ある山奥で一匹の鹿がいた。普段から、熊や猪と付き合っていた。自分の足は細く、猪や熊に劣っていると恥じて、へり下って慎んでいた。猪と熊は鹿を可愛がって食事を与え、狼が来たら追い払うような仲の良さであった。

 

ある日この鹿が谷川の水に映った自分の姿を見て、他にはないかっこいい二本の角があるのに気づいた。こういう見事な角は他の動物にはないだろう。でも自分でこの角があることに気づいていないで、ただ自分の細い脚だけを見て猪や熊のいうことに従っていたのは実に愚かなことだ。これからは、この角で猪や熊の上に立ってやろう。

 

これ以降、猪や熊と会うたびに角を振って威張った。猪や熊はこいつを殺そうとした。

 

世の中はだいたいこんな感じで、自分で優れている点を優れていると威張れば、その優れた点は失われる。自分は劣っている点を劣っているとしていれば、人は却ってかわいがってもらえるものだ。何事も、こういうことを守って、頭を下げておきなさい。

 

世の中に何を誇って、何を驕ろうとするのか。

 

鶴の足は長いからと言ってもかえって悪いことにつながるし、鴨の脚は短いからといっても場合によっては役に立つ。何をするにしても、一徳一失あるものだ。どんなことでも是の部分があり同時に不是がある。

 

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外国人によく言われること。アメリカ人の「できます」と日本人の「大したものではない」は一番信用ならん。アメリカ人の場合は、やらせてみてできなければさっさと解雇ですからそれでいいのでしょうけど、日本人でそれをやったら可愛げがないとフルボッコにされるでしょう。

 

さて、経営学の手法にSWOT分析なるものがあります。これは、自分の強みと弱み、市場の機会と脅威を十字に切って該当するものを片っ端から入れていき、思考を整理する方法です。「いいところなんかないよ」という人がいますが、とにかく悪いところだけでも書かせます。

 

次にやるのは、ではその不利な点あるいは有利な点はどうして不利なのかあるいは有利なのかを考えます。すると、以外にも不利だと思っていたことは、前提条件が変われば簡単にひっくり返せる、有利な点も簡単に不利になりえるものが見えてきます。それは社会制度であったり、取引構造であったり、技術であったりします。

 

全ては驕れるものは久しからず、いつでもチャンスはやってくるのです。チャンスがないと考えるのは、見るべきものを見ていないのです。

 

その上で、威張らずにこやかに対応しましょう。