北朝鮮がロシアに接近した背景は?軍事面での協力強化のほかにも“狙い”があった 長年ロシアで働いた脱北者が語る“もう一つの理由”(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース

 

北朝鮮がロシアに接近した背景は?軍事面での協力強化のほかにも“狙い”があった 長年ロシアで働いた脱北者が語る“もう一つの理由”

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「お洒落な男性!」 それが、韓国・ソウルのホテルで彼と初めて出会った時の印象でした。ソウルで流行しているヘアスタイルにファッション…。「脱北者だ」と言われないとわからないほど、彼は韓国社会に溶け込んでいるように見えました。

 

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北朝鮮は2020年1月の新型コロナウイルス感染拡大以降、国境を封鎖。事実上の鎖国政策をおよそ3年半にわたって続けてきました。しかし今年に入り徐々に国境を開放。9月には金正恩総書記がロシアを訪問してプーチン大統領と会談するなどロシアと急接近しています。また、11月には軍事偵察衛星の打ち上げに成功しましたが、成功の背景にはロシアの技術があったのではとも指摘されています。

 北朝鮮で今、何が起きているのか。

ロシアで長年働き、2020年以降に脱北を決意した男性が語る、北朝鮮とロシア、接近の理由です。

 

 ■「北朝鮮は軍事力に莫大な投資をする裏で国民は苦しんでいる」

 

 ーーーあなたは5年以上ロシアで暮らしていたということですが、ロシアの生活はどうでしたか? 

 

「北朝鮮と比べると、すべてがとても便利でした。24時間、簡単に水が出て、お湯も電気も自由に使えました。北朝鮮では手作業でするような労働も、ロシアでは機械でやることができました」

 

 ーーーロシアではどんな仕事をしていましたか?

 

 「ロシアにある、北朝鮮の建設会社で働いてきました。様々な建設プロジェクトに関わりました。アパートを建てたり、内装作業を行なったりです。ロシアには私たちだけでなく、ウズベキスタンやカザフスタンなど中央アジアの国々からもたくさんの労働者が来ていました。しかしロシアの会社は北朝鮮の労働者を好む傾向がありました。仕事を丁寧にこなし、安い給料で長時間働いても文句を言わないからです。北朝鮮は、ロシアへの労働者派遣を非常に重要視しています。貴重な外貨獲得手段だからです」

 

 ーーー北朝鮮が外貨獲得手段として労働者を派遣しているということは、北朝鮮政府の指示があるということでしょうか?

 

 「本国からの指示をロシアにある北朝鮮大使館が、現場の労働者に伝えていました。

週に一度、大使館に建設会社の幹部らを集めて『北朝鮮人ならば死ぬまで服従しなければならない』といった指示を出します。

北朝鮮国内で資金が足りない時は、『支援金を出しなさい』という指示が、出たこともありました。

また、建設会社は常に大使館に『上納金』を納めなければなりませんでした。

大使館の指示は絶対的でした」

 

 

 

ーーー2020年1月に新型コロナウイルスの感染が拡大しましたが、どんな影響がありましたか?

 

 「コロナになって、経済活動は滞りました。

それでも会社としては北朝鮮大使館に上納金を納めなければならず、かなり辛い状態でした。

一方、北朝鮮ではアリ一匹も入れないというくらい厳しい国境封鎖が行われました。

海外から入ってくる物資が全て遮断され、米などの生活必需品は高騰したと聞いています。

5リットルの食用油が100ドルにまで高騰したそうです。

 また、首都・平壌に物乞いをする子どもたちが現れたと聞きました。

物乞いをする子どもたちはコチェビと言いますが、

コチェビが平壌に出現するということは、北朝鮮の危機を知らせるシグナルでもあります。

コチェビは道端で『おじさんお金をちょうだい』と言ってきます。

もし払わないと石や砂を投げてきたりします。 

餓死者も出たと聞きました。

北朝鮮の経済は、国境の封鎖により最悪の状況に陥ったのだと思います」

 

 ■「金正恩総書記に裏切られた」男性が脱北を決意した理由

 

 ーーーなぜ脱北を決意したのですか?

 

 「理由は二つあります。私はロシアに来て初めて外の世界を知りました。

 それは自由な世界でした。私は北朝鮮という孤立した空間で暮らしていたのだと知りました。

世界はお互いにつながっているのに、北朝鮮だけが孤立しているのです。

『私はこの世界の一員になりたい』、と思ったのが脱北を決意した理由の一つです。

 

 

 『金正恩総書記に裏切られた』と思うようになったことが、もう一つの理由です。

以前、私は金正恩総書記がとても好きで、尊敬していました。

本当に他人に笑われるほど、金正恩総書記と金ファミリーを称賛していました。

しかし、実際は軍事力に莫大な投資をする裏で、国民は苦しんでいることを知りました。

金正恩体制は国民に関心がなく、政権を維持することしか考えていないのではないかと思うようになりました。

そして、北朝鮮に戻って『金正恩氏万歳』と叫ぶのは、あまりにも耐えられないと考えるようになったのです」

 

 

 

 

ーーー脱北は大変ではありませんでしたか?

 

 「脱北をサポートする人たちの助けを得て、ロシアから第三国を経由して韓国へと渡りました。

北朝鮮から直接脱北する人たちのように、川や山を越えなければならないわけではなかったので、

彼らほど厳しい経験はしていないと思います。

それでも、ロシア警察の目を気にしながら、本当に韓国にまでたどりつけるのか不安でした。

私のようにロシアに働きに来て、脱北を決意する人たちは他にもいます」

 

 

 ーーー北朝鮮のロシアへの接近の背景をどう考えますか?

 

 「北朝鮮にとって、労働者派遣をするのに一番いい国は、ロシアです。

金正恩氏はロシアに労働者を派遣したくてしかたがないものの、

派遣できないのが悩みだと聞きました。

 2017年に行われた国連制裁決議で、

2019年12月までにすべての労働者を北朝鮮に送還しなければならなくなりました。

2019年4月に金正恩氏が初めてロシアを訪問した際、

プーチン大統領に『労働者を受け入れて欲しい。制裁を解除してほしい』とお願いしたと聞いています。

しかしプーチン大統領は受け入れませんでした。

そのため、多くは国に帰らざるをえなくなり、

ロシアにいる北朝鮮労働者は10分の1にまで減りました。

残った労働者たちも、正規の就労ビザではないはずです。

 今回、金正恩氏がロシアに行った背景には、当然、軍事面での協力強化という狙いはあったと思いますが、

改めて北朝鮮労働者をロシアに受け入れて欲しいという思惑もあったのだと思います」

 

 

 ーーー今後、ソウルでどのような人生を送りたいですか? 

 

「今はアルバイトをしながら生計を立てています。今後はロシア語を活かした仕事をするためにも、まずは韓国の大学や大学院に行きたいと思っています。そして、『脱北者でも韓国社会で成功出来る』ことを示したいです」

 

 

 ■韓国の情報機関も注視“

 

北朝鮮労働者のロシア派遣”専門家の分析は? 

 

ロシアへの労働者派遣をめぐる動きは、韓国の情報機関「国家情報院」も注視しています。12月11日、ロシア沿海地方の代表団が北朝鮮を訪れ、両国の経済協力をめぐって協議が行われました。韓国メディアは国家情報院が「北朝鮮からロシアに対する労働者派遣の動きに進展がある」と分析していると報じています。 また、消息筋によると9月に行われた首脳会談を通じ、ロシアと北朝鮮は水面下で建設作業員をロシアに派遣することで合意。ロシアが一方的に併合したウクライナのドネツク州などに派遣されるのでは、という情報もあるということです。 北朝鮮労働者が稼いだ外貨は、ミサイル開発に使われている可能性が指摘されていて、国連の制裁の対象となっています。ロシアが北朝鮮労働者を受け入れる可能性はあるのか…。北朝鮮政治が専門の慶應大学・礒﨑敦仁教授が、両者の思惑について解説します。

 

 

 

 

ーーー北朝鮮労働者のロシアへの派遣の可能性についてどのようにみていますか? 慶應大学・礒﨑敦仁教授: 北朝鮮としては労働者派遣が従来から非常に重要な外貨獲得の手段であったわけで、経済制裁で禁じられてしまったことは非常に痛いことです。一方、ウクライナ侵攻したロシアは、いまさら国連安保理の制裁決議を守るかどうかという次元では無くなっています。ロシアの労働者が不足しているのであれば、北朝鮮としては「制裁違反になるがかつてのように労働者を受け入れて欲しい」と要請してもおかしくはない状況になっているとみられます。

 

 特に、ウクライナのドネツク州などについて、北朝鮮は“ロシアの領土”として国家承認をしているわけですから、そこでの労働力として北朝鮮労働者を受け入れて欲しいという思いは、外貨獲得目的の観点から当然あるとみられます。そして、それはロシア側の思惑とも一致するものになります。

 

 

 ーーーコロナ後初の外遊先として北朝鮮が中国ではなくロシアを選んだ背景には何があるのでしょうか? ウクライナ侵攻以降、ロシアがアメリカを中心とした西側諸国と対立する中、「反米」「反帝国主義」で一致できることが首脳会談実現の背景にあったものとみられます。 ただ、ロシアと北朝鮮がいかに接近しようとも、北朝鮮にとって、ロシアは中国に代わる存在にはなり得ません。北朝鮮にとって最大の貿易相手国は中国で貿易の9割を占めていて、中国が圧倒的に重要な存在であることに変わりません。ただ、北朝鮮としては中国だけに頼らず、リスクヘッジのためロシアとも協力をしながら独自路線を歩みたいという思惑があり、ロシアとの協力の深化というのを今は重視しているとみられます。                             北京支局 松井智史

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