【SF小説】Psy-borg

organoidよ歩行は快適か

 

この小説は自費出版で発売済みの「Psy-borg〜精神感応義体〜」の中の一編「organoidよ歩行は快適か」のfull lengthバージョンです。

ブログ小説用に加筆、レイアウトの変更がされています。

 

 


illastrated by koki hosoy


依頼者は外務官僚だ。

 

今回はガイノイド本体への破損はないが、クラウドサーバーへのハッキングによる情報漏洩案件である。

 

また、マルウェアの存在は確認されておらず、ガイノイドの記録領域へのデータ破壊などには至っていないが、それが純粋に性的目的の幼女型であり、行為中に寝物語で語った秘匿事項が記録されていた事で、表には出せない類の依頼となった。

 

依頼内容は身柄の確保だ。

その後の冤罪の付与、情報の漏洩先の特定などは警察組織に任せることになる。

 

件の官僚に対する処分は、ありもしない架空請求の責任を取って退任ということで落ち着いている。

 

オートロックの解除はそれほど難しいものではないが、認証システムは日々難しくなっている。

 

今回は独身用の比較的セキュリティの低いものだったので、難なく建物に入ることができた。

 

エレベーターを使わずに目的の5階までは非常階段を使う。

 

目的の部屋の前に着きノブに手をかけるとカチャリと音を立ててドアが開いた。

 

「クランツ、聞こえるか」

 

「ああ、聞こえる。どうかしたか」 

 

シドは胸元のホルダーからハンドガンを出すと、ゆっくりと中に入った。

「ドアが開いている。侵入を試みるつもりだ」

 

灯りの消えた部屋には外からの月明かりが青白く全体を覆っている。

 

「周りに注意をしてくれ、左右の部屋には生命反応がある。物音で気づかれる事もある。いま情報を確認したが、特に上下階、左右の部屋には教団関係者はいないようだ。不在を確認したらすぐに戻ってきてくれ」

 

「了解だ」

 

そこいら中に様々な物が溢れ、狭い1DKの部屋を探索するのにも手間がかかりそうだ。

 

容器が積み重なり、水気のないダイニングを過ぎ、奥の書斎に向かう。

 

扉は開け放してあるが、窓のない部屋の奥は灯りがないと様子が伺えない。

 

床に転がっているゴミらしきものにも注意をして、中に進み懐中電灯を照らした。

 

……!」

 

ぼんやりと浮かんだ動かぬ人影。一瞬人形かと思ったが、ライトに照らし出された肢体の質感が違う。

 

「シド、どうかしたか」

 

「人」には違いないが、どうも様子がおかしい。

寝ているのではない、呼吸をしているような体の上下が確認できない。

 

「クランツ、警察に連絡してくれ、身柄確保だ」

 

服から出ている黒く痩せすぎた手、

シドはゆっくりとその「物体」に近づく。

 

「死んでいるのか」

シドは身をかがめて、それを覗き込む。

「ミイラだと?」

 

彼は放置されている死体の耳の裏についているICチップを抜き取る。

 

「シド!ミイラって言うのはどう言うことだ?事件は3週間前だ。たとえ直後に殺されたとしても、腐敗がすすもうが、いくら気密性が高い部屋と言ったって、屍蝋化するわけがないだろう。別の人物じゃないのか」

 

シドは死体のデータスキャンを試みる。

 

「屍蝋でもない。完全に干からびた状態だ。いまミイラについていたICをスキャンして見たが、どうやら本人のようだな」

 

建物全体の空調システムにより、湿度、温度は建物全ての部屋においてコントロールされている。

 

気密性も高く、孤独死の後ミイラになってしまう可能性もないわけではないが、それには当然時間を要する。

 

「昨日まで仕事をしているし、出退表にもそれは出ている。もちろん在宅ワークだから本人を見た人は一人もいないが。しかし、そこの端末からデータがやりとりされているわけだからな。誰かがなりすましてそこで動いていたのだろうか?」

 

取り出したデータには確かに今まで追って来た男の名前が記されていた。

 

「いや、ありえないだろう。部屋に入ってみたが、埃の溜まり方などを見ていると、誰かが入ったという形跡も俺が見た限りでは見当たらない。それに

 

立ち上がって奥の机に置いてあるPCに近づく。

 

「PCの主電源が落ちている。ここをターミナルとして外で操作しているとしたら、主電源まで落とさないはずだ。もしくは我々が擬似ネットワークの迷路にはまっちまったのか

 

「それはあり得ない」

 

クランツが心外そうに返した。

 

「とりあえず、一旦そちらに戻る。気になるものを見つけたのでそちらに持ち帰る。」

 

シドは机の周りを見回し、タバコの灰と積み上げられた食器の間から、一つのバッチを拾い上げた。

 

「おい、あまり無闇に物を持ち帰るな」

 

「わかっている。確認できたら警察に渡すさ。いずれにせよ我々が不法侵入したことは通達しなけりゃいけない。俺たちの仕事はどのような手段を使ってもいい身柄確保までだ。問題にはならんよ」

 

そういって立ち上がると、もう一度周りを見渡した。

 

「そりゃあそうだが、まあ、君の感が働かなければこっちがミイラになるところだったな」

(俺だけだがな……)シドは苦笑いをしてそう呟くと部屋を後にした。

 

 

 

「間違いないな。確かに教団のバッチだ。これで関係性は証明された」

 

クランツの分析結果を聞きながら、シドは考え込んだ。

 

「しかし、どうにも腑に落ちない」

 

「わかるさ、君の拾った場所の事だろう」

とクランツが言葉を続ける。

 

「普通こういうものは、教団に出向く際や、何か特別な時につけるものだ。ましてやほぼ外出もせずに部屋に閉じこもりっきりの奴は大抵どこかにしまい込んでいる。一応隠されている風には装っているが、そんな目につくところなどには置きはしない。むしろ積極的に教団との関係性をアピールしていると思われる」

 

しばらく考え込むようにパルス音を鳴らした。

 

「となると、罪をかぶせるためのフェイクで、教団に対してなんらかの敵意を持った人物か、そうした勢力が裏で手を引いているのかもしれないと、そういう事だろう」

 

「いや、それもそうだが

 

シドは難しい顔を崩さないまま応えた。

 

「クランツ、奴は前日まであの端末でなんらかの作業や外部の通信はしていたんだろう?お前がいうなら間違いはない。ではなんで主電源は落とされていたんだ?スリープ状態ならばわかるが、そうではなかった。それに、奴のPCタイプはなんらかの人の手が入らなければ主電源のオン、オフが不可能な古いタイプのPCだった。じゃあ誰がそれを行った」

 

「ドアは開いていたんだろう。あり得ないことではない」

 

「そこにミイラがあると知っていてか?」

 

クランツは考え込むように黙り込んだ。

 

容姿が端末型でなければ「彼」もまたフライヤと同じように独自に感情を学んでいるように思えてしまう。

 

「フルタイムオンラインなら探るのにこんなに時間はかからなかったからね。意図的にオン、オフを繰り返していたんだろうと思ったんだが。偽装の仕方もかなり全時代的だ。だから逆にわかりづらかった。ここまで利便性が高まると、わざわざ元に戻ろうなんて思わないからな」

 

モニターがせわしなく明滅する。

 

「それにあの埃の溜まり方は、誰かが出入りしていると言う感じでもなかった

 

「確かに、画像を解析してみたがその形跡はないな。PCが自立して勝手にオンオフを繰り返したようにも思えるな。学習能力のあるAIらしきものは搭載されているだろうが、それだって検索スピードのアップであるとか、そんな極初期型程度のものだろう。それに主電源を自己意識でオンオフを繰り返すなんて、フライヤにだってできないだろうな」

 

クランツがそう応えた。

 

フライヤの名前を聞いて、彼女が今家で自分の帰りを待っていることを思い出した。

 

一人で想い人を待つ寂寥感。

 

愛おしい人への募る想い。

 

会えた時の喜び。

 

彼女が感じている想いとは、人がどこからだかわからない、気持ちの底から湧き上がってくるものとは違うのだろうか。

 

膨大なデータの集積と、プログラミングされ、様々な記録の組み合わせでできた感情らしき表現。

 

それでも彼女はその想いを言葉で、表情で、動作で伝える。

 

それが構築された人工的なものだとしても、伝わってくるものは人と変わりはしない。

 

だが彼女の目から流れる涙は、血の味にも似たあの潮辛く、海のような濃さはない。

 

「さて、連絡は済んだ。もう我々の出番はないが、シド、どうする」

 

クランツの声で我に返ると車のエンジンをかける。

 

「それにしたって、この車は旧タイプすぎるな。いまどきクラッシックカーマニアだって見向きもしない。中途半端な時代の中途半端な車だ。そろそろ買い換えたらどうだ。あくまでもマニュアル操作にこだわるならオーダーメイドでできるだろう」

 

シドはクラッチのニュートラル位置で遊びを確認しながら、

 

「ナビゲーションフィールド内走行の許可申請や、規定時間講習が面倒臭いんだ。動けるうちはこいつを使っている方がいい」

 

警察車両のランプが近づいてくる。

 

まあ君がそう言うならいいけどな。面倒臭いという感覚が我々にはないからね。常に快適なものにアップグレードしていくのが我々の常識だ」

 

「おかしいと思うかい」

 

「興味深いってだけだよ」

 

何故かクランツがクスっと笑ったように感じた。

 

シドは車の無線をONにし、チューニングをあわせる。

「D04からP09へ、現場を委任する」

「了解」

 無線のやり取りを確認すると、シドはハンドルを切り、帰路に着いた。

 

これからは真実を追求するよりも、何かしらの帰着点を作り上げ、そこに事件を持っていく作業になる。

 

おそらく公安は教団に対してなんらかの法規的圧力をかけ、その活動を規制するための行動がとられることになるだろう。

 

つづく

 

この作品はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません

 

オリジナル小説 

Psy-Borgシリーズ

※Psy-Borg プロトタイプ

精神感応義体

※イサイマサシコラボ小説「頭の中の映画館」

終末の果実

※Psy-Borg意識の発端の物語

飾り窓の出来事

※アンドロイドと人工知能の錯綜

ORGANOIDよ歩行は快適か

※過去と魂の道程の物語

邂逅

※人工知能は世界平和の夢を見るか?

錯乱の扉

※神との遭遇のお話し

静寂

 

Psy-Borg 参考文献 レビューはこちらから

 

自己紹介「そろそろ自分のことを話そうか」

 

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