麻実れい目当てで観に行った「炎 アンサンディ」は素晴らしい作品だった!
去年の再演は観に行かなかったが、この作品が同じ作家ワジディ・ムワワドが書いた脚本であることを知って観に行こうと思った。
前作に出演していた岡本健一や栗田桃子も出演しており、その他にも中嶋朋子など演技派の役者が揃っている。
劇場はシアタートラム。
この劇場での観劇は、今年初めて。
小劇場でとても観やすいが、こういった長尺の作品は少し疲れる。。。
開演と同時に登場する青年ウィルフリード(亀田佳明)が語り始めるある夜の出来事。
最初の演出が少し抽象的でよくわからない。
その夜受け取った電話でウィルフリードは、しばらく疎遠だった父イスマイル(岡本健一)の死を知らされる。
彼は父親を母ジャンヌ(中嶋朋子)の墓に埋葬しようとするが、母親の親族から猛反対されてしまう。
そこから、父親を埋葬する場所を探す旅が始まる。
ウィルフリードは亡くなった父親を背負って旅を続けるが、その父親が度々立ち上がり、彼に話しかけてくる。
最初は回想の物語なのかと思ったが、イスマイルは少しずつ腐敗していき、埋葬の旅が続けられることから、父親は何かの象徴なのかと考え始める。
また、度々登場しウィルフリードを取り囲む映画撮影隊には「これは、劇中劇みたいなものなのか?」とも思うし、彼が子供の頃から抱いている空想上の人物である騎士ギロムラン(大谷亮介)が登場するに至っては、物語の根幹がどこにあるのかさえわからなくなり混乱する。
休憩を挟んだ後半では、旅を続ける仲間が増えていく。
歌う娘(中嶋朋子)や、電話帳を運びながら亡くなった人の名前を記録する女(栗田桃子)が登場し、おとぎ話のようなファンタジー性が強くなってくる。
誤って父親を殺してしまったアメ(小柳友)、父親を知らないマシ(鈴木勝大)は、父親を亡くしたウィルフリードとリンクする。
「炎 アンサンディ」の背景にも戦争があったように、アメの過去には戦争の悲惨さが見え隠れする。
リアリティとファンタジーが交差し、荒唐無稽な展開もみせるが、そこに共通しているものは父性の存在。
埋葬する場所を探してたどり着いた海で、ウィルフリードに同行した仲間たちがイスマイルを自分の父親に見立てて、それまで抱えてきた想いを吐露する場面が象徴的だ。
物語の中心となる岡本健一と亀田佳明以外は複数の役を演じており、全員がほぼ出ずっぱりな感じがする。
小劇場でありながら複雑なセットが組まれており、大きく動くことはないが、どこから登場するのかという立体的な面白味もある。
正直なところ、話の筋やテーマを追いかけようとすると訳が分からなくなる。
難題を抱え、仲間と出会い、ぶつかり合いながらもその困難を乗り切っていく・・・ある意味王道な展開だし、本来語るはずのない死者が語る言葉に笑ったり、共感したり・・・難しいけれど、面白さもある。
「約束の血4部作」と言われる作品群の第1作と呼ばれている本作。
「炎 アンサンディ」、「岸 リトラル」の次は・・・?