東京・東中野署の刑事・鬼貫八郎(大地康雄)が、地道な捜査で難事件を解決するシリーズ。第17弾の今回は、融資担当の銀行員が殺害された事件。
 都内マンションの一室で、宇野英生という融資担当の銀行員が殺害された。遺体の状況から判断すると、怨恨による事件の可能性が極めて高い。遺体の第一発見者である部下の沢村ゆかりは、宇野が1カ月程前、融資を巡るトラブルから、幼なじみに暴行を受けたと証言。鬼貫は、この事件を担当したのが先輩刑事の下山剛だと知り、すぐさま所属の本郷署に向かった。
下山の話によると、問題の人物は、宇野とは小学校から中学校まで一緒で、現在、自動車修理工場を経営している原田和則。暴行事件当時、宇野は告訴すると息巻いていたが、下山が間に入って穏便に収まったらしい。鬼貫らが会った原田は、宇野殺しは否認したもののアリバイはあいまい。また、宇野の子を堕ろしたらしいゆかりが、自殺を図ったこともあり、捜査はなかなか進展しない…。


①銀行支店長代理 山本陽一
 

10年前

竜雷太と妻の山口果林の間には6歳の息子、聡がいた。

管内では凶悪事件が頻発し仕事漬けの毎日だった。
果林の親戚に不幸があり、彼女は息子を隣の夫婦に預けて通夜の手伝いへ。

竜は早めに帰宅して息子を引き取るつもりだったが、仕事に追われて、戻ったのは夜中の23時過ぎになってしまった。

ところが隣の夫婦は高熱を出した下の子を病院へ連れて行っていた。

5歳の上の子と聡はよく眠っていたこともあり、家に置いて行ったとのこと。

そこに火事があり、竜は燃える火の中に飛び込んで2人の子供を救おうとした。

しかし助け出せたのは1人だけ。

夫婦の子を見つけて抱きかかえ、息子を探そうとした時、棚が倒れて竜を直撃。

そのせいで竜は右腕を骨折。

別室で息子を発見したが、子供を同時に抱えることができずに夫婦の子供だけを連れ出した。

再び戻ろうとしたが、火は大きくなり、運び出されたのは息のない息子だった。

なぜ息子を先に運び出さなかったのか?

それは竜が警察官だったから。

我が子を犠牲にしてまで市民の命を助けたと警視総監賞をもらった竜だったが、彼の選択が許せなかった果林は家を出た。

 

暴行事件があったにもかかわらず、事件当日、野村と山本は会う約束をしていたことが分かる。

しかし、野村は「なんとかもう一度、金の相談をしたくて会う約束はしたが、山本は待ち合わせの場所に来なかった」と主張。

銀行が彼に融資をすることはない。となると個人的な借金の申込。

暴行をされた山本がなぜ、会うことを承諾したのか?

野村は何か山本の弱みを握っているのか?

野村は脅迫じゃなく、「恩を返してもらおうとした」という。

彼らが中学3年の時、近所で放火事件が頻発していた。

ある晩、野村は火災現場から山本が逃げてくるのを目撃。

親や教師は誰も気付かなかったが、彼は裏で悪さをしていて、放火癖があったのだった。

「黙っていて欲しい」と泣いて頼まれて、野村は見たことを誰にも言わなかった。

暴力事件の時に野村はその話を竜にも話していた。

 

山本が殺害された当日、竜は朝から息子の墓参りへ。

偶然、果林の妹も娘を連れてきていた。

昼前に寺を出て犬吠埼へ。

東京発しおさい5号に乗って、銚子着は2時近くで犬吠埼へは直ぐだが、ゆっくり回って夕方、宿に入ったという。
死亡推定時刻の2時~3時の間は銚子にいたことになる。

証拠として竜はアルバムを差し出す。

1枚目から12枚目までは前日、剣道を教えている道場での懇親会の写真。

13枚目と14枚目は事件の日の朝、寺で出会った元嫁の妹と娘。

15枚目からが銚子と犬吠埼の写真で全て2時以降~4時以前に撮影したもの。 

最後の写真が宿の仲居。
ネガには細工したような痕跡はなかった。

 

鬼貫さんは10年前の火災現場の野次馬を撮った写真の中に山本の姿を見つけた。
竜が何らかの形で犯人が山本だと知ったとしたら…。

 

鬼貫さんは2つの可能性を潰すことに

まずは朝、墓参りをして、中野で山本を殺害した後に銚子に向かっても昼間の様子を撮れるのかどうか?

犯行時刻後に出発するしおさい9号で銚子に向かった場合、銚子着が17:31。

まだ日はあり、急げば撮影は可能だった。

しかし、灯台で撮られた写真には午後4時までしか出店を出していない、干物屋のおばちゃんが写っていた。

竜の言う通りだった。

 

もう一つの可能性。

竜以外の人が撮影したのでは?

アリバイ作りを頼めるのは元妻の山口果林しかいない。
しかし、昼間はランチで店にいたと言う。
更に果林は息子を見殺しにした竜を恨んでおり、協力しそうにない。

となると竜のアリバイは成立か…。

 

1本のフィルムに事件前夜・事件当日の朝・昼・夜。

竜は「空撮り」という高度なテクニックを使っていた。

何も撮らずにコマを進めて中間のフィルムを空白のままにし、夜の旅館で仲居を写した。

改めて翌日、空白部分に戻して昼の犬吠埼の写真を撮り、さも、当日に撮ったかのように入れ込むことができる。


犯人は刑事の竜雷太

火事当時、大学生だった山本は竜の自宅近くで下宿していた。
山本への傷害事件を担当した竜はかつて、自分の息子が亡くなった放火事件の犯人が山本だったことに気付き、仇を取った。

しかし、自首するつもりはなく刑事生活を全うするつもりだった。

1人しか助けられないと分かった時、刑事として他人の子を抱いた。

そこまでして職務を全うしたのに刑事を続けなければ、犠牲になった息子に悪いと思ったのだった。

 

警察官じゃないから、私は悩まずに息子を助けるな。

しかし隣の家の父親は助けに行かなかったのかいな。

 

鬼貫八郎…大地康雄
 鬼貫良子…左時枝
 鬼貫真奈美…須藤温子
 碓氷道夫…羽場裕一
 神保亜希子…山口果林
 下山剛…竜雷太
 原田和則…野村祐人
 宇野英生…山本陽一
 沢村ゆかり…松永玲子
 黒川課長…天田俊明
【原作】鮎川哲也『準急ながら』より