【いま日本の防衛産業は問題だらけ】
装備品の自給自足ができなくて国を守れるのか
    ♪
桜林美佐『軍産複合体』(新潮新書)

 防衛産業の現場を歩き、最先端でおきている諸問題を抉りだし、防衛問題を底辺からとらえ直す。本書は著者のフットワークの良さを示し、現場からみえてくる国家安全保障議論の欠陥を浮き彫りにする。

 著者は言う。「軍産複合体は国防の基本である」 
 70年代の学生運動活動家が聞けば卒倒しそうな言辞が堂々と謳われている。これまでの禁句がならぶ本書は十分にセンセイショナルである。

 「装備は可能な限り国産で」。
「装備品調達をなぜ競争入札にするのか」
「軍事技術こそ技術立国の基礎である」 

 もっと言えば「戦争は発明の母」だが、本書はそこまでは言及しない。ただ淡々と防衛産業の現場でおきていること、また自衛隊の日々の訓練と、その細かすぎる規則。また国民にはまだ軍人をリスペクトする風潮がないことが描写される。

 重要部分は下記ではないか。

 「日本のおかれた安全保障環境は、いうまでもなく厳しい状況にあります。これまでにない危機にある今、従来のような考え方は通用しなくなってきています。軍と民間企業が他人行儀だったこれまでの慣習と訣別し、新たな時代に切り替わるべきなのです。
 『日本版 軍産複合体』という考え方はあっていい。というより、むしろそれが自然な形ではないかと思います」

 一歩前進があった。
 安保三文書につづいて「防衛生産基盤強化法」が参議院で賛成多数で可決された(令和五年六月)。この法律には、「自衛隊の装備品を製造する企業が事業継続困難になった場合、その生産ラインを国有化し、別の企業に委託する仕組みも盛り込まれています。」

 従来の政府と企業とのつめたい関係が多少は流れが変わったのである。
というより、一歩二歩と「ふつうの国」に近づいているのである。

 また防衛技術のイノベーションは民政分野の発展に寄与する。経済的波及効果があることは歴史が実証している。
 インターネットは軍の通信技術から発明された。エンジンは武器開発から、半導体も軍事装備品の研究・開発の過程から産まれたのである。

 本書のもうひとつの特色は自衛隊の待遇改善、再就職先の拡充、「自衛隊の恒常的な定員不足は少子化によるという口実で逃げていて良いのか?」とする問題提議が含まれていることである。

以上「宮崎正弘の国際情勢解題」より。

続いて「軍事情報」より転載します。

【日本に足りないシステム&法整備(5)】『ライター・渡邉陽子のコラム (470)』

こんばんは。渡邉陽子です。日本に求められる法整備について、引き続き伊藤氏のインタビュー記事のご紹介です。

■日本に足りないシステム&法整備(5)

不審な船を日本に近寄らせないためには、まずは衛星やレーダーなどを駆使した複合的かつ専門的に目標の整合ができるシステムが必要ですし、そのためには省庁横断的な人員の確保をしなければ監視などできるはずがありません。

統一朝鮮から海路で来るのは、漁船のような小さな船の可能性が高いでしょう。それに爆弾や化学兵器が搭載されているかもしれないし、テロリストが乗っているかもしれない。日本はそれを、いつ、どこで、どうやって見つけ、止めるつもりなのでしょう。海保に丸投げしている状態で、どこまでできるのか。全関係省庁が一体となって見ない限り、ザルもいいところです。

これまでにも日本海にはハングルの書かれた木造船が漂着しています。漂着して地元の人が見つけるまで、その船が日本の海岸までたどり着いたことに関係省庁は気づいてもいないのです。これは大変深刻な事態で、海から来るものに対する対処ができていないということです。海洋における「取り締まり」という概念が、日本はきわめてお粗末です。

有事の際にこのような漁船が来ても今は止める術がなく、平時においては取り締まることすらできません。軍人やテロリストが乗っているかもしれないのにも関わらず、です。

一方で、海保は行政官庁なので危機感は持つものの、法律や組織を変えてまでなにかをなすという概念をもっていません。いざという場面に遭遇しても「ここまでしかできません」と言うのでしょう。「できないじゃなくて、なんとかしないといけないんじゃないか」という議論については、「それは政治が考えること」と突き放す可能性が高いのです。

2019年10月、能登半島沖の日本のEEZ(排他的経済水域)にある大和堆で、水産庁の漁業取締船と衝突した北朝鮮漁船が沈没しました。北朝鮮の乗組員60名は水産庁の救命いかだなどで救出され全員無事、付近にいた別の北朝鮮籍の漁船に乗り移って去りました。

実はEEZを定めた法律には、わが国のEEZを侵された場合の罰則規定がありません。だから目の前で逃げ出した北朝鮮の乗組員を黙って見過ごすしかないのです。

私は3等海佐のとき、外交問題の調整および首相に対する補佐機関である外政審議室が主催する「国連海洋法条約批准に関する担当者会議」に出席したことがあります。会議は、外務省出向者の外政審議室担当者が仕切って進められる中で、その担当者がさらりと言いました。

「今度の海洋法批准にあたっては、中国を刺激するので直線基線は採用しません」。(注:基線とは領海の範囲を測定する際に基となる線のことで、そのうち海岸線が複雑に入り組んでいる場所や、沿岸に群島がある場合、岬・半島や島嶼の突端など適当な地点を直線で結んだものを直線基線といいます。日本の海岸では合計162本の直線基線を採用しています)

またその後、EEZは採用するが経済官庁で法律を作成し、これが侵されたときの罰職規定などは明記しない方向性が示されたのです。そしてその後の質疑で、「取り締まりについては、現行法の漁業法や刑法を適用することでお願いします」と言いました。これはすべての判断を現場に押し付けるということで、さすがにこれを聞いた海保の担当者が噛みつきました。

(つづく)
ライター・渡邉陽子のコラム」バックナンバー
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