デンジャラス・デイズ/メイキング・オブ・ブレードランナー 2007年 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

監督・製作   チャールズ・デ・ラウジリカ


出演

製作側
リドリー・スコット         監督
マイケル・ディーリー      製作
ハンプトン・ファンチャー   映画化提案者:初期脚本
アラン・ラッド・Jr          ラッド・カンパニー代表
フィリップ・K・ディック    アンドロイドは電気羊の夢を見るか? 原作者
ポール・M・サモン     「メイキング・オブ・ブレードランナー」著者
ウィリアム・M・バロウズ 小説「ブレード・ランナー」著者
スランク・ハーバード   小説「砂の惑星(dune)」著者
アイバー・パウエル    共同製作
ジェリー・ペレンチオ    出資者
バッド・ヨーキン        出資者

 

スタッフ
ダグラス・トランブル        特殊撮影効果
シド・ミード                ビジュアル・フューチャリスト
リチャード・ユリシック        特殊撮影効果  
デヴィッド・ピープルズ      本番脚本
デニス・ミューレン          視覚効果
デヴィッド・ドライヤー        特撮効果
テリー・ローリングス        編集
ローレンス・G・ポール       美術担当
キャサリン・ヘイバー          製作主任
マイク・フェントン              配役監督
トム・サウスウェル            美術イラストレータ
アナ・マリア・クインタナ       スクリプト
ジョーダン・クローネンウェス カメラ担当
ディック・ハート                  照明担当
マイク・ジェンヌ                 第一カメラマン助手
ゲイリー・コームズ             模型製作
ロッコ・ジョブリー               マット・ペインター
ミシェル・モーエン              マット・ペインター

 

出演者
ハリソン・フォード           デッカード役
ルトガー・ハウアー         ロイ・バッティ役
ショーン・ヤング            レイチェル役
ダリル・ハンナ             プリス役
エドワード・J・オルモス    ガフ役
モーガン・ポール         デイブ・ホールデン役
ジョー・ターケル            タイレル役
ジョアンナ・キャシディ       ゾーラ役
ハンニバル・チュウ        目玉製作者
M・エメット・ウォルシュ      ブライアント署長役
リー・パルフォード            ゾーラの代役スタントウーマン


評論家その他
フランク・ダラボン         「グリーンマイル」監督
ロナルド・D・ムーア      「ギャラクティカ」製作総指揮
ギレルモ・デル・トロ      「パンス・ラビリンス」監督
ジョセフ・カーン           「トルク」監督
ロジャー・エバート        ブレランの批評を行った
トニー・スコット             リドリーの弟(故人)
ジェイク・スコット           リドリーの息子
ジョーダン・スコット         リドリーの長女

ジム・マックスウェル       ファンチャーの友人
ブライアン・ケリー         ファンチャーの友人
イサ・ディック・ハケット    ディックの娘
ジェフ・クローネンウェス  ジョーダンの息子


一部の動画

 

感想
何しろ情報量が多くて、ここに紹介したのは1/5にも満たない。

とにかく観てみるのが一番。観て損はない。

一番すごいと思ったのはシド・ミード。元々工業デザイナーとの事だが、どうやって見つけて来たのか(見出した人もすごい)。

彼により、統一された世界観が構築出来たのが、ブレードランナーの全てと言っていい。

俳優たちが、より良いものにするために、かなりの意見を出しているのにも驚いた(特にルトガー)。

 

何年も後とはいえ、出資者に対する辛辣な発言がすごい。

出資者も言うべきことは言って、いかにもプロ同士の迫力がある。

リドリーについては、彼でなくても、もっと受ける映画は作れたと思うが、のちにこれほどの作品だと伝えられるものが出来たか、となると彼が手掛けてこそ、だろう。

だが「プロメテウス」や「コヴェナント」がこれほど後に語られる作品か、となるとやや微妙。
やはり「ブレードランナー」はいろんな意味で特別だったのだろう。

 

内容
今年6月に「ブレード・ランナー ファイナル・カット」がNHK BSで放送された時、同時に放送された「メイキング」もの。
録画の見出しが最初しか出ないので、別の映画かと思っていたが、先日観たら「なーんだ」ってことで・・・・
監督、脚本、出資者、スタッフ、出演俳優らによるウラ話テンコ盛りの、あらすじもへったくれもない状態なので、興味を持った点だけ重点的に記載。


映画化の発端
1975年。ハンプトン・ファンチャーがSF映画製作を思いつき、友人の勧めでフィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の権利化のための権利を5000ドルで購入。
5枚ほどの原稿をマイケルが読んだ。草案の段階ではひどかったが、手直しでマシになった。当時の題名が「デンジャラス・デイズ」。

 

リドリーの起用と脚本問題
元々リドリーはエイリアンの後「砂の惑星」に目をつけていた。
当時「エイリアン」を撮った直後のリドリーを、マイケルがいいと思った。オファーの後、リドリーは兄を亡くして消沈していたが、本作に興味を持ち承諾。元々はCM監督(イギリス出身)。
当初は室内の場面ばかり。映画にするにはあいまい過ぎる、とハンプトンに注文をぶつけ何度も衝突。

その後脚本はデビッド・ピープルズに移り、ハンプトンは名前だけの存在になった。後にハンプトンも納得。

 

俳優の存在
ハリソンは脚本を読んで、捜査する部分をナレーションではなく映像に置き換えてはどうかと提案。リドリーもそれを受ける。
ロイ役のルトガーは製作主任のキャサリンが推奨。会う前に決めた。ルトガーはレプリカントに人間的な魅力、誌的感覚を入れたいと提案。
ショーンは、カメラテストで唯一逆らった「私はそうは演じない」。
ガフ役のエドワード。多民族的で独特のキャラ。

エスペラント語を入れて独自の言語を作った。

 

シド・ミード
脚本を渡されて、いくつかのスケッチを見せた。自分が一番先に雇われた。シドは工業デザイナーとして有名。車、アイロン、都市景観に至るまで手掛けていた。映画全体の世界観を、ほぼ全てシドが作り上げた。監督は神→リドリーの要望だけに従ってデザインした。
ただしシドに頼り過ぎた。当初日給1500ドルで数日の筈が数週間となり、予算超過の一因。
デザインの進化に時間がかかったが、当時俳優のストライキが数ケ月続き、時間稼ぎが出来た。

 

撮影
初日から混乱。セットの柱が上下逆。リドリーが直すよう指示。美術担当のローレンスは7時間でそれをやり遂げた。リドリーは視覚効果にこだわった。タイレルの部屋の壁にゆらめく光が欲しい。それも対応。
リドリーは時間掛け過ぎ。数週間の予定で始めて、数週間の遅れになった。何度も撮り直し。

出資者のバッドが「いつになったら軌道に乗るのか!」。
リドリーは「私のやり方は変わっている。だからCMで成功した」。
カメラマンにジョーダン・クローネンウェスを採用。名カメラマン。

ジョーダンは、後に判るパーキンソン病に苦しめられながら仕事をした(最後は車イス)。病気と判っていたが、あえて起用したリドリー。
予算、場所の制約により夜、雨、煙が不可欠。

これらによりセットのアラ隠しが出来た(ビジュアル面でも成功)。

ただし俳優にとっては最悪の環境。

 

ダリル・ハンナ(プリス役)
バク転のやり過ぎ(リハーサル)で息が上がり、撮影出来なくなった→代役は男(ガッチリした体格)。ハリソンにまたがって攻撃するシーンで鼻に指を突っ込む。ハリソンは遠慮するなと言った(鼻血が出た)。

 

 

撮影上のミス
ゾーラが殺される、ガラスに突っ込むシーン。飴ガラスを使っても切り傷は起きるため、代役を使ったが、全く似ていない。

予算の問題があって作り込めなかった。出資者のバッドからの横やり。

 

Tシャツ問題
リドリーがイギリス紙でのインタビューで、イギリスの方が働きやすいと言った。それを見てスタッフは激怒。

「了解 ボス クソ食らえだ!」と書いたTシャツを着て仕事。
監督が嫌われ者では仕事が進まない。マイケルの提案でリドリーが「外国人差別(はバカらしい)」のTシャツを着た。それに「ボス」と書いた帽子をかぶって現場入り。
昼には皆Tシャツを脱いでいた。
しかし不満は高まっていった。

ウンザリして辞めたスタッフの名簿が掲示された。

 

ルトガーの言葉
それが何だ。映画の仕事はそんなに甘くない。後で泣き言を言っても宣伝にもならない。きつくて当然、特別な映画。

 

ロイとデッカートの場面
ビルを飛び移るシーンはセットで撮影(高さ9m)。

ハリソンが飛びつくと届かずぶら下がった。

それが気に入られて数回リハーサル。ハリソンの腋の下にはアザ。
ルトガーが飛び移るシーン。エアマットは敷いてあったが、スタントマンが二度失敗。もう日が昇ろうとしていた。

ビルをあと30cm寄せてくれたら自分で飛べる、とルトガー。
焦っていたリドリーは了承。トライは1テイクで終了。

ハトが飛ぶシーンは別途収録(ハトはびしょ濡れで飛べなかった)。
ロイの最後の言葉はルトガーの推敲による。台本は長すぎた。

 

出資者とのトラブル
撮影直後、ジェリーとバッドの弁護士から文書。予算を10%超過したのでクビだとの通告。

編集のテリーは、スタッフが全員離れたとウソをついて時間稼ぎ。
結局何の影響もなかった。

確かに予算は超過したが、作品のレベルは上がった。

 

特殊効果
CGは一切使わなかった。史上最高の実写による特撮映画。汚染された環境という点に救われた。

モヤがかかった空は、30~40cm先の模型に3~4kmの奥行を与えた。全てオプチカル合成のため画質維持に苦労した。
マット・ペインティング:実写撮影と書いた絵の合成→デジタルよりも精巧。タイレルの部屋の外はマット・ペイント。全てうまく行った。
原作者のフィリップ・K・ディックに、視覚効果部の10分ほどを見せたら驚嘆「私の頭の中を見たのか?」。小説を書いた時に想像した世界観と酷似(ディックは公開を待たずに死去)。

 

編集作業
完成版をリドリーとマイケルで観た。

リドリー:映像は素晴らしいが、意味不明。再構成が必要。

最初は4時間あった。
6週間かけてイギリスで再編集作業。何を捨て、何を残すか。

2時間を超える部分についてはワーナーにカットする権利があった。
ユニコーンが走るシーン。あれが判らないとカットされたが、ラストに出て来る折り紙のユニコーンに繋がる重要な部分。
本作の不幸は「判ってない」連中向けに作られたこと。

 

試写会
デンバーで行われた。多くの観客が混乱。ナレーションで解決すると思い、ハリソンの語りの収録を≪進めた。

ハリソンは不満。途中で収録中止。

このナレーションはひどい -どこが?- なんとなく、さ。
結局ナレーションの最終はリドリー抜きで行われた。

マイケルも知らずに完成。

 

最後の逃亡シーン
ナレーションだけでは解決せず、暗いエンディングが悪いとの指摘。

そこで逃避行の追加撮影。6日ぐらいで風景を撮影したが、雪と雲ばかりで使い物にならない。
リドリーはキューブリックの「シャイニング」を思い出す。

モンタナでの空撮素材が山ほどある筈。

キューブリックはエイリアン等でリドリーを認めており、使用を快諾。

 

ヴァンゲリス
リドリー:ヴァンゲリスとの音楽収録はすばらしい体験だった。

スタジオで二人きりの状態でピアノの収録。

偉大な音楽が生まれて進化する瞬間を目撃した。

 

公開結果
リドリー:全編ではないにしろ、いいものを作った自信はあった。

結果はご存知の通りだ。
評価はまっぷたつ。ただ当時の人が望んだ未来ではなかった。
業界紙では予想されていた結果「来年の夏は犠牲者が出るだろう」。同時に多くの大作が公開された。「スタートレック」「E・T」「ロッキー5」「ファイヤーフォックス」「キャットピープル」・・・・ 

人々が観たかったのはハッピーな作品。
リドリーの映画は完璧な未来を見せてくれたが、それは暗黒の世界だった。

その後、ビデオ時代の幕開け。
作品はケーブルTV、ビデオ等で繰り返し視聴された。

一時停止、巻き戻しも出来る。そして初めて偉業に気付く。

カルト的な人気が高まったことで、本作は独特のステータスを得た。

監督ジョセフ・カーン:15~16歳で本作品の研究を始めた(ビデオが擦り切れるまで)。照明、レンズの選定、構成等の分析。

ブレードランナーは映画製作の教科書。