▪️side Heiji :Step by step  18

和葉は、猛勉強の甲斐もあって、好成績
を納め、試験を無事乗り切った

オレも、目標以上の成績を残した
高校に入って、久しぶりに総合で首位に
立つ事が出来た

和葉のスコアも、もし本試験やったら、
十分、3位以内に入れるモノ
オカンは大喜びで、ご馳走を振る舞うなど
和葉を甘やかしまくった

最後に残った交流戦も、無事勝利を納める
事が出来て、相手校の都合で日程がズレた
おかげで、和葉も試合に駆け付ける事が
出来たのだ

和葉が帰国して、緩やかに、穏やかに日々
が周り始めた

オレも漸く。またいつものように事件に
駆け付ける日々を送り始めた

軋みかけていた日々が、ちょうどええ心地
良さで周る

バランスが狂いかけていた精神が、少し
ずつ、いつもの状態に戻る

「在るべきモノが、在るべき場所に還った
おかげやな」

笑顔で手を振る和葉に見送られ、オレは
今日も事件を追う

そんな中、事件から戻ると、家が何やら
賑やかだった

何の騒ぎや、と思って居間に行くと、
先日のデザイナーと、オカンが、2人がか
りで何やら和葉を説得中

「無理やって!私、背もそんなに高く無い
し、出来んよ~!無理~!」

「背の問題や無いんよ!お願い!」

「あ、平次!ええとこに来た」

オカン達の説明によると、どうやら和葉に
モデルのピンチヒッターを頼みたいらしい

「アンタもセット、な」

「はぁ!?」

新しく、ウェディングラインを始める予定
で、そのお披露目が近いらしく、同時に、
カジュアルラインも新しく店舗展開をする
のだと言う

「「ええっ!」」

ホンマは、あるタレントを起用する予定
だったが、アクシデントで対応出来なく
なったらしい

オレと和葉に代役をやってくれ、と言う
話やった

何でオレまで、と言ったら

「平次くんにとっては、損な話とちゃうと
思うけどな~」

などと言われ、耳打ちをされた

アルバイト料は2人にそれぞれ支払う

顔バレしないよう、スチール等の媒体には
顔出しはしないよう工夫する

「それに、近い将来の姿を先行して拝め
るんやで?今はまだ、コスプレやとしても」

逡巡して、オレは条件を出した

顔バレするような事態になったら、即刻
契約打ち切り

撮影モノは、出来るだけ非公開で撮影して
欲しい
(取材慣れしているオレとは違い、和葉は
ホンマに初めてやから)

バイト料は、それ相応の価格で

「写真、こっそりくれへん?」

「それくらい、お安いご用や
プロがちゃんと、撮ってくれるで?」

「ほな、契約成立で」

怪訝そうな顔でオレを見ているオカンと
和葉に言った

「和葉、バイトや、バイト!
ええやん、留学費用、稼がなアカンし」

「せやけど、ええの?平次」

「何とかなるやろ」

無理やー、出来んーと渋る和葉に、3人
がかりで説得して、オレが逃げないなら
ええ、と漸く了承を貰った時は、みんな
もうくったくたやった

「なぁ、平次くん」

「ん?」

「和葉ちゃんって、あんなに可愛ええのに
何であんなに自信ないん?」

自信が無い、と言うよりも、周囲にどう
見られているかをちゃんと理解してへん
気がする、と、デザイナーは言った

「ま、そういう無垢なところが魅力なん
やけどね、もったいないって思わへん?」

惚れ直すくらい、可愛くする予定や
楽しみにしとってな、と言い残して、和葉
の手料理を堪能して、元気にデザイナーは
職場へと戻って行った

数日後、デザイナーの関係者が迎えに来て
オレ達とオカンは初めてのショーと撮影の
ため連れ出された

ショーは、限定された関係者のみ
取材も専門誌関係だけ

緊張気味の和葉には、こう言った

「和葉、文化祭やと思え」

オレや和葉は、文化祭でいつもこういった
ショーの様なモノや、メインの売り子に
駆り出される

ここぞ、とばかりに、和葉を着飾って遊び
たがるクラスメイトやら、何やらに、オレ
も一緒になって巻き込まれる

そう言うのは、2人とも好きではない

でも、普段迷惑をかけている分、仕方が
ないので、オレも、和葉も在る程度は許容
するのだ

(当然、露出が激しいモノや、妖しいモノ
はないか、事前にオレがチェックして、
完全にブロックするけど)

「今回は、楽しんだモン勝ちやで?普段、
着られへんものばっかりやろ」

ショーでは、ウェディングがメインのため
当然、普段どころか、初めての服ばかり

和葉は、ウェディングドレス、カラー
ドレス、白無垢、色打掛、来賓向けの
カクテルドレスに振袖、と6点を披露した

ランウェイを一緒に言われた通りに、手を
繋いで歩いて行った

(完全に、予行練習やな)

和葉の様子を見ながら、本番やったら
どういうのが似合うか、あれこれ想像し
ながら、オレは気楽に楽しんでいた

親父達に頼まれたオカンが、張り切って
撮影していたのは、ひいたけどな

一見シンプルやけど、刺繍やら何やら
とても手の込んだ作品は、どれも和葉の
素の美しさを引きたてて艶やか、の一言
に尽きる

「主役は着る人、その人や
その人の魅力を最大限に引き出すのが
私の仕事や」

渋る和葉を説得する時、デザイナーは
そう言っていた

だから、OKしたのだ
デザイナーは、どんな和葉を見せてくれ
るのか、興味が湧いたから

もう、現在の和葉は硬い蕾ではない
匂うように艶やかに、ゆっくりと開花し
始めたんや

自然と笑顔を見せる和葉を、1番近くで
眺めながら、オレは見ていた

ゆっくりでええ
自分のペースで、少しずつ咲き誇れ
他の誰にも手折らせはしないから
必ず、護ってみせるから

繋いだ掌に密かな誓いを

「どう?」

和葉の着替えを待つ間、デザイナーに
訊かれた

「ええもん見せてもろうたわ」

満足そうに微笑んで、デザイナーは忙しい
舞台裏に消えた

オレの贔屓目だけではない

デザイナーのスタッフ達も、取材に来て
いた面々も、みんな褒めていた

「自分の彼女に着せてみたい」
「娘に着せてみたい」

そう言う声が多くあがり、中でも和葉が
着用したモノは全て高評価で、買い手や
問い合わせが殺到したらしい

殆ど手をいれていない薄いメイクも好評だ

その日は、用意されたホテルに泊まり、
翌日は朝から今度はカジュアルラインの
服の撮影が行われた

「和葉ちゃんの自然な表情が撮りたい
ねんけどなぁ」

顔は映さないけど、どうしても作品になる
と、ぎこちなさは残ってしまうから、と
言う話をデザイナーとカメラマンから
聞かされたオレ

少し考えて、ひとつ、提案した

「2人きりにしてくれへん?
出来るだけ、遠くから撮ってくれたら
多分、出来ると思う」

面白いからその話、乗った!と言う2人と
簡単な打ち合わせをして、撮影がスタート

和葉が愛用の一眼レフを持参している事は
知っていたので、それを持たせた

最初は近くで撮影し、少しずつオレは和葉
を連れ、カメラから距離をとる

撮影を忘れ、和葉と写真を撮り合ったり
オレがふざけて和葉を抱えあげてみたり
そのまま振りまわしたりもしてみた

きゃぁきゃぁ言いながら、降ろせと騒ぐ
和葉を、荷物を担ぐように担ぎあげて、
さらにカメラから遠ざける

…ここら辺が、あのレンズやったら、
ギリギリ、か

近くに誰も居らんので、普段通り、
くだらん話をしてふざけてみたり、色々
と遊んでいると、段々レンズの存在を忘れ
本気で遊び始める和葉

表情がくるくると変わる

よし、それでええ

後はオレもカメラを気にせず、和葉を
楽しませることに集中した

くるくる変わる表情を、その一瞬を、
逃さないように

何着か着替えさせられて、同じように
和葉にカメラを意識させないようにして、
撮影は続いた

「いいモンが撮れたよ」

楽しみにしていたらええ、カメラマンは
満足げにそう言って、オレや和葉が遊んで
いたカメラの映像を見ていた

「これ、この中から何点か借りてええ?」

顔が判るモノやなかったらええですよと
言う和葉に、カメラマンは何点か
アドバイスをしていた

「使う時は、ちゃんと和葉ちゃんの作品
やって判るようにするからな」

数週間後、オレ達は仰天した

顔ははっきりとは判らんように撮影されて
いたけれど、その写真や動画が、かなり
大々的に公開されたのだ

新店舗に掲げられた大きな写真

淡いブルーのコットンワンピース姿の少女
ブルーのシャツに白いパンツ姿の少年
仲良く寄り添って、楽しそうにはしゃいで
いる姿が切りとられていた

フェイスラインは辛うじて顎のラインが
見えるくらい

でも、2人の楽しげな雰囲気は、それだけ
でも伝わってくる写真だった

「やるな、あのカメラマン」

雑誌にも何点か写真が掲載され、広告に
掲載されたラインの服は即完売、になった

和葉が撮った写真も一緒に掲載されたんや

photo by K.

ちゃんと、和葉が撮影した分は、小さく
片隅にそう記載された

店舗には、和葉が撮影した他の写真も何点
か飾られたのだ

後日、デザイナーが再度服部邸にオレと
和葉を訪ねて来た

想定以上に反響が高く、このまま正体を
明かさないで、専属モデルをやって欲しい
と言う事だった

学業や探偵業に差し支えが無い程度で1年
だけ、と言う条件付きで、オレと和葉は
契約をした

留学費用分を捻出するだけに十分過ぎる
額が、オレと和葉に支払われた

和葉は、写真の方でも報酬を貰えた

次回の撮影まで、また色々と自分で自由に
撮影しておいで、とカメラマンにはそう
言われているらしく、和葉は毎日、色々な
写真を撮っていた

オレの元には、約束通り、カメラマンが
選んだベストショットの和葉の写真が
こっそりと届けられた

「さすがやな」

渡英前には、和葉と本物の挙式が出来る
とええな、と思う
どんなんが似合うんやろ、と思いながら
頬が緩むのを止められなかった

2015/08/07    初稿
2015/11/03    加筆&改訂&改題