ある所に上手だと評判の大工がいた。ある金持ちの家の改築したところ、巷の人は賞賛した。この大工は慢心が起こり、世の中に自分ほどの名人はいないと思うようになった。すると夢の中で、山奥に生えている木が現れて、大工に言った。

「お前は愚かなことに、自分は上手だと思っている。実に憎たらしいことだ。お前にどれだけ技能があろうが、この材木がなければ家を立てられないだろう。今回良い家を建てたと人に褒められたようだが、それは私のお陰だ。お前の功績はこの俺のお陰だ。」

と木が威張って罵った。そこにのこぎりがぬっと現れて

「木よ、威張るな。お前の功績はこの俺のお陰だ。俺がいなければ、お前なんぞこの山の中で腐っていただろうよ。俺が切り倒して連れてきたからだ。」

とそれぞれが自分の功績を誇ろうとしているところに、斧がでてきて

「おい、のこぎり。威張るなよ。お前が引いたところで、この俺が割らなければ、どうやって材木にするというんだ。家ができたのは、この俺のお陰だ。」

そこに鉋が走ってやってきて

「お前こそ威張るな。お前が振り回したところで、俺がいなけれなきれいに削れない。家を作る功績は俺が一番だ。」

そこにノミがやってきて、

「とんでもないことを言ってやがる。木を削ったところで、俺がいなければどうやって家が建つというんだ。俺のお陰だ。」

というところに、キリが身をもんでやってきて

「自分ばかり威張るなよ。お前がいくら彫ったところで、俺がいなければ家がしっかりできるはずがない。工事は俺がいたおかげで出来たんだ。」

そこへ釘抜がやってきて、

「お前が一番だと思ってるんじゃねぇぞ。お前がいたところで、俺がいなければ穴ばかりじゃないか。お前こそ無駄だ。俺こそが一番の功績者だ。」

と罵る所に、金づちがガタガタと走り寄ってきて、釘の頭を叩いて

「さっきから聞いてりゃ、お前らみんな俺のお陰だと言ってやがるが、俺様が一番だ。」

と全員を叩きまわった。その勢いはまるで戦場の武士のようである。そこに

「金槌よ。お前も威張るな。」

と悠然と墨壺、指金[1]、ぶん廻し[2]、水もり道具[3]が揃って大声で言った。

「お前たち、全員威張るな。所詮みんな兵卒ではないか。俺たちが指示しているのだから、お前らの功績にするかしないかは俺たち次第だ。俺たち以上の者はいない。これ以上言うな。」

といったところに、小判がピカピカと現れてきて

「お前たち威張るのは止めなさい。どれだけお前たちが知略があっても、この金銀がなければどうしようもない。どんな国の家の工事でも、よくできたと誉めるのは、みな俺がよく働けるように指図したからだ。どんな工事でも、俺の手伝いがなければ悪く、手伝いがあればよくなる。大工道具も材木も大工も動かしているのは、俺の力で俺のお陰だ。俺以上の存在はない。全員頭を下げ手をついて、拝めよ」

と大いに威張った。ちょうどそこに、輝く天から声がしてきた。

 

黄金をば 口なし色と 申せども 多くは これが 物言いとなる


[1] 定規のこと。

[2] コンパスのこと。

[3] 勾配計のこと。

 

女であり、母であり、勤め人であり、妻であり・・・と言いたがる政治家はいますが、男であり、父であり、勤め人であり、夫であり・・・という男性政治家はいません。フェイニズムは実に浅はかな思考ですよ。

 

もっともこういう業績に見せびらかしはいるもので、男でやるのは相当みっともないです。こういうのは止めましょう。