▪️12:00 Ready Go! / side Heiji

「もう高校生やし、自分の昼くらい
自分で何とかしたらええ」

探偵業で不定期な在宅のオレに
ブチ切れたオカン

お弁当は一切作らない、と宣言
されたオレ

ごもっともなお怒りだったので
反論もせず、オレは迷わず和葉に
頼んだ

「オカンがキレてもう作ってくれん
言うから、後はよろしく」

確かそれしか言わんかった気がする

訳がわからん、と言った和葉の表情
を、オレは鮮明に覚えていた

翌日から、和葉はちゃんと用意して
くれた

喧嘩した時も、邪険に扱った時も
黙って差し出された
そう言う日は笑顔は無かったけどな

大変やったと思う

華やかさは無いけれど、食べ慣れた
味で、どれも美味しかった

地味やけど美味しそうやな、いつも

ツレ達はいつもそう言って欲しがった
(やらんかったけどな)

それも、今日で最後

1月からは、オレらの学校では3年は
午後は帰宅となり、昼は要らんよう
になるからや

最後やから、とそれぞれ仲がええ
ツレ同士で学食に向かった面々も
居たけれど、オレはツレ達といつも
のように、いつも通りに弁当を食べた

最後の弁当は、色鮮やかやった

ちらし寿司
出汁巻き玉子
お浸し
お煮しめ
お漬物

などなど、ぎゅうぎゅうに詰められた
モノは全部、和葉のお手製や

「豪華やな」

相変わらず欲しがるツレ達の箸を
避けて、オレは完食した

「ごちそうさまでした」

しばらく、これも食えんのか
そう思うと少し淋しい

でも、和葉は向こうでも食費を
浮かすために、弁当は作ると
張り切っていた

今日は用事があって帰りは一緒
ではない

せやから、空の弁当を返す時
和葉の掌に紙を忍ばせた

「3年間お疲れ様 来年もよろしく」

それだけを走り書きして

少し遅れて教室に帰って来た和葉
俯いて、丁寧に紙を延ばして手帳
に挟んだ
嬉しそうな横顔をオレは眺めていた

弁当作りで褒めてやった事も
礼を言った事も一度も無い

空っぽにする事がオレの唯一
の返事やった

上手い事言えるようやったら
きっともっと喜ばせたのにな、と
思う

和葉には、来年持って行く弁当
箱は、一緒に選びに行こうなと
言っておいた

嬉しそうな顔で、うん、約束やで
と笑った顔を見て、自分も自然と
笑顔になる

和葉には涙は似合わんな、と
思った

笑っておった方がええ

今度、和葉の弁当が食べられる
時は、どんなんやろうな、と考え
るだけでも楽しみなオレ

早く、心おきなく遊んで笑える日常
を取り戻すんや、と気持ちを引き
締めた

立ち止まるにはまだ早い
振りかえるには若過ぎる

とにかく、前へ

自分達の日常を取り戻すべく
全力で走るだけやな

少し前に、オカンが見せてくれた
和葉の弁当日誌は、ちゃんと
無事に最終日まで更新されて
いたのを確認した

あともう少し、もう少しだけや
ここまで来たんやから、
一緒に頑張ろうな

でも、とりあえずは今はこう
伝えようと思う

「お疲れさん、和葉」

よう、頑張ったな、と