上戸彩『3年B組金八先生』を視聴する。

さすがに私は、第6シリーズを見ていた世代ではない。今回、じっくり見てみることにしたのだが、上戸彩が予想以上に素晴らしかった。

とにかく彼女が登場するだけで、空気が一変してしまうのである。

その後の、どの上戸彩よりも、この上戸彩は輝いている。 すべての上戸彩を知っているわけではないのだが、たぶん間違いない。

彼女が演じる鶴本直は、放送が始まったのと同じ10月、桜中学に転校生としてやって来る。実は、性同一性障害という悩みを抱えた中学生。 なんとも難しい役どころである。

カミングアウトが行われるのは、当然のごとくシリーズ終盤で、それまではひた隠しに隠されている。 それ故、直は誰にも気を許すことができない。 ただ周囲を睨みつけるだけなのである。

第1回放送では、金八先生ですら直の悩みを知らない。

3B生徒に向かって金八は、「転校してきたばかりで、今はよく知らないからね、ただの女の子に見えるかもしれませんけども……」 などと口走る。 途端、直の眉間にキリキリキリッとしわが寄る。

そんななか、笑顔を見せるシークエンスが2つばかりある。

正義感の強い3B男子、長谷川賢(加藤成亮)に、直は好意を寄せる。 どうしても話がしたくなり、やがて匿名の男子中学生として、メールのやり取りをするようになる。

自分の正体は決して明かさない。 なぜなら、賢にとっての鶴本直は、悲しいことに ‘クラスの女子’ でしかないからである。

‘クラスの女子’ としての直は、やはり賢を睨みつけるしかない。 それでいて自宅の部屋での直は、メールの着信音がすると、心底、嬉しそうな笑顔でPCに飛びつくのである。

さらに夜のジョギングの途中で、直がじっと賢の部屋の窓を見上げる、なんてシーンも挟まれる。 いや、BLファンというわけでもないのだが、こういう展開には萌えてしまう

クリスマスの夜には直とママ、別居中だったパパの3人でディナーを囲むことになる。 都内のどこにあるのか知らないけれど、やたら天井が高く、やたら豪華なレストランである。

パパ役は仮面ライダー1号の藤岡弘、ママ役は「私は泣いています」のりりィ。 これだけでお腹いっぱいなのに、なんと藤岡は上戸をエスコートして、ジルバまで踊ってくれるのである。

なんだか古武術の型稽古のようなジルバで、やや乱暴に振り回されながら、それでも上戸は嬉しそうに笑っている。 このときの笑顔もかわいらしい。 パパが大好きなのである。

しかし直後、非常に残酷なシーンが続く。 悪い人間ではないのだが、ある種の感性を徹底的に欠いている役なんていうのを演じさせたら、藤岡弘ぐらいはまる役者はないのではないか。



笑顔だけではない。 抑えめの声。 ソファーに座り込むときの、脚の角度。 カミングアウト後に荒川の土手を歩く、その儚げな後姿。 16歳の上戸彩は、すべてを見事に演じ切っている。

うまくお伝えできず、もどかしい限りだ……あの空気感。

是非、ご覧いただけたらと思う。 「腐ったミカンの方程式」の世代の方にもおすすめである。 他の共演は中尾明慶、平愛梨、三浦涼介等々。 挿入歌を歌う城之内ミサも、音楽教師として登場する。

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