三島由紀夫は小説を書いている最中に時として神憑りになることがある、三島の「二・二六事件

三部作」、“憂国”“十日の菊”“英霊の声”があるが、三島が41歳の時に「英霊の声」執筆時の

或る日、母親の倭文重さんに、

 

『夜中にこれを書いていると二・二六事件の兵士の肉声が書斎に聞こえてきて

筆が自分でも恐ろしくなる様に大変な速さで滑っていって、止め様と思っても

止まらないのだ』と。

 

しかも「英霊の声」の小説の舞台は“帰神の会”(かむがかりの会)で霊媒の盲目の少年に

二・二六事件の決起将校の霊が懸り何故決起したのか等々言わせるのだが要するに此れを

執筆中に青年将校達が三島自身にのり懸っていた事になる。

 

そしてもっと驚くべきは当時から親交のあった丸山明宏(現・美輪明宏)が或る日

突然、三島に「先生の背後に磯部浅一の霊が見える」と云ったのだが、磯部とは正に

北一輝門下で決起した皇道派将校の一人なのだ、それを聞いた瞬間、三島は血の気

が引いたと吐露したのだった。丸山は三島が“英霊の声”の執筆中とは知る由も無い、

本当に不思議な事はあるものだ。

 

(参考文献:三島由紀夫研究年表/三島由紀夫書誌)