スペシャルドラマ「荒神」NHK BSプレミアム 2018/2/17放送 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

先週こちらで紹介していたドラマを鑑賞。

スペシャルドラマ「荒神」

 

原作      宮部 みゆき
脚本      山岡 潤平
演出      松浦 善之助
音楽      羽岡 佳
制作統括   加賀田 透
         櫻井 壮一


キャスト
朱音       内田 有紀
曽谷弾正    平 岳大
榊原宗栄    平岡 祐太
菊池圓秀    柳沢 慎吾
音羽       前田 亜季
小夜       竹野谷 咲
茂左衛門    中本 賢
多江       角替 和枝
おせん      蔵下 穂波
蓑吉        高村 佳偉人

じい         中原 丈雄
明念和尚     品川 徹
佐田義昌     田中 要次
竜崎高持     加藤 雅也
柏原信右衛門 柴 俊夫
源一         大地 康雄


あらすじ

永津野藩の名賀村。養蚕小屋の完成を喜ぶ朱音と村人たち。
そこに浪人風の男が子供を背負って走って来た。子供が怪我をしている。浪人は榊原宗栄と名乗った。人狩りか?と村人の声。

すぐに子供を小屋に入れようとする朱音。その子供が下げていた手拭いには、香山の庄屋の屋号が。香山の者を匿うのは良くないと言うおせん。だが朱音は、全て自分が責めを負うからと、構わず運び込む。
子供には粘液がべっとりと着き、着物を脱がすと横腹に三本の深い爪跡。

首の付け根に記号の様なアザがある朱音。普段は髪に隠されている。

一段落して着替えた宗栄。

なぜ香山の者を匿ってはいけないのか、と朱音に聞く。
関ケ原以降、永津野藩と香山藩はいがみあって来た。永津野藩の筆頭家老、曽谷弾正の厳しい年貢取立てのため、村人が香山に逃げ出す事態となった。それを引き戻すだけでなく、香山の者もさらって強制労働させている。
それについては私にも負い目がある、と朱音。曽谷弾正は私の兄。自分は八年前からここに居る。国は上州。

そこに最近逗留している絵師の菊池圓秀が、子供の傷を見せて欲しいと乗り込んで来た。傷の手当てをしたばかりで、拒否する朱音。

 

永津野藩 津の先城。弾正に人狩りを止めるよう願い出る朱音。

上州の寺ではもっと優しかったのに、と言う朱音に、昔俺を殺そうとした女がいた、と弾正。

弾正の妻、音羽にも弾正の行動を止めさせるよう頼むが、私の言うことなど聞いてくれない、と音羽。そして朱音に、城に戻って欲しいと懇願。そうすれば弾正の機嫌がいい。

香山、二谷村が全滅になったと聞いて視察に行く弾正。

側近の畑中佐平次。畑に付けられた巨大な足跡を見て笑う弾正。

 

名賀村。目を覚ました子供は蓑吉と言った。

ここが永津野と聞いて怯える。
村で何があった?という問いに「山ががんずいとる」。蓑吉の祖父源一が逃がしてくれた。じっちゃは怪物に食われたと泣く蓑吉。
朱音の付き人として来ているじいの話では、がんずいとる、とは飢えて怒りに身を焦がすという意味。絵馬に描かれた怪物の言い伝え。

 

川の中のお堂に集まる武士たち。絵馬がない事に動転。人目に晒すと大きな災いが起こると聞いていた。

 

永津野藩主、竜崎高持の酒席に呼ばれている弾正。息子の高由の代になっても盛り立ててくれ、と頼む一方、香山の件はほどほどにしておけ、とクギを刺す。

蓑吉を介抱する朱音。朱音の歌う子守歌を蓑吉も知っていた。

香山と縁がないのに、と不思議に思う朱音。

 

怪物の件を、国境の番屋へ話しに行くという庄屋について行きたいという朱音。だが険しい道のり。宗栄が同行しようと申し出た。

行程の途中で圓秀の筆入れを見つける。

 

番屋に着いた一行。番屋と言っても砦のように頑丈。そこの代官は、ここがやられる筈がない、怪物などやっつけてやる、と豪語して歓迎の宴会を始めてしまった。

その時、建物に大きな衝撃が来る。窓の外に怪物の巨大な目。

建物が外部から壊され、宗栄は朱音を連れて地階に逃げた。

逃げる途中で牢に入れられている圓秀を見つけて助け出す。

だが怪物の絵を描くと言って階段を上がる圓秀。
宗栄と朱音は番屋から離れるが、逃げきれないと判断して、枯れ井戸に身を隠した。

番屋の事件から一人生き残って帰った家来が、弾正に事の次第を報告。
弾正の説明。怪物は香山が永津野と戦うために作られたもの。

だから竜崎の血の者をぶつければ鎮めることが出来る。
音羽を生け贄として捧げる、と指示する弾正。
畑中が、音羽と娘小夜を逃がす。

 

怪物から逃れた朱音と宗栄は、砦で生き残った圓秀を連れて山の中に入る。洞窟を前にして老人から銃を突き付けられた。それは蓑吉の祖父、源一だった。

怪物に襲われた蓑吉を村で匿っていると話す朱音。
源一が父親から聞いた話。香山の村はいくつも潰され、永津野と戦うために呪いの力を借りようとした。
怪物を作り出す、呪いを扱う瓜生一族が土をこね、トカゲ、ガマの死骸、香山の者たちの生き血も加えてそれを作った。
だが太平の世となり、怪物は無用のものとなったため、それを封印した。その封印が解かれた。
圓秀がそれは自分のせいだと告白。一ケ月前、旅の途中、香山の村で出してはならないという絵馬の話を聞いて、どうしても見たくなり、お堂から持ち出した。そこには怪物が描かれていた。

 

香山藩の柏原信右衛門。絵馬に怪物を描いて百年封じて来たが、封印は解かれた。絵馬を盗んだ者、見た者、全て抹殺せよ。

焚火にあたりながら話す朱音と宗栄。朱音に求められて自分の事を話し始める。
国は江戸。父は貧乏な御家人。自分は次男坊。ある日兄が下男を手討ちにした。切って当然と思っていた。そんな兄を責めなかった。せめて下男の遺髪を持って出羽の国を訪ね、その時にあの子を見つけた。
私も兄を止められなかった。貴女こそ自分を責めることはない。

 

名賀村に戻った一行(朱音、宗栄、圓秀、源一)。蓑吉と源一の再会。庄屋の茂左衛門の死を嘆く妻の多江。
そこに弾正から逃れて来た音羽と小夜が来る。
源一が早くここを出ろ!と叫ぶが、村人、朱音、そして蓑吉までも残って戦うと言うのに根負け。

「このバカタレ共、おいぼれの命くれてやる」。

 

圓秀は、怪物の原因になった絵馬を返しに行くと言い、走り出した。やむなく追いかける宗栄。

川のお堂に着いた二人のところへ、佐田義昌ら香山の武士数人が襲って来た。我々を守るもののために殺された、封印を解いたせいだ、と怒る佐田。圓秀を斬ろうとして揉み合ううちに、佐田が誤って絵馬を割ってしまう。もうおしまいだ、と取り乱す佐田。

 

朱音と音羽との話。お蚕作りがやっと実ろうとしている。ここで放り出せない。領内が豊かになるのは兄の願いでもある筈。
音羽は言う。あなたはあの方の恐ろしさを知らない。
弾正が変わったのは八年前。朱音様が来てから、私を見る目が変わった。目の底に憎しみ。

優しいまなざしは朱音様に向けられるようになった。
なぜ永津野に来たのですか。

 

そこへ怪物が林から現れた。村人が作った火の壁、柵など何の役にも立たない。にげまどう村人。

朱音らも逃げるが、小夜が見つからない。怪物が迫る中、源一が鉄砲で怪物の腹を撃ち、屋根に上った武士が怪物の目を矢で射抜いた。
だが腹の傷はすぐ回復し、目は外れた後に次の目が現れた。
怪物が迫る中、ようやく小夜を見つけて逃げ出す朱音と音羽だが、追いかけて来る怪物。

万事休す、というところで、じいが怪物の前に進み出た。そして着物を脱ぐと、その腹に丸に二の字の紋が。

それは瓜生家の家紋だった。
「つちみかど様ぁー、お鎮まりくだされー!」とじいが叫ぶと、少しづつ後ずさりする怪物。そして方向を変えて戻って行った。

じいは、はるか昔に香山から放たれた者だった。代々に亘り永津野藩を監視していた。
そこへ弾正が来て皆を捕らえる。
じいが、朱音様なら怪物を鎮めることが出来ると言った。
弾正が来て、絵馬と怪物は関係ないと言った。

自分が人狩りで香山の血を流させたから。
なぜ奴がここへ来たか。それは音羽がいるからだ。

鎮めるためには音羽の血が要る。
愛する人なのに?と言う朱音に「愛する人、誰のことか?出世するために竜崎を利用した。心から愛しているのは・・・・

これは宿命。香山を根絶やしにするのだ。それは俺が香山だから。この傷は香山への恨み」と眼帯を外す。
六歳の頃、香山の者に殺されかけ、片目になった。父は殺され、母と共に山奥の寺に逃げた。
上州の寺でお前と二人きりで育った。復讐のためここに来た。

首のアザは瓜生一族の証し。

お前だけが俺の生きて行く喜び。
みんな偽りだと言って、昔の兄さんに戻って、と懇願する朱音。
だが弾正は、音羽を食わせる、と言って妙高寺へ連れて行った。

 

縛られている朱音、宗栄、源一、圓秀、蓑吉。そこへ捕われていたと思われていた小夜が短刀を持って来た。

そして朱音の縄を切る。
これ以上の犠牲を出したくない。私になら怪物を鎮めることが出来る。
一人では行かせない、と皆が言う。

小夜を蓑吉に託して妙高寺に向かう一行。

 

妙高寺に着き、母の記憶を思い出す朱音。子守歌の「鬼をぺろりと平らげた・・・・」全てを思い出した朱音は、寺の明念和尚の前に出る。
久しぶりだ、と話す明念。
二人は瓜生の末裔。首筋のアザが同族の印。怪物を追い払える者。
誰かが命を吹き込んだ。元々呪いで生まれた者。鎮めるのも呪い。
明念が法衣を脱いで背中を見せる。絵と呪文が混在した紋様。これを二人のいずれかに写し、食われることで鎮めることが出来る。だが写す時に呪文を読むと、書いた者が呪いにやられる。

 

圓秀に、この紋様を絵として描いてほしいと頼む朱音。
あの怪物は私の子供。二十年前に兄が去った時、どうしても行くなら、と腹を刺した。必ず迎えに来ると言った兄。そして私たちはあやまちを犯した。その時に怪物に命を吹き込んだ。

二度と会うまいと心に誓ったが、八年前兄がここへ呼び寄せた。断ることが出来たのに。
私と兄の子。私が鎮めなくてはならない。私の宿命。
紋様の写しを引き受ける圓秀。
宗栄が、そんな事はダメだと止める。貴女には死んで欲しくない。
私を愛してくださるなら、必ず殺してください。全てを終わらせて欲しい、あなたに。

寺に向かって来る怪物。生け贄のために、音羽が引き出される。羽織を被って顔は見えない。
とうとう本堂の前に来た怪物。羽織を取ると、そこには朱音の姿が。

驚く弾正は、怪物と朱音の間に割って入る。しばし見つめ合う二人。

そして弾正は怪物に向かって行き、一飲みにされた。

倒れていた朱音はゆっくりと立ち上がり、怪物に向かって歩き出す。
つちみかど様・・・ との言葉を残し、朱音が食われる。

もがき苦しむ怪物。体表に呪文が浮かび上がってゾロゾロと動く。
怪物の黒い皮膚が剥がれて白い体が現れる。朱音の心が投影されたもの。

怪物が朱音の心を持っているうちに倒さねば、と宗栄。

だが躊躇しているうちに、黒い皮膚が戻り始めた。
そこに源一が怪物の眉間へ鉄砲を撃ち込む。

再び黒い皮膚が剥がれて、動きを止める怪物。
そして怪物の目から涙が。

「今だ、介錯を」と圓秀。
意を決して、木に駆け上がって怪物の頭に剣を刺す宗栄。
息絶える怪物。

 

それから一年後。
村には平和が戻り、音羽も絹糸作りに精を出す。

圓秀は襖に怪物の絵を描いた。
弾正と朱音の墓に手を合わせる宗栄、音羽、小夜、蓑吉。
一陣の風が吹いて、小夜の首元が露わになる。そこに記号のアザが。

 

 


感想
五年ほど前に、朝日新聞で連載されていた小説。単行本になって、そこそこ評判を取ったためのドラマ化。

連載中から、登場人物の多さにはかなり苦しんだが、ドラマ化の脚本ではうまくコンパクトにまとめたと感心している。

 

原作と一番異なるのは、香山藩で中盤までの中心人物だった、小日向直弥の関連を全て切った事。香山藩で起きた、後継ぎの若君が病気で亡くなった件に絡む一連の出来事。
この話は、絵馬の事件と関連するが、結局怪物の話とは関係がないため、完全にない事にして、その関連の登場人物も出さない。そして絵馬は怪物と関連付けられる構成となった。
元々小説を読んでいて、結局絵馬が怪物と無関係だと判り、「なんや、それ」と失望した記憶があるので、この脚本には賛同出来る。

 

小説では弾正と朱音は双子の設定であり、ドラマでは三つ違い。まあこれは瓜生の、呪術者の能力を有する者が、ごくまれにしか出ないという小説の設定だと双子が必然だが、それに触れていないため、兄妹の関係でも、同様に能力を示す首筋のアザがそれぞれにある、としている。

 

怪物は、小説の描写とはかなり異なる。小説では、オオサンショウウオのイメージで、目がない事を強調していたが、ドラマでは基本形がワニをかなり太らせたような印象。目はしっかりとあり、逆に体中、目だらけといった感じ。これは多分、数多くの生け贄を使って作られたという事の象徴だろう。
吠える時の動作が、巨大な割りにシャープなのがちょっと気になったが、シン・ゴジラでもサイズに対してシャープ過ぎる動きだったので、CG特有のものかも知れない。
予告ではてっきりシン・ゴジラの第一形態をパクったのか?と思ったが、形状自体は相当異なる。しかし本当に良く出来たCG。実物感がハンパない。

 

最後に朱音が食われるシーンも多少アレンジがあった。原作では、まず朱音が食われて、人間の形態に近づいた怪物。それを支配しようとする弾正を、怪物が一飲みにして、最終的に源一、宗栄らに倒され、灰となって散った。
このアレンジも、さほど違和感はないが、朱音の心となった怪物が弾正を食らう、というところに原作者が意味を持たせていたかも知れない。

エンディングのヒネリ(小夜にも呪術者の能力が受け継がれている)は原作にはないが、宮部みゆきテイストと言えなくもない。

 

キャストについて
朱音役の内田有紀は、なかなかいい配役だと思う。優しさと芯の強さを併せ持つ、絶妙なバランス。
弾正役の平岳大も文句なし。あの冷酷さ。最近父親にホント良く似て来ている。
圓秀役の柳沢慎吾は、ちょっと外した感じ。もう少し美男子にしたかった。
おせん役の蔵下穂波。時代劇の脇役で良く見るが、いかんせん、この時の年齢設定が十四歳。

発言もけっこう朱音に逆らったりして、ちょっとキャラが違う。

大地康雄の源じいは、一番ハマっていたかも知れない。

アパッチ賢の庄屋様。久しぶりの出演だが、早々に死んでしまった(原作では生き残る・・・)

加藤雅也、柴俊夫の殿さまも、久しぶりに見て懐かしかった。

 

しかし、そもそもこの小説の挿絵が、漫画作家の、こうの史代なので、バイアスが掛かってキャスティングの時の妨げになったことだろう。

いずれにしても、一年以上連載された長編小説を、キチンとまとめ上げた脚本家、演出家はよく頑張ったと思う(娘がTV制作会社のプロデューサーをやっているので、この辺が気になる)。