▪️22:00 loving you / side Heiji 

秋も深まり、すっかり街の風景も
ここへ来た当初とはその姿を変えた

黒羽はヨーロッパを中心に飛び回る
忙しい日々を過ごし、彼女はひとり
学生生活に専念していた

デザイン事務所でのバイトと、和葉
と合気道するのが一番の気分転換や
言うてた

「鉄砲玉は、鉄砲玉やな」

和葉には、バッサリそう言い切られ
たオレと黒羽
探偵も、マジシャンも、ロクに連絡
もせず飛び回るのは同じや言うて

和葉がよう話しかけるせいか、また
遊びに来た彼女も話しかけるせいか
キッチンのサボテンくんは、まんま
るが大きくなって来た

頭のテッペンには、ピンクの花まで
付けて

和葉との暮らしも4ヶ月目に入った
時々ケンカもするけれど、基本的に
仲はええ、と思う

黒羽のところも、同居して1ヶ月が
過ぎた
でも、アイツはその半分も暮らして
は居なかった

若手人気マジシャンとして、注目を
集め始めたのだ

熱烈なファンも増え、仕事柄ネタも
日々増やさないとアカン黒羽は、別
にもう一部屋仕事部屋を構えた
彼女はそこへは出入りはせんかった

「青子に何かあったら困る」

黒羽は彼女を守る気でいた
私生活の黒羽快斗は、アパートへと
帰宅する

明るく、快活で、ちょっとエロい男

マジシャンの黒羽快斗は、仕事部屋
へと帰宅する

クールでスマートな出来る男

黒羽は必死やった

何せ、稼ぎ時にショーを休み、日本
へ帰国するために、興行主と取り引
きしたのだから

オカンは黒羽とマメに連絡を取って
日本で2人の式の準備を進めている

彼女は、黒羽に委ねたのだ

「快斗が選んだお衣装で良いよ」

そう言って笑ったそうだ

「これから先、青子とオレが生きて
行くために、ケジメだから」

最高のパフォーマンスを披露する

黒羽はそう宣言した

忙しい日々の中でも、僅か数分
それこそ、キスだけ交わしてすぐに
次の場所へと飛び回る黒羽やった

彼女も、わかっているから笑って
送り出す

黒羽の忙しさは、オレ以上で、和葉
は2人の身体を案じていた

「平次の健康維持するだけでも私、
かなりしんどいんやで?あれでは
2人共、参ってしまうわ」

和葉の言葉通りになった

和葉がふらふらになって帰って来た
彼女の姿に気がついて、背負って
部屋まで連れ帰ったのだ

高熱に魘される彼女の看病をし、
黒羽家の大事な鳩の世話もした

彼女の強い希望で、黒羽には連絡を
せず、彼女が回復するのを見守る
オレと和葉やった

「こら黒羽くんも、そろそろアカン
次、帰宅する時は注意やな」

「せやな、そろそろ1度はダウンす
るやろな」

山を越えた彼女が、漸く落ち着いて
眠り始めた

和葉は、ほっとした顔で言った

「私も平次もひとりっ子やん?
同い年やけど、青子ちゃん達って
妹と弟みたいやん?可愛ええな」

「ん?彼女はわかるけど、オレ、
あんな落ち着きの無い弟なん要らん
まぁ、自分の子やったら、ひとり
より多いに越したことは無いけど」

「せやな、2人は欲しいかな」

ふふ、と笑う和葉の頬に静かにキス
をした

「ま、オレ、めっちゃ頑張るし?
後は和葉ちゃんの体力次第やん?」

小さな声でそう言ったオレは、真っ
赤になった和葉にどつかれた

あほ、と言いながら笑っていた

彼女が漸く落ち着いた頃、ふらふら
しながら黒羽が帰って来た

「な?言うたやろ?ホンマになぁ」

無茶するんやから、と言う和葉と
一緒に、オレは黒羽の世話も焼く
ハメになった

黒羽家の世話に追われ、オレ達はし
っかり鳩まで仲良しになるハメに
なったんや

黒羽と彼女は、元気になるなり和葉
からカミナリを落とされた

お互い大事な身体なんやから、絶対
粗末にしたらアカン、と
もっと大事にせんと、と

仁王立ちで怒る和葉と、その前で
正座してしゅんとする2人

「ハトさんがかわいそうやろ!」

最後にそう言って怒った和葉に、
オレ達はキョトンとしてしまう

思わず吹き出したオレは、結局よう
判らんけど一緒に正座で叱られた

なんでや、一緒に黒羽達看病したっ
たのに

元気になった2人に、しっかり飯を
食べさせて解放した後、オレは盛大
に拗ねた

呆れた和葉にどつかれたけどな

疲れ果てたオレ達は、結局仲良う
いつものようにくっついて眠りに
落ちてしまったんや

違う意味で、もっと仲良う眠りたか
ったオレは、朝目覚めてガックリ

すっきり爽やかな笑顔で今日も仕事
に飛び出した黒羽の姿を窓から半目
で睨むオレやった