日本オペラシリーズ No.86

倉本 聰 原作

渡辺俊幸  作曲   /    吉田雄生  オペラ脚本    オペラ全2幕  新作初演

 

2024 年  2月11日(日 祝)  14::00開演  めぐろパーシモンホール  大ホール

 

総監督    郡    愛子

指揮        田中祐子

演出        岩田達宗

 

勇太 /  村松恒矢    才三 / 渡辺康      かつら/ 光岡あき    ミクリ/  相樂和子    スカンポ/   井上華那

光介/   和下田大典      信次 /  勝又康介     民吉 /  泉良平       ニングルの長(カムイ) /   山田大智

かや /  長島由佳      信子 /  佐藤惠利

 

合唱           日本オペラ協会合唱団

管弦楽       東京フィルハーモニー交響楽団

合唱指揮    河原哲也

 

日本のオペラの新しい形を模索して、今回よくまとまった形を見た気持ちがいたしました。

 

新作オペラでしたので、なんの先入観もなくそのままを経験させていただきました。

今までもオペラ協会の日本のオペラを何回か経験させていただいておりました。

今回の《ニングル》はその中でも、かなりのメッセージ性が高いオペラのように思いました。

《ニングル》の「ニン」とは「縮む」、「グル」とは「人間」の意味だそうです。

妖精と言うよりは、もともとそちらに住んでいた原住民の人たちのことのようです。

背が低い小さい人のようです。

 

お話ではニングルが、人間の前に姿をあらわして、開発をやめるように話をするのですが、実際には、ニングルの姿は見えないのです。

場所が家の中であったり、森の奥であったり、黄泉の国と現実の世の中と微妙に通じていたりする場面は、流れを止めることなく色々、工夫されておりました。

今回のこのオペラは、夢か現かわからないような時がありますので、奥まったところに氷の世界のような黄泉の国の入り口のような設定で、そこへ続く長い階段で様々な場を構築していくようになっておりました。

木の精のような4人の体格が異なった踊りの方々が結構大活躍でした。大道具の移動やら、大きな布地で覆い隠したり、それを取り払ったり、結構様々な動きに参加されておりました。

他の合唱団の方も、計算された動きでした。

全体の話の流れもスムーズで、音楽の山場を形作るところも、歌手の方が熱唱されてメロディーと日本語のバランスも良かったように思いましたが………

事前の解説で総監督の郡さんがおっしゃっていましたが、まず日本オペラを取り上げるにあたって、1つの要素として「わかりやすいこと」をあげていらっしゃいました。

この話をオペラにしませんか、という段階から強く惹かれるものがあったとのこと。

倉本聰 原作といったことで、話の運びがわかりやすく、同時に非常にドラマチックな展開になっているのです。

脚本をお書きになっている方は、元々このお話を演劇にするための脚本をお書きになった方で、事前の解説でお話をされていました。

きっとその時の経験が今回生きているのだと思われます。

原作者も演劇という形にするにあたって、それを脚本家に一部改変することもお許しになったそうですから、それが今回のオペラ化にも繋がっているように思いました。

わかりやすいオペラで、音楽も現代音楽と言うよりは、民族音楽風な部分もあり、しかも打楽器などを多く入れて、森の雰囲気を出すことも意識されたとのこと。

 

今回は珍しく、オペラが終わった後に、作曲家の方と指揮者の方のアフタートークもありましたので、聞かせていただきました。

 

この上演に至るまでのお話はかなり興味深かったです。

まず、作曲に対して、原作者に要望があるか訊いてみたところ、木でできた太鼓を入れて欲しいとのリクエストがあったそうなのですが、オーケストラの中で叩くには音量が低く、和の太鼓ということで締め太鼓をつかったようです。その代わりマリンバなどの木の感触のする楽器を取り入れたとのことでした。

指揮者の田中さんもこの公演を、五島記念文化賞受賞の成果発表公演として位置づけられたようで、かなり力を注いでいらっっしゃったようです。

この間他のお仕事を断って、このオペラの練習に通い、その一人一人の歌手の持っている癖や特徴なども全て把握なさっていたとのこと。

このお話の中で一番ズキンときたお話は、作曲家の方が歌手の音程に関してはかなり厳しく、「作曲家は1つ1つの音を考え抜いて書いているのだから……」というお話でした。

歌い手に対して厳しい一言でしたが、心に響いたお言葉でした。