▪️07:00 Summer festival /side Heiji

「頭が痛い、何でやろ」

風邪でも引いたんかな
と呟く和葉は、箸も進まない
オカンとオレは、ぽかーんとして
しまう

恐ろしい事に、和葉はオレの帰宅
も知らんかったのだ

黙々と朝食を食べているオレを
じーっと見ていると思ったら、
突然、指先がオレの首に触れる

「平次、昨日の事件、どんなんやっ
たの? こんなとこまでケガして」

オレより先に、オカンが吹き出す
自分の顔が赤くなるのがわかる

「あほ!事件ちゃうわ!」

慌てたオレに、びくっとした和葉は
むっとした顔

「事件ちゃうかったんやね
あぁそう、そんなに私とお祭り行く
のいややったんやね」

最初から、そう言えばええやん

そう言った和葉の大きな瞳はまた
揺らぎ出した
昨日の涙で、赤くなった目元にまた
涙が滲み始めた

「違うわ!事件やから行けんよう
になったんや!」

「でも、今自分で言ったやん!
事件ちゃうわって!」

ぶわっと瞳に涙が溢れるのが見えて
オレはさらに慌てる

「事件は、和葉ちゃん、アンタや」

怒鳴りあうオレらの間で、優雅に
食後のお茶を飲むオカン

「事件の呼び出しがあったんは
ホンマやで?おばちゃん、ちゃんと
平蔵さんに確かめたから」

はぁ?

「でも、平次のそこにかみついた
んは、和葉ちゃんや
目撃者は、おばちゃん、間違い
ないで?」

犯行場所も時刻も控えてあるし、
詳しく教えましょか?
と言うオカンの説明に、和葉は
大慌て

「どないしよう、おばちゃん
どうしたら治る?」

「何かようわからんけど、ゴメンな
平次、堪忍や」

慌てる和葉に、お茶を差し出すと
オカンが言った

「和葉ちゃんなぁ、首はまだ狙っ
たらアカン、手加減がわからん間は
ダメやで?まずは、耳から狙ったら
ええよ」

「わぁ~!!わ~!ええから、和葉
聞かんでええねん!オカン!何を
和葉にしれ~っと教えとんねん!」

和葉の両耳を塞ぎ、オレは全力で
騒いだ

余計な事すんな、おばはん、と

涼しい表情で、オカンはゆっくり
食後のお茶を楽しんでいた

ったく、無闇に煽るなや

オロオロする和葉に、ちゃんと飯を
食べ終えるまで、席を立ったら
アカンで!と言い捨て、オレは先に
席を立った

洗面所で、歯を磨きながら鏡を見た

昨日、和葉に噛み付かれた場所には
やはり、赤い跡がある
微妙な位置やなぁ、と思う

顔を洗って、台所を覗くと、気の毒
なくらい、項垂れた和葉が、進まな
い箸を進めていた

「和葉ちゃん、アンタは平次がええ
言うまで、外でお酒、飲んだら
アカンからね」

成人しても、やで?
オカンに小言を言われ、コクンと
項垂れながらも頷く和葉

結局、酷い二日酔いにあった和葉は
この日は居間のソファーに埋もれた
まま、ロクに飯も食えないまま、
項垂れていた

オレが悪いんやけど、どうしてあげ
たらええかわからん

お詫びに、べつの夏祭りに誘っても

「持ち上げるだけ、持ち上げて
突き落とされるからもうええの」

しょんぼりしたまんま、そう言う
だけや

海遊館も、プラネタリウムも、映画
や遊園地も、ぜーんぶ

「入場しようとして、置き去りに
されたやん」

「閉園まで待たされたやん」

「約束忘れたアンタに放されたん
思い出すなぁ」

力ない声で返ってくる返事

オレは、あまりの自分の余罪の多さ
と共に、背後から感じる夜叉から
放たれる強烈な殺気に、震え上がる
しかなかった

あぁ、ホンマにどうしよう