あれは、写真を気に入ったお母さん
が私に内緒で応募したんや

被写体に寄せる愛情が見える
ええ写真だった、と褒めてくれた

双子ちゃんとお母さんの絆が見える
ような写真で、とっても心を揺さぶ
られたんだよ、と言う

「何故かわかるかい、和葉?」

首を振る私に、諭すようにに言った

「何でもない日常が、一番の宝物
だからだよ」

特別な日ばかりが大事なんじゃない
何も無い1日が、積み重なる事が
大事なんだ、と

「和葉の写真と、和葉に逢えて
良かった」

そう言うて、ハグしてくれた

「残念ながら、和葉は写真よりも
研究者の道を歩くらしい
本当に残念だよ
でも、成功を祈っているよ」

平次に向かって、そう言うと、平次
にも、そのままでいいから、2人で
仲良く歩いて行け、と言うた

その後のパーティーにも呼ばれて
私達はそこで、久しぶりに対面した

「お久しぶり、服部くん」

「久しぶりだね、和葉ちゃん、平次
くん」