梨木香歩さんの『家守綺譚』を久しぶりに読みました。
この世界観がたまらなく好きです。
駆け出しの物書き、綿貫征四郎が、早世した学生時代の友人、高堂(こうどう)の実家に“家守”として住むところから、物語は始まります。
時は今から120年ほど前でしょうか。
琵琶湖疎水、京都山科のあたりが舞台だと思われます。
あちらとこちらを分かつことなく、
生者も死者も、そして、草花、木々、鳥、犬、猿、狸も、
仔竜、小鬼、河童、人魚、聖母も……
みな同じ地平に存在している世界。
自然に、おおらかに。
ゆるい境界線を行き来して、交歓し合う魂。
征四郎の鷹揚な雰囲気がとてもいい。
ボートを漕いで悠然と現わる高堂との掛け合いもいい。
隣家のおかみさんも、犬のゴローも、
編集者の山内さんも、それぞれにいい。
「サルスベリ」から「葡萄」まで、28の植物によって物語るところも素敵です。
ちなみにこの庭のサルスベリは、征四郎に“懸想”、つまり恋心を抱く。
それもまた、この世界では不思議ならぬこと。
“ダァリヤ”の君と征四郎がゲーテのミニヨンを交わし合うのは「檸檬」の章。
和の中の洋が粋に感じられます。
私はこの“ダァリヤ”さんに興味があります。
最後の章「葡萄」で、差し出された葡萄に、先日観た映画『タレンタイム 優しい歌』の中に出てきた“いちご”を思い出しました。
ふたつの果物が象徴しているものは同じなのかもしれません。
この世界に長く留まっていたくて、少し読む速度を落として味わいました。
きっちりと境界線を引こうとして、あちらとこちらを住み分けしようとして
私たちが失ってしまったものの大きさに暗澹たる気持ちになることがありますが
この泰然とした、少し湿り気のある世界が物語の中には残されていてほっとします。
文庫本には、巻末に征四郎の随筆が収録されています。
こちらが文庫本
そして、物語は『冬虫夏草』へと続きます。
読む順番は『家守綺譚』⇒『冬虫夏草』の方が分かりやすいです。(話が続きとなっているわけではありません)
そして、続編ではありませんが『村田エフェンディ滞土録』とも繋がりがあります。
お読みくださりありがとうございます。
少し暑さがやわらいだでしょうか…
どうぞお元気でお過ごしくださいませ💛