午後6時になっても、未だキイノは蓮の屋敷に戻って来ていない。
 当然、田部の隙をついてツグオが逃げ出した事も報告済みだったが、これを公にして警察に捜索願を出すなどしなかった。
 スミレにも連絡が入って林檎屋敷を訪れて待機していた。
 今、芸能事務所の社長花蜂鬼は眠ったまま、今回は異常に長い眠りに這入っていてスミレらが心配している矢先のキイノの失踪だった。
 この屋敷の中でキイノが消えてしまったと言うのに、誰一人騒ぎ立てる者はいなかった。一人、使用人のカキだけが、厨房で椅子に掛けてうな垂れているだけだ。
 蓮も書斎に籠っている。そこに、電話が鳴って、蓮は急いで受話器を取った。

「はい、蓮です。あ……はい、この度は大変なご迷惑をお掛け致しまして……」
「犯人は西芝だと聞いたぞ。蓮。西芝の奥方がキイノ君を偶然街で見掛けて忘れられずに、怪しい集団に捜索を依頼していて実行させた挙句、協力したのも西芝本人だ」
「怪しい集団とは……?」
「ふふふ、西芝が喋らないのだ。忘れたと言い張っている。先程、老子の所に部屋に閉じ込めていたキイノ君が突然居なくなったと泣き付いて来て発覚した……」
「はっ、キイノは……」
「安心したまえ。坂の交番の近くで巡査が保護して、少女は自ら名乗ったそうだ」
「少女……はい、有り難う御座いました。大統領」

 受話器を置くと、廊下で待機しているのを知っていた蓮が声を掛けた。同時に、書斎のドアをノックしてスミレが室内に這入って来た。蓮は安堵の表情をして歩んでゆき彼女を抱きしめる。そして、蓮は椅子に掛け、スミレはその膝の上に尻を乗せて後ろから包み込んだ彼の腕に体を預けるようにして会話をする。

「キイノは大丈夫なの?」
「西芝邸から逃げ出して、今は坂の交番で待っているはずだ」
「もう、6時を過ぎているから、交番では全てが明白になっている」
「あいつも魔族の端くれなら、上手く誤魔化せるはずだ」
「妹には厳しいのね。しかし、西芝代議士がキイノを誘拐するとは……」
「怪しい集団が絡んでいるらしい。大統領が言っていた」
「危険分子か、何処にでもいるでしょ。とにかく、キイノを早く迎えに行かなきゃ……」
「もう少しだけ、後5秒、このままで……」

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