▪️12:00 Ready Go! / side Heiji

今年の年内最終登校日はイブの
前日になった

新年が明けたら、順次入試関連で
その姿は見えたり見えなくなったり
するので、クラスメートの面々も
何や、コレが最後か、と言わん
ばかりの挨拶が飛び交った

気分転換に、と、盛大なパーティー
が開催される事になったらしく
オレも和葉も誘われたけれど、
やんわりとお断りした

「そらそうやなー、オマエらが
参加したら、全部攫ってしまうもん」

どうやら合コンも兼ねているらしい

尚更、和葉を差し出す訳にはいかん

学校から帰ると、明日から旅行のハズ
のオカンの姿が無い

「へ?」

和葉と2人、呆然とした

オレ達向けのプレゼントがどーんと
置き去りにされていて、オカンからは
サンタは一足早うお休みに入ります、
と置き手紙があった

和葉が緊張するのが、嫌でも伝わる

せやから、そっとしといて欲しかった
のに…とオレはタメ息を吐いた

「和葉、取って食うつもりは無いで?
そんな緊張せんでええ」

「う、うん」

お互い部屋着に着替えて、交代で風呂
に入った

そう言えば、と思って、置き去りに
されたどでかいプレゼントを開くと
和葉は途端に笑顔になった

「え、ホンマに?」

Macが2台、備品も一式揃えて用意
されていた

和葉が、向こうで使う用にもう一台
購入を検討していた代物らしい

「セットアップ、オマエに頼んでええ?」

「もちろんええよ、有料だけどな」

あはは、と笑う和葉

「ちょぉ待てや、昼と夜、飯はどう
なっとんのや」

「せやな」

と言って和葉がぱたぱたと台所へ
走って行った

「さすがや、おばちゃん」

「ん?」

「見て、コレ」

和葉が冷蔵庫を差した

「お昼と夜分は用意してあります
明日は和葉ちゃん、よろしゅう」

オカンの字、や

お昼はちゃんとお重にお弁当が
詰めてあり、鍋には豚汁まで仕込ん
であったし、夜用にはオカン特性
の鍋が火にかければええだけに
なっていた

冷蔵庫の中身を確認していた和葉は
ため息を吐いた

「どないした、和葉」

「平次、アンタ明日、何食べたい?
言ってみて」

明日、なぁ

明日は和葉の手料理を食べられる
最後の機会になる
色々考えて答えた

「せやな、クリームシチューかな」

あぁやっぱり?と言う顔で和葉は苦笑

「材料、バッチリやねん」

和葉はやられた、と言った口惜しそう
な表情を浮かべた

材料もバッチリあるし、小さな
ケーキもあったのだ

オマケに、和葉に訊かれた
部屋にもう一つ何かなかったか、と

そう言えば、と思って、思わずオレ
も真っ赤になる

やりやがったな、おばはん

たぶん、和葉枕元にもあったのだ
真新しい寝巻きの類いが

オレの部屋には、もっと露骨な物が
きっとどこかへ隠されているだろう

しばらく逢えないのだ

オレは存分に和葉と過ごしたかった
それだけやのに
まぁちょっとはさせてもらえたら
嬉しいけど

余計なことを、と憤るオレに、和葉
は何故か慌てた

「ま、待って、平次」

ちゃんと話すから、まずはごはんを
ちゃんと食べよ?と言う

差し向かいで食べる和葉が、赤い顔
で必死に色々な話題を振って必死に
いつもの状況にしようと頑張るその
姿が可哀想で、オレも強くは聞けん

片付けるから、座って、と居間の
ソファに座らせられ、お茶を出され
オレは仕方無く和葉を待った

新聞を読んでいたオレの隣に、
ストンっと和葉が座った

「なっ!」

髪は下ろしてある
いつもの素っぴんにいつもの香り
違うのは服だけ

淡いピンクベージュのシルクか
ガウンに恐らく下はネグリジェか
色白な和葉には悩殺的に似合う姿

惚けて新聞を落としたオレに、目を
ぎゅっと瞑った和葉が、ぽすんと
倒れこむように身体を預けた

アカン、これは、絶対無理や

慌てて身体を離そうとするオレに
和葉はぎゅっとしがみついて言った

「おばちゃんは、知っとったの!
全部!」

半ば絞り出すような叫び声
しがみついた身体は震えていた

いつもより和葉の身体がダイレクト
に伝わる滑らかな生地

半泣きの和葉をヤケクソでぐいっと
自分の膝に横抱きにした

オレの理性がぶち切れるのが先か
和葉が泣き止むのが先か
駆け引きが始まる

泣きながらも、和葉は懸命に言葉
を紡ごうとしていた
途切れながらも、紡がれる内容は
予想通りやった

この間、旅先で和葉が言ったこと
オレに打ち明けてくれたこと
そのまんま

してもええよ、でもまだ怖い
踏み出せん

「おばちゃんなりに、背中を押して
くれたんやと思う」

和葉はそう言って泣く

でも、と思って、オレは和葉を担ぎ
あげて、和葉の部屋に入る

そのままベッドに組み敷いた

完全に怯えた和葉の身体に覆い被さ
るようにして、和葉の動きを封じた

「和葉」

びくっと身体を竦めるのが判り
胸が痛むけど、オレは続けた

「誰が何をしようと関係あらへん
オレがオマエとどんな約束したか
よう思い出せ」

「約束」

恐怖に震え上がりながらも、懸命
に思い出している和葉をじっと
見守った

あ、と言った和葉は、ボロボロと
涙を零し始めた

「ちゃんと言うてみ?和葉」

指先で擦らんように涙を拭ってやり
ながら、しゃくり上げながら言うの
をちゃんと聴いた

「するならちゃんと落ち着いて、
ゆっくり向き合ってやりたい」

何かに急かされたり、気をやってる
状況でなど嫌や、ちゃんとお互いを
見て、心も身体も向き合ってしたい

「オレは男、オマエは女
やろうと思ったら、いつでも出来る
例えオマエが泣き叫んで抵抗しても
オレがやる、決めたらやれるんや」

よう覚えとき、和葉
オレはもう、オマエが知っとる
ただの幼なじみやない

それだけの力の差がついてしまった
そうなんや

「オレ、最初に言うたやろ?
オマエが思っている以上に、ちゃんと
オマエの事、好きやって」

コクンと頷く和葉

「最初は男やって、女やって、色々
あんねん、どう頑張ってもな
記憶に残る初めてのこと、オレ、
誰かに急かされてするなんイヤやし
オマエはそれでええんか?」

首を振る和葉から、また涙が落ちる

「帰って来たら、しよ、和葉」

和葉の目が大きく開かれた

「オレはもう心の準備も出来とる
オマエとちゃんとしたい
オレの初めてやるから、和葉のも
オレがもらう、それでええやろ?」

真っ赤になって、頷くのを確認して
オレは拘束を解いた

「せやから、何遍も言うとるやん
和葉はまずいちゃいちゃするんの
ええ加減慣れろやって」

柔らかく、いつもの要領で抱き込む
と、ホッと緊張を解くのがわかる

超がつく程この手の話題には疎くて
戸惑うオンナが、イキナリベテラン
のオンナと同じことしようとしても
無理やって

ホンマにコイツはいつもオレの想像
の斜め上を、凄いスピードで飛ぶ
オンナやな

「でも、まぁせっかく色々とご丁寧
にお膳立てしてもろうて、何にも
ありませんでした~て言うと、オレ
のメンツも立たんからなぁ」

え?と顔をあげた和葉に素早くキス
をした

「キスとハグは好きなだけさせて
もらうし、ちょっとだけ先へ進ん
でみましょか?和葉ちゃん?」

え?え!と慌てる和葉を捕まえて
キスをしまくるオレ

いつも何と無く触れていた耳元や
首にも唇で触れて行く

ホンマは吸血鬼並みに吸い付きたい
くらいやけど、痕を残さんように
慎重に触れた

オレが触れているといつも段々と
眠りに落ちる和葉

案の定、今日も少しずつグラリと
頭が揺れ始めた
その瞬間を待っていた

和葉の胸元に思い切って手を差し
こんで、肌蹴た胸元にキスをした
狙ったのは、心臓の上ら辺

んっ、と言う声とふるり、と震え
た身体をくるん、と反転させ
すかさず背中を開いて同じくらい
の位置にキスをした

すぐに服を戻し、顔を見られん
ように、胸元に抱え直した

寝落ち寸前にイキナリされて何が
何やらわからん様子の和葉に言った

「これ以上は、オレもガマン出来ん
から、ここまで、な」

ん、と頷く和葉はそのままオレに
くっついて眠ってしまう

ワザと、人目につかないところへ
痕を残した

必ず、帰って来るから
約束の印を、心臓に刻みこむように

ホンマは自分にも付けて欲しい
でも、和葉ほど、皮膚が薄く無い
付けるのは至難の技やな、と断念

和葉とは、その後ずっと一緒に居た

昼寝したり、音楽聴いたり、一緒に
WEB確認したり、のんびりとただ
時間をやり過ごした

時々キスや、ハグしていちゃいちゃ
しながら、一緒に眠る

お互い時々涙も落ちるけど、そんな
些細な事を、気にしてる暇は残され
てはいなかった

一分一秒も無駄には出来んから、
どちらからともなく、夢中でくっつ
いていたオレ達

キスも数え切れないほど重ねたし
普段はしない濃厚なキスもした

重ねた唇も、絡めた指先も
しなやかな熱い身体も、何一つ
忘れないように身体に刻む
身体で記憶する

別れの時間はそれでも確かな足音で
容赦なく近づいて来た