都内にある美容外科で殺人事件が発生。所轄の刑事・鬼貫八郎(大地康雄)は、部課の松村(米山善吉)と共に捜査に乗り出した。殺されたのは病院の2代目院長の岩崎孝夫(奈良坂篤)。鬼貫は、死体第一発見者の看護婦の話から、犯行の4日前、岩崎を取材していたらしい小説家・疋田十郎(中原丈雄)に着目、さっそくその自宅を訪ねた。だが、疋田は、事件発生当時、別荘で、担当の編集者・深町かな子(いしのようこ)と睡眠薬を服用しての心中未遂を起こしていたと判明。2人が病院に担ぎ込まれた事実はマスコミでも報道されていた。鬼貫の質問に対し、疋田は、美容整形のトラブルと訴訟にまつわる話を聞きに行ったと証言。鬼貫は、疋田の前に岩崎と会っていた谷口(中島陽典)という車のディーラーを追った。谷口は、岩崎と同じ医学部出身の同窓生。谷口が刑事の訪問に逃げ出したことから、追跡した鬼貫らは、谷口と岩崎が麻薬の売買に関係していたことを掴んだ。しかし、岩崎殺しに関して、谷口にはアリバイがあった。そんな中、疋田の情報から、岩崎が手術ミスで告訴されていたことが分かり、手術を受けた女性の自殺が明らかになった。捜査陣は、その女性の兄・西川卓哉(寺島進)がボクサーだと知り、重大な感心を抱いた。岩崎の死因は絞殺だったが、その肋骨が素手で殴られ、折られていた。そして、西川にはアリバイがないのだ。まもなく、事件発生直後、現場付近で西川を目撃した人物が現れ、警察は西川の逮捕に踏み切った。鬼貫の取り調べに対し、西川は岩崎を殴ったことは認めたものの、殺害に関しては否認。西川の様子から、別に真犯人がいるとにらんだ鬼貫は、西川が現場にいた時に岩崎に電話をしてきた「先生」という人物に注目し、捜査を続行した。谷口の証言から、岩崎が以前、レイプ事件を起こしていたことが分った。現場は疋田の別荘の近く。鬼貫は、疋田の妻がレイプされて自殺未遂をし、その結果、脳に傷害をきたしたと知り、疋田の犯行を確信した。疋田は、妻の復讐をするため、岩崎を殺したに違いなかった。疋田には、睡眠薬自殺を図り、昏睡状態にあった、という確固たるアリバイがあった。疋田とかな子が昏睡状態にあったのは2日間。目覚めたかな子の連絡で疋田は病院に搬送されていた。だが、かな子がはめている腕時計が手巻きだと気付いた鬼貫は、ある可能性を考えて─。

①美容外科医 岩崎孝夫

 

岩崎を取材していた小説家の中原丈雄は事件当日、担当編集者と別荘で心中未遂をしていたというアリバイがあった。

 

*中原といしのの行動*
09日 2人で別荘へ。夜、酒を飲む。
10日 初めてお酒を飲んだ、いしのが二日酔いで中原が看病。
    夜10時に多量の睡眠薬を服用し心中。
11日 眠り続ける。
12日 朝9時、いしのが覚醒して救急車を呼んだ。

 

中原から自分の前にディーラーの人間が訪ねて来ていたと聞き、医学部時代の悪友 中島陽典が浮かぶ。

鬼貫さん達が訪ねていくと彼は逃亡してしまう。

しかし、翌日には逮捕。

容疑は麻薬の売買で彼は以前から警察の内偵を受けていた。
逃亡したのも、麻薬のことで来たと思ってのことだった。

事件当日は女といたというアリバイがハッキリした。

 

中原は医療ミスを題材にした小説を書こうと岩崎を取材をしていたという。

岩崎が行った整形手術の失敗により、自殺した女性がいた。

女性の入院している病院に話を聞きに行くと、いしのようこがいた。

中原の妻の見舞いだという。

妻は8年前に事故にあって以来、植物状態が続いていると言う。

 

自殺した女性の兄はプロボクサーの寺島進。

事件当日、岩崎の自宅付近で、寺島らしき男を見たと言う目撃証言が出る。

寺島は岩崎を訪ねて腹を殴ったことは認めるが。殺してはいないと主張。
岩崎が「金が欲しくて来たんだろ」と香典5万円を差し出してきたので、思わず殴ったと。

その時、岩崎に電話があり、岩崎は相手の事を「先生」と呼んでいた。

話の感じから、その人がこれから訪ねてくるようだったと。

 

中島から気になる話を聞く。

昔、彼の外車を勝手に乗り回した岩崎がレイプ事件を起こしていた。
車から中島が疑われ、レイプ犯にされかけたらしい。

場所は千葉の勝山にある別荘地。

勝山の別荘といえば、中原が心中未遂を起こしたところ…。

8年前のレイプ事件の被害者は中原の妻。

先に1人で別荘に来ていた彼女が被害にあった。

遅れてきた中原が別荘から男が出てきて、赤い外車で去っていくのを目撃。

中原は自ら犯人を捜していた。

それらしき外車を見つけ、持ち主の青年を追及したが、青年は「盗まれて駅に乗り捨てられていた」と答えた。

それが中島だった。

結局、犯人は分からず仕舞い。

 

鬼貫さんは中原が気になるが、彼にはアリバイがある。

行き詰る鬼貫さんにお母さんが「一杯だけよ」と水割りを出す。

そこで、お母さんは掛時計が止まっていることに気付き、乾電池を探す。

時計が止まっていた…。

 

いしのが12日の朝に目を覚ました時、腕時計で9時と確認していた。

彼女の腕時計は母の形見でゼンマイ式。

毎日回さないと止まってしまうらしい。

そこから、中原のトリックが崩れる。

いしのによれば、最後に腕時計を撒きなおしたのは二日酔いから起きた10日の昼。

心中から覚醒した12日の9時にはまだ動いていたという。

本当であれば、12日には止まっていないとおかしい。

ところが12日にも時計はまだ動いていた。

実際には、二日酔いから目覚めたのは11日で時計を撒きなおしたのも同日だったのだ。

 

初めてお酒を飲んだいしのは、「酔う」という感覚を知らない。

中原は9日の夜に睡眠薬入りのお酒を飲ませ、いしのが実際に目を覚ましたのは11日の朝。

それをいしのに10日の朝と思い込ませた中原は、同夜に睡眠薬で心中未遂を起こした。

そうやって、いしのに2日間寝ていたと思わせ、10日に岩崎を殺害する時間を作ったのだった。

 

岩崎のところで、中島と再会し、犯人が岩崎だと気付いた中原は妻の仇を討ったのだった。

いしのようこは自分の愛を利用されたのに、アリバイが成立しないことを認めない。

そして、そのまま中原と無理心中をしてしまった…。


鬼貫八郎…大地康雄
良子…左時枝
真奈美…間下このみ
疋田十郎…中原丈雄
深町かな子…いしのようこ
西川卓哉…寺島進
谷ロ…中島陽典
松村刑事…米山善吉
岩崎孝夫…奈良坂篤
黒川課長…天田俊明 ほか

【原作】鮎川哲也(『憎悪の化石』より