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正月は、戦争やった

和葉見たさに押し寄せた来客は多く
予想以上の来客数になった

2日目は、元旦の和葉を見た口コミ
が広がったんか、関係者の知人やら
友人まで一緒に押し寄せて、工藤達
に連絡して、到着を夜遅くに変えて
しまったくらいや

「平次、工藤くん達への挨拶は明日
でええから、和葉ちゃん連れて部屋
に入ってなさい
ご飯は後で持って行ってあげるし」

「スマンな」

来客が多い家ではあったけど、今年
の来客数は異常やねん

車で来るアホも多くて、近所に迷惑
かけるんで、親父達に電話して、
正月早々駐禁の取締してもろうた
くらいや

オカンも、来年から出禁にする来客
をひそかにピックアップしとった

今まで一度も顔を見せた事も無い
面々が、遠縁を名乗り、知り合いを
従えて来たんや

それで、和葉を呼びつけては、一緒
に写真撮ろうとしたり、隠し撮りし
ようとしたり、あまりに目に余る客
には、オレよりも黒羽がキレて追い
出した

「仮にも人妻ですよ?主人に切り殺
される前に退場された方が良いかと」

慇懃無礼なハンサムに、逃げて帰っ
た客は数知れず

「すまんな」

「いいって、アイツら、青子にも
ちょっかい出そうとしたからさ」

和葉について、一緒に来客対応に追
われる彼女も、可愛ええから人気で
あちこちから声がかかった

じっちゃんの弟は、黒羽と彼女を
えらく気に入って、自分の傍に置き、
和葉共々遊んでいた

じいちゃんは服部家の長やし、誰も
逆らえん程の実力者

じいちゃんが和葉達を離さん限り、
誰も、傍若無人に呼び寄せる事は
出来んのや

「おおきに、助かったわ」

「せやろ?じいもたまには役に立つ
んやで?」

いたずらっぽく笑ったじいちゃんは
オレや和葉に例年通り年玉をくれる
と、黒羽達にも渡した

「え?いいです!」

ぶんぶんと首を振る可愛ええ2人に、
気を良くしたんか、笑いながら言う

「来年もじいと一緒に遊んでや」

遊び代やから、と言うていつもより
遅くに、じいちゃんは帰宅した

じいちゃんが帰ると、次々とまた
無茶をする面々が現れて、ついに、
オカンがキレた

「うちの嫁に何するつもりや!
勝手な撮影も困りますし、それ以上
勝手なコトするんやったら、二度と
敷居は跨がせへん!」

「平次!和葉ちゃん連れて上へ行き
なさい」

すでに人に酔って真っ青になってい
る和葉を抱え上げて、オレは部屋に
上がった

「ちょぉ待っとけや」

和葉にそう言うて、オレは階段を降
りて、オカンに言われて退場しよう
としたグループを呼び止めた

「データ、消してくれんか」

最初はとぼけとったけど、外に居る
警官に立ち合わせるぞ、と脅すと、
渋々、鞄やポケットから隠しカメラ
を差し出した

全部回収して、携帯からもデータを
目の前で消させることにしたが、そ
の前に、聴いておかなアカン

「で?どいつが、遠縁やって?」

グループの面々が、責任のなすり付
け合いを始めたが、すぐに1人に絞
られた

遠縁でも何でもない、ホンマの遠縁
の1人の学校の知人やって言うて、
家やら何やらの事は、そいつに聞い
て知っていたと言う

「和葉さんのファンだったんで」

潜り込んだ動機はそれやったと言う

「それにしても、徒党を組んで乗り
込んで来たり、隠しカメラまでこん
なん仕込んで、ホンマは他の目的も
あったんちゃうんか」

ここまで数が多いと、こっそり写真
を撮りたかっただけではない、と
思うたんや

「マスコミに高値で売るつもりだっ
たって、素直に吐いた方が身のため
だぜ?」

黒羽の言葉に、オレはさらに怒りを
覚えた

「ホンマか」

ひっ、と言う息を飲む音が聴こえた
けれど、オレは容赦なく問い詰めた

「大滝ハンか?スマンけど、引き取
りに来てくれへんか?
和葉の事、盗撮しようとしたアホが
集団で現れたんや」

和葉の一大事、と、普段宴会に集ま
るおなじみの面々が飛んで来て、
証拠共々全員を連れ去った

オカンがその親戚を親共々出禁にし
たんは当然の事

黒羽は、ちゃんと盗聴器やらカメラ
が勝手にしかけられてへんかも確認
してくれて、彼女と2人で家中を
チェックしていくつか見つけてくれた

親父達がぶちキレたのは他でもない

学生に、もぐりこませて高値で写真
を買おうとした記者も捕らえ、その
出版社にも、今後記者会見出禁がえ
えんか、と猛烈に抗議した

「大丈夫か?」

「うん、ちょっと気持ち悪いだけや」

和葉は真っ青で、額に汗が滲む

慌てて、着物を脱がせて、部屋着に
着替えさせた

自分もついでに着替えてしまう

「ちょお支度してくるから、ちゃん
と横になっとけや」

和葉と自分の着物をまとめて、
オカンの部屋へ行った

先程の捕り物劇をみて、にわか客は
我先にと帰り、残っていたのはいつ
もの面々で、それももう夕方なので、
例年通り解散になっとった

「オカン、和葉、気持ち悪い言う
とんねん」

着物を返しながら、オカンに言うと
もう今日は夜に工藤くん達が来る
だけやから、シャワー浴びさせて
寝かせてあげてや、と言う

和葉を風呂に放りこんで、オレは
黒羽達に、工藤達の事を頼んだ

「おう、新一の事なら任せとけ!
服部の分も構い倒しといてやるし」

「大丈夫です!蘭さんも知ってます
し、花音くんは初対面ですけど」

へいたは、大人しくわん、とだけ
吠えた

風呂からよろよろと出て来た和葉を
担いでオレは部屋に入った

「平次」

「ん」

「ちょっとだけこうしとって」

目が回る、という和葉は、オレが座
り抱えたまんま、横抱きにしとると
そのままじっとくっついとった

風邪をひかせたらアカンから、
一緒に布団にくるまって、和葉の
身体をさすってやった

「たくさんの人に会うの、久しぶり
やったから、疲れてしもうた
アカンね、体力無くて」

もっと鍛えとかんとな、と笑う

「今年は異常や、仕方ない」

うん、と言う和葉の身体から徐々に
力が抜けて行く

長時間、緊張の連続で疲れてしもう
たんや
オカンに迷惑かけられん、と気張っ
てたしな

起こさんように、ゆっくりと手脚の
マッサージもしておく
今日は着物も着てたし、普段よりも
負荷がかかってたから

すうすうと眠り始めた和葉を、布団
の中にしっかり寝かせて、オレは
階下に降りた

「和葉ちゃんは?」

「あぁ、もう寝た」

「オレも青子も、もうもらったから
服部も風呂入っちゃえば?」

部屋着に半纏姿の黒羽

「あぁ、そうするわ」

黒羽の彼女は、ガウンの上からしっ
かり、半纏も着せられとった

オレが風呂から出て来ると、玄関
からどやどやと人の気配がした

工藤達一行がやって来た

「おじゃましますー」

和葉がダウンした事を知っとるので
小さい声で入って来る

工藤の腕には花音が眠っている

「いやぁ、新一さんのミニチュア版
みたい!」

「そうでしょう?ほらー、青子ちゃ
んも同じ事言うじゃない」

黒羽は、姉ちゃんの腕からはな
ちゃんを取り上げた

「へいたの兄弟犬だろ?可愛いい
なぁ、コイツ」

「久しぶりだな」

「ご無沙汰してます」

広い部屋に、あっと言う間に人が埋
まった

姉ちゃんの両親に、工藤の両親、晃
に翠、花音にはな、工藤と姉ちゃん
と大所帯や

「服部くん、久しぶりやね」

「え?須藤か?」

「せや、半年後には冴島や」

須藤は髪が伸びてキレイになった
晃は、沖田が言う通り、精悍さを
増して男っぽくなった

「遠山、大丈夫か?」

「あぁ、ちょっと人酔いしたんや」

「和葉目当ての客、多いやろ」

「何で知っとるん?」

「アンタがどんな女選んだんかって
ちょっとした騒動になっとったから
なぁ、晃くん」

挙式後、しばらくして渡英してしま
ったオレ達は知らんかった

渡英前に最後に受けた取材で、写真
は公開せんかったけど、嫁をもらっ
た事を答えたのがひとつある

記憶にないけれど、確か全国区の
ファッション誌だったらしく、記事
と共に、2人でモデルしてた写真も、
一緒に掲載されたらしい
(顔は映らん方のバージョンで)

「結婚した時だけやろ?和葉を公開
したの」

流通しとる和葉の映像や写真は少な
いので、マスコミの間では結構高値
で取引されたと言う

「オレらのとこにも、写真譲って
欲しい言う依頼あったで?」

もちろん断ったけどな、と2人

「そうなのよ、私の所にも来て、
しつこかったから、投げちゃった」

けろっとした顔で姉ちゃんは言う
工藤は横で苦笑

「服部、海外進学で良かったかも」

「せやな、オレもそう思うわ」

みんなには、申し訳ない、と言い、
大人達にも挨拶して、オレは一足早
うに部屋に引きあげた

「平次、これ持って行き」

「ん、おおきに」

ポットやペットボトルとか色々乗せ
られたお盆を持たされる

部屋に入ると、和葉は布団に潜るよ
うにして眠っている

オレはテーブルにお盆を置いて、お
むすびに手を伸ばした

「ちょっとちょうだい」

「ん?目、醒めたんか?」

新しいのをとってやろうとしたら、
オレのをひとくちくれたらええと
言うので、食べさせた

横になったまま、口だけもぐもぐと
しとる姿は、文句無しに可愛ええ

お茶がええ、と言うので、オカンが
用意しとった急須にお湯を注いで
淹れてやる

ベッドからずりずりと引き出して
脚の間に座らせて、自分に寄りかか
らせてから、毛布でくるむ

「熱いから気をつけや」

「うん」

ふうふう言いながらお茶をすする
和葉を抱っこしながら、オレは続き
のおむすびを食べた

「ん、ちょうどええくらいに冷めた
から」

振り返った和葉に、お茶を飲ませて
もらう

さっきよりはずっと血色がええ

和葉はさっきの警察が来たドタバタ
は一切知らん
もちろん、知らせる気も無いけれど

飲み終えた湯呑をちゃんと盆に戻し
おてふきで手を拭いてオレは立ち
あがった

お手洗いに行くから、一緒に降りる
と言う和葉と一緒に階下に降りると
軽い足音がして、へいたが心配そう
に和葉の脚元にじゃれる

もうひとつ、軽い足音がすると、へ
いたに似とるもう一匹が姿を現した

「あ、はなちゃんや」

和葉に撫でられてご満悦な2匹

邪魔はしません、と言わんばかりに
自分らの眠る場所へと軽い足音を
たてて去って行った

盆やら皿やらを片付けて、オレは飲
みモノだけキープして、和葉を連れ
て部屋へ戻った

いつも通り、定位置に抱き寄せて
一緒に眠る

「明日は無理せんでええで」

「ん、大丈夫」

すうっと眠りに落ちた和葉をしっか
り抱えて、オレもいつしか眠った

翌朝、オレと和葉は、揃って花音に
襲われた

とんとん、と言う小さなノックの後
ノックとは比較にならん勢いで、
ベッドに飛び込んで来たのだ

「おはよー」

寝ぼけとるオレらの頬にちゅーを
したんや

「こら!何、人の嫁にちゅーしと
んねん!」

きゃはは、と笑って走って行く

まだ寝起きでぼーっとしとる和葉の
頬を部屋着の袖でぐいっと拭い、
キスをした

階下の部屋でも、あちこちから
きゃーだの、ぎゃーだの聴こえた

「へ?今の、花音くん?」

「せや、あとでしばいたる」

どうやら、階下で黒羽達に追いかけ
られとる様子

まだぼーっとしとる和葉はふにゃっ
と笑ったので、オレはそのまま布団
に寝かせた

こらまだ起きんな、と思ったから

のびをして、オレは階下に降りるべ
く、着替えを始めた