新聞小説 「ひこばえ」(19) 8/21(432)~9/7(449)
作:重松 清 画:川上 和生
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感想
今まで姿が見えなかった将也さんが登場。
しかし報道陣を恐れ、自らコケて病院送りとはカッコ悪い。
またどう考えても、この真知子というキャラのズッコケ振りには恐れ入る。LINEの記録があるなどと取ってつけた様な事を言い、結局それも嘘。一体このシチュエーションに何の意味があるのか。
単に行数を稼ぐためだけとしか思えない。
後藤さんと将也さんの再会シーンもイマイチ乗り切れない。
後藤さんはスパルタだったんだろう?
中高一貫校に入れるため、けっこう厳しい事をやった筈。
幼児の頃の「いけないマサくん飛んでゆけー」なんて時期の、その後があった筈だろう。
息子の大学卒業時期に自分の会社が潰れ、その後次第に仕事に対する息子への負い目、妻に死なれてからの失意。そんな時期にも息子とのイザコザがあった。
頭をなでられたぐらいでそれが氷解するわけがない。
頭に手を乗せる?シャクティーパットか!
もう、洋一郎の父親に対する独白といい、この作者自体が崩壊している感じで、全く頂けない。
次が最終章になるとの情報がある(多分今月末で終了)が、各エピソードがみな中途半端で、どうにもやりきれない思い。
重松清って、こんな作家だったっけ?という?マークがいっぱい付いた今回の読書レビュー・・・・・
ここまでのハズレは、金原ひとみ以来か(笑)
あらすじ
第十八章 親父と息子 1~17
短冊の飾り付けも終わり、早くも後片付けの話に。
最近では可燃ゴミで出すという話に「風情がない」と嘆く神田さんも、子供の時川に流した記憶しかない。
お焚き上げの話から、川端さんが照雲寺に電話をかけて、道明和尚から快諾を得た。
そんな時に真知子さんが、スマホで調べものをしたついでに拾ったニュースを伝える。後藤さんの息子さんが、羽田空港でケガをして病院に運ばれたという。
事の経緯。シンガポールから帰国した将也さんは、記者を異常に警戒し、人混みの中から勝手に不審者を見出してエスカレーターを駆け下り、転げ落ちたという。そして救急車で病院に運び込まれた。
だが将也さんの情報はもはや賞味期限切れ。たまたま空港に居た別件の番組スタッフがカメラを向けたが、単なる一行記事に終わった。
洋一郎はすぐに将也さんの会社の細川室長に電話をかけた。
最初は全く情報をくれなかったが、折り返しの電話で、少しの間なら親父と会う、という将也さんの言葉を伝えた。
それを受け、神田さんの商用バンに乗り病院へ向かう後藤さん、洋一郎、そして真知子さん。
後藤さんの自分史にとって、ここが最高の見せ場になる、と決め付けて参加した真知子さん。
着いたところは羽田空港近くにある、大森の救急病院。
神田さんは車で待ち、後藤さんに「しっかり叱れ」と見送った。
後藤さんと洋一郎、そして当然の様に付いて来る真知子さん。
部屋に行く途中で、父に叱られた時の事を不意に思い出す洋一郎。
三十代半ばの父の顔がくっきりと浮かんだ。叱られた後、乱暴に頭を撫でられる自分。五十五歳の自分が、やっと父に会えた。
雰囲気が変わった洋一郎や後藤さんを見て驚く真知子さん。
通されたのは前室に応接間を持つ最高級の個室。
慇懃無礼な細川室長が、真知子さんを見咎めた。
ハーヴェスト多摩のスタッフという口裏合わせをしていたのに、フリーライターだと暴露する真知子さん。
更に病室に居る将也さんを挑発する様に、浮気相手と将也さんのLINE記録を持っているとも言った。
更に声を上げる真知子さんは将也さんを、ダメなお父さんを厄介者扱いにして施設に放り込んだダメ息子だと決め付けた。
それまでずっと黙っていた後藤さんが、真知子さんに取り消してくれ、と言った。
私はダメ親父だ。でも息子は違うんだ・・・・ハーヴェスト多摩の様な立派な施設に入れてもらって、これ以上の親孝行がどこにある?
本当に幸せだ。だが実際は酒に逃げる生活。目が合った。
「でも・・・寂しいんだなあ・・・なんでだろうなあ、毎日寂しいんだよ・・・」
涙ぐむ後藤さん。
後藤さんに話しかける洋一郎。川端さんの農園で生き生きと働いていた後藤さんは、幸せ一杯に見えていた。
ハーヴェスト多摩を出て和泉台ハイツ205号室に引越し、川端さんの農園で働く後藤さんの姿をイメージする。
身勝手な押し付けだが、このままでは終えたくない。
その時、右手を吊り、松葉杖をついた将也さんがドアを開けて姿を見せた。
真知子さんに、さっきの話がハッタリだと言った。将也さんたちはLINEを一切していなかった。挙動不審になる真知子さん。
だがその話はそこで終わり、父と息子の対面。
改めてハーヴェスト多摩への入居に礼を言う後藤さんに渋い顔の将也さん。
一段落したら、身の丈に合った施設に転居させると言う将也さんに、どこへ行っても同じだと言う洋一郎。
あなたが息子になっていないと後藤さんは父親になれない・・・・
意味不明の言葉に戸惑う将也さん。
寂しさとは、胸にぽっかりと空いた穴に吹き抜ける風のようなもの。
穴がうまく埋められる人もいるが、後藤さんにはうまく出来ない。
会社の倒産、奥さんの死、ご近所の一員という意識、父親という位置付け・・・それらの穴、寂しさを施設として埋められなかった。
だが一番大きな寂しさは、今からでも埋められる。
将也さんに話しながら、自分自身の事を思う洋一郎。
二人の子供を育て上げたが、妻の夏子が揺るぎなく母親だったのに対して、自分がお父さんだった事に確固たる自信が持てない。
今やおじいちゃんになったのに。
父の記憶をほとんど持っていない、私の胸に空いた穴。
養父の隆さんに対する思い。それは感謝。だがそれ以外の思いが残っていない事が、本当の親子でなかった証し。
ハーヴェスト多摩での運営について話す洋一郎。
なぜこの様な施設が必要か。介護が必要になったりの現実的な理由はあるものの、誰かと一緒に居ることで寂しさの穴を埋めたい・・・
自覚症状のない寂しさもある。それが後藤さん。
人生の長い旅の行き着く先が寂しさだなんていうのは悔しい。
「お父さんの寂しさを埋めてあげられるのは、あなたしかいないんです」 の言葉に苦笑する将也さん。
そこへ後藤さんが声をかける。ずっと言い忘れていた事がある、と言い「マサくん・・・よくがんばったな」と伝えた。
手を払う将也さんに「お前を褒めてやれるのはお父さんしかいない」
将也さんの背後に回り、手の平をそっと彼の頭に乗せる後藤さん。覚えているか?の言葉に頷く将也さん。
将也さんが子供だった頃、叱る時の動作。痛みも重みも感じさせず、軽く頭を叩く。そしておまじないの様に「わーるいマサくん、いけないマサくん、飛んでゆけー・・・・」
泣き顔に近くなって行く将也さんに「向こうの家族にもキチンとお詫びしないとな」
「カッコいいところを見せてくれ、これからもずっと・・・」と言い、またおまじないと続ける後藤さん。
今度は将也さんも一緒に口ずさむ。
将也さんもずっと寂しかったのかも知れない、と思う洋一郎。
また、この二人は泣き顔も良く似ている親子だとも。