★2015年 遠山の日に寄せて

「服部、オマエのところは多胎妊娠
やし、嫁さんの身体にも負担が大き
いやろ、今のうちに有休、取れ」

立て続けに事件があって、中々家に
帰れん日々が続いとったんやけど、
漸くそれも落ち着いた頃、上司に
呼び出され、そう言われた

オレの後、晃にも休暇を取らせると

和葉の体調もあるし、遠出は厳しい
大きな事件が起きれば、駆けつけな
ければならん

 色々考えて、クリスマスには一緒に
居てやれそうも無かったから、その
記念日分もまとめて祝おうと決めた

「え?お休み取れたん?」

嬉しそうに笑った和葉を連れて、
オレは京都に行った

少しええホテルの広い滞在型の部屋
を手配したんや

「凄い!平次、部屋に露天風呂が
付いとる!」

はしゃぐ和葉に、ホテルの案内係も
笑っていた

ホテル側には、和葉が妊婦である事
を知らせてある
避けた方がええ食材もあるからや

部屋で食事も出来るし、風呂にも好
きな時に入れる

普段、ゆっくり2人で過ごせん分、
2人で、羽根を休めたかったんや

恥ずかしいと言う和葉を宥め、タオ
ルで身体を巻いた和葉を抱えて一緒
に部屋の露天風呂に入ってみた

「凄い景色やな」

「ホンマやねえ、キレイや」

後ろから抱き抱えとる和葉の肩に顎
を軽く乗せて、一緒に秋が深まった
京都の紅葉を見て楽しむ

「妊婦や無かったら、バイクで来た
かったなぁ」

「ホンマやね、きっとめっちゃキレ
イやったろうね」

くだらない話をしながら、
たくさんの思い出話をしながら、
色っぽいシチュエーションにもかか
わらず、オレ達は何故か笑い転げた

「オマエは、ロマンチックなんが
好きなくせに、いざとなると必ず
お笑いになるんやな」

「え?」

初夜の時もそうやったやろ、と言う
と、一気に真っ白い肌が赤く染まる

あわあわ言う唇を塞ぎ、宥めるよう
に背中を叩いてから、風呂から上が
った
妊婦に温泉長湯はアカンからな

風呂上がりの和葉に、マッサージを
ゆっくり丁寧にしてやる
何せ、この細っこい脚で、3人分の
命を支えとるからな

「今年はな、蘭ちゃん達も、黒羽く
んとこも、正月、顔出すって」

「そうか、まぁオレと晃は無理やろ
うけどな」

「年末年始は忙しいもんな、仕方な
いやろ」

2人で、広いベッドに転がって色々と
WEBチェックをした

ベビー用品やねん
何せ我が家は一気に2人、何でも2人
分が必要になるからなぁ

「ベビーカーとベッドはな、レンタル
にしよ、思うて」

すぐに大きくなってまうし、成長に
合わせた方がええやろ、と和葉

「おばちゃんともな、一緒にまとめ
て注文しよ、言うてんの」

産後、仕事復帰せなアカン和葉のた
めに、と、オカンがしばらく面倒を
見てくれることになっとるんや

和葉の母親代わりや、と言うてん

ベビー用品は、実家の方にも用意せ
なアカンねん

「おばちゃんがな、双子でよかった
と思う反面、頭が痛い、言うてた」

「は?」

「お父ちゃんらがな、張り合って、
府警に背負って連れて行ってまうん
やないかって」

子供を背負ったスーツ姿の2人、確
かに想像出来てまうから怖い

「私はアンタが心配や」

「え?オレ?」

「せや、アンタや
結季ちゃんの時、背負ったまんま
事件に飛び出したやろ」

確かに、冗談やったのが現実になっ
て、後から和葉にめっちゃ叱られた
んやった
灰原の姉ちゃんは苦笑いしとったけ
どな

結季は可愛ええ賢い女の子になった
2歳半違いで生まれた妹は、少しだ
けお転婆な女の子らしい

「オレと黒羽が風呂入れたりミルク
飲ませたり、オムツ替えたりしてや
ってたんになぁ」

最近ではその話題になると、Skype 
越しに拗ねるようになったからな

子供の成長はあっと言う間や

工藤の弟、花音ももうすぐ9歳のや
んちゃ盛りやし、英国の双子ちゃん
かて、間も無く10歳や言うてた

膨らみ始めた和葉のお腹にキスを

「オマエらはゆっくりでええで?
あんまりお母ちゃん困らせたら
アカンで~」

「せやね、ゆっくりでええ
あんまり早う成長されたら、私、淋
しいしな」

お腹を撫でる和葉の掌に、自分の掌
をそっと重ねた

「ところで、こいつらはどっちに似
るんやろな」

「顔とか?」

「せや、顔とか肌とか?」

「一代前に似る、言う話もあるで?
アンタがそうやん
瞳はおばちゃん似やけど、肌はじっ
ちゃん譲りやし?体格はおっちゃん
似やもんね」

「オマエは上手い事、美人なおばち
ゃんにも、親父さんにも似たもんな」

和葉の母親は、今写真を見ても判る
程、別嬪さん
おっちゃんが今でも一番や、と言う
気持ちも判る

「お母ちゃんに似てる?私」

きょとん、としとる和葉

「あぁ、めっちゃ似て来たで」

お腹が膨らみ始めた頃くらいから、
少しずつ、ふっとした表情が似て
来たんや、ますます、な

「そら良かった、お母ちゃんは私の
自慢やったからな」

にっこり、満足そうに笑った

「でも待てや、一代前に似る言うた
ら、親父やオカン達に似たんが出
て来る、言うことか?」

「当たり前やん、アンタ、おばちゃん
の子やろ?」

頼むから、夜叉には似ないでくれ、
と思うオレ

あんなん怖くて敵わんわ
喧嘩したら親父かて、土下座で
謝罪やからなぁ

ぶるっと武者震いをしたオレを見て
和葉は吹き出した

「どっちの家に似てもええわ
私とアンタの子に違いは無いん
やから」

でも、と和葉は言うた

「ひとつだけ、似て欲しい無いとこ
あんねん」

「ん?」

「アンタみたいに、事件に首突っ込
んでばっかりやったら、私の心臓
いくつあっても足りん
おまけに、2人揃ってそんなんなっ
たら、アンタの心臓かて足りんで」

父子2代揃って探偵言うんも悪くな
いかもな、とふと思うたオレ
和葉が半目で睨んでいるのも気が
つかんと、思わず想像してニヤケて
しまう

「子供まで事件追うようになったら
私、絶対、家出するかんね」

ふんっ、とくるりと背中を向ける和葉
本気で怒っとる様子

「アホやなぁ、まだどうなるかなん
判らんやろが
生まれても無いし、性別も判らん
のやで?」

でも、と口をとがらせてふてくされる
顔は、幼い頃からよう見た表情
女の子やったら、和葉に似て欲しい
な、と思う

くるり、とこちらに向かせ直して、
いつもの定位置に抱き寄せた

「探偵云々は置いておいて、オレ
女の子やったらオマエに似て欲
しいねん」

「何で?口うるさくて頑固なんが
出て来てまうで?」

思わずオレは吹き出した

「そんなん言うたら、オレに似たら
口が悪くて天邪鬼なんが出て来て
まうで?」

えー、と言うた和葉

「でも私、男の子やったらアンタ
に似た子がええな
もう一度、逢ってみたいん
小さい頃のアンタに」

零れるように笑った和葉に、吸い
寄せられるようにキスをした

どっちでもええわ

元気に無事に生まれてくれたら
この世に生を受けてくれるなら

そう思うたんや

どこへ行くでもなく、一緒に音楽
聞いたり、窓から景色を眺めたり
お風呂に入ったり、ごはん食べたり
ゆっくりのんびり2人だけの時間を
満喫したオレ達
正確には、4人で、やけどな

1泊2日やったけど、十分に満たさ
れて、自宅へと戻った

「平次、子供部屋の事なんやけど」

「おぉ、そう言えば空っぽのまんま
やもんな」

「平次はどう思う?」

子供部屋を持たせた方がええのか
子供向けの家具を置くべきか
最初から長く使えるものを置くべき
なのか

小さいうちは、ベビーベッドを寝室
に運び込めばええ
我が家は寝室を広く取ってあるので
ホンマはもう1つベッドを入れてもOK
なんや

「和葉はどう思う?」

「私は、2人共、物を大事にして欲し
いし、自分達で仲良う分けあって
助けあって生きて欲しい」

だから、おもちゃは2つ同じものは
買わんと言う

「せやな、オレも願うのは、助けあっ
て成長していって欲しい、くらいや」

「なぁ、書斎作ってくれた人に頼ん
でみいひん?」

私、あの部屋、大好きやねん、と
和葉が言う

今回は急ぎでは無いし、それええな
と言う事で、後日、和葉と2人で工房
を再び訪れた

「え!いやぁ、それはおめでとうござ
います!えらい、楽しみやろな」

職人の親子は元気で、和葉の懐妊
と子供部屋の相談をすると、喜んで
と引き受けてくれた

和葉は工房のおもちゃを楽しそうに
見て歩いた

双子やけど、出来るだけ2人で協力
したり、支え合って育って欲しい

物を大事にする子になって欲しい

オレ達の希望なんて、それくらいや

設計図と空っぽの部屋の写真を
預けた

「生まれるんは来春やし、実際に
2人が使うんはずっと先ですけど
よろしゅうお願いします」

工房からの帰り道、和葉に言うて
黒羽の嫁さんと連絡を取った
お印を考えて欲しい、と

何も言わず、後でデザイン画を
送りますね、と言うてくれた

晃のところと、2家族分、3人の子
のデザイン画が送られて来たん
はすぐの事やった

晃のところには、イニシャルに
ちゅうりっぷが2つ寄り添うように
並んでいるデザイン

うちには、Rのイニシャルに、
ひとつはさくら、ひとつはすずらん
のデザインやった

「めっちゃ可愛ええ!」

翠も和葉も大喜び
2人とも、もらったデザイン画を
飾ることにしたという

晃が額縁を用意してきてくれて
お互いの家のまだからっぽの
それぞれの部屋に、デザイン画
を飾った

「ご相談があるので、近々お伺い
させてください」

デザイン画と一緒に添えられて
いた黒羽の嫁さんからの手紙

手紙通り、黒羽の嫁さんは単身
帰国して来た