出入りの者はこれまでくず米を分けていたが、この下男が小賢しかったため、厳しく判断して取り立てた。例年と違い収納米三四十俵も多く収入が出た。このことから番頭や手代はこの効果に感心して、二番頭に相談した。

「あの下男はなかなか役に立つ男です。これから給米[1]を十俵ほど取らせて手代にしてやってください。」

と申し上げたところ、二番頭は眉をひそめて

「いや。あの下男はあまり宜しくない。まずがこれを見て欲しい。」

と肘のしわをつき出して見せた。

「人の身もこのしわがなければ自由にならない。主人にくず米を三十俵増やして納めさせたのは忠義のように見えるが、あの下男は人の道を理解していない。自分が功を立てることばかり考えているから、かえって害になって主人が人から嫌われるようになることを理解していない。総じて出入りするものは、先祖からの縁があるもので昔から仕えているものが多い。我々同様に主人のために思っている者たちである。いずれも貧しいので、以前から雇っている賃金の他、少々のくず米や古い菰の縄などそれなりに与えていたのだ。こういうことのゆとりでようやく父母や妻子をやしなっている者たちである。それに我々の主人は今このくず米三十俵がなければならない身分ではない。あの下男がこの三十俵をひねり出せば、この者たちの首を絞めているのと同じであろう。そうなれば主人を悪人にして家を亡ぼすきっかけとなろう。下々の出入りする者までも恵みを取り上げて、それをもとに功績にしてもし十俵貰えば、どんな天罰が下るだろうか。これは下男の身であるから知恵も今一つ、気づかないで追い詰めて甚だ痛ましいことだ。絶対にこの者を手代にしてはならない。必ずこの問題点を伝えて、主人をはじめ我々までも天罰を受けないようにしなさい。」

と申し付けた。

 


[1] 給米は、給料としての米。

 

これには同意できません。確かにくず米まで回収しなければ食っていけない立場ではないにせよ、どこまでが自分のモノなのか出入りの者のモノなのか明確にしなければ駄目でしょう。そのうちここまでは自分のモノだと勝手に持ち出すものが出てきて、それこそ家を崩壊させる原因になるでしょう。

それこそ、こういうのが放漫経営のきっかけですよ。

むしろしっかりくず米30俵集めたうえで、出入りの者に褒美として渡した方がよほど良いと思います。