そんな夜中に帰る途中、不動堂の中から人がうめく声が聞こえた、住職は不審に思い、火をともしてよく見てみると、男が丸まって手に財布を握って苦し気に横たわっていた。盗人だと早太鼓を鳴らすと村中の人が集まった。

 

「水を飲ませて欲しい」という。村人はこの男の体のでかさに驚いてひざまずいた。

 

「私は浪人で生活の糧がなく妻子を養う金もなく、盗みをいたした。やっとやっとの生活をしているところに、この不動堂に寄付金が集まっていると聞いて、盗みに入ってやっと財布を盗み出ようとしたところ、大きな僧侶が追いかけてきて、それを返せ。さもなければ目に物を見せてくれると。やり返してやろうと思ったところ、五体が縮んで息も切れてこのようになってしまった。その後の事は思い出せない。」という。

 

直ぐに住職が出てきて

 

「金を返してくれれば、何もしない。仏のお慈悲であるから、命は助けてやろう。」

 

といった。

 

「恐ろしい目に遭った。これ以降は盗みを止めます。出家し隠遁します。お許しください。」

 

と言った。村人は、

 

「盗人が嘘を言うな。簀巻きにして海に沈めてやろう。覚悟しろよ。」

 

というので、住職は押しとどめた。

「それはそうなんだが、この者の話を聞くと御本尊がこの盗人を捕まえた。即ち不動の金縛り[1]というのはこういう事。もっとも憎たらしい奴ではあるが、ご本尊の前で金を返すと言っているし、仏の慈悲で助ける事もあるので、凡夫の我々が命まで取るのは罰が当たるというもの。ここは助けてやろう。」

だが村人は聞き入れようとしなかった。

 


[1]  不動明王の持つ羂索によって悪魔を縛って動けなくさせる術。転じて、人を、自由に動けなくする術。修験者の秘法の一つという。

 

金縛りって本来はこういう事なんですね。