SF小説】Psy-borg

organoidよ歩行は快適か

 

この小説は自費出版で発売済みの「Psy-borg〜精神感応義体〜」の中の一編「organoidよ歩行は快適か」のfull lengthバージョンです。

ブログ小説用に加筆、レイアウトの変更がされています。

 

illastrated by koki hosoi

 


人が動物である以上、命を繋げるという根本的な本能には抗えない。

 

性欲だけは制御することはできなかった。


そのためにセクサロイドたちは開発され続けた。

 

今では性別に関係なく需要は広がり続け、セクサロイド本来の目的の他にも老年期の話し相手としても重宝がられている。

 

中には公然と人型アンドロイドを連れて外出する人もいる。

車椅子を利用していることでそれは一目瞭然だった。

 

それでも「公共の秩序に反する」という意見も多くあり、時折ヒューマノイド破壊事件の記事を目にすることがある。

 

シドはそんな事件を調査するために、「マリアフレーダー社」と特別契約を結んでいる。

 

「お帰りなさい」

 

玄関を入ると奥から声が聞こえる。

 

いつもであれば彼女が出迎えてくれるはずだ。

シドは首をかしげると、リビングに向かった。

キッチンではR05が食事の用意をしている。彼には音声反応機能はつけていない。

 

リビングに着くと、そこにソファに座ったままのフレイアがいた。

 

「どうしたんだ」

 

彼女は少し呆れ顔で、溜息をつくと、 

 

「家を出る時のこと、もう忘れている。寝室に私の足を置いたままでしょ。さっき電源が入って、気づいたらここだもの」

 

彼女は攻める様子もなく、クスリと笑った。

 

シドは今更のように気がついて、リビングを出て彼女用の車椅子を取りに行こうとした。

 

朝、時間が迫っていたために慌てて、彼女に服を着せ、抱きかかえてソファに座らせると、そのまま出かけてしまったのだ。

 

「大丈夫よ、それよりも早くここに来て、R05が食事を持ってきてくれるまで、あなたの声を聞かせて」

 

このような光景は今では決して珍しくなくなって来た。

 

一昔前の人との繋がりは、一人一人の生活が快適になるにつれて、共同体という集団意識の希薄化につながった。

 

インフラや様々な物の輸送はAIに管理され、的確な時間、的確な場所に最適なものを供給されるようになった。

 

意見の交換はネットワークで交わされ、幾重もの防壁システムで直接的なパーソナリティは隠された。

 

広大なネットワークのおかげで距離の概念はなくなり、情報の共有は容易になったが、隣に住む人間がどのような人物かを気にすることはなくなった。

 

声も、映像も、性別も、タイミングも配信する個人の思惑によって変化できるネットの海の中で生きていると、個性同士のぶつかり合いである対話に煩わしさを感じてしまうのは仕方のないことなのかもしれない。

 

それでも人は社会的な生物ゆえに、自分の思惑通りにカスタマイズされた誰かと対話したくなる。

 

セクサロイドとして生み出された彼、彼女―性差のはっきりと認識できるガイノイド―の需要が高まるのも当然のことなのかもしれない。

 

人の姿をした誰か。

 

そして自分の欲しい時に満足のできる対応をしてくれる誰か。

中には複数のガイノイドを家族として迎える者もいる。

 

人は孤独の中で一人生きていくことはできない。しかしそれは人同士が作り上げる複雑な感情の構築ではなく、個人の理想の形でしかないのだが。

 

「新しい義手の調子はどう?」

 

「ああ、具合はいい。体とのマッスルバランスはいいみたいだ。前回のものはちょっと耐久性が強すぎたみたいだな」

 

人の四肢を補強する義体は、その人に合わせてカスタマイズされる。

 

特に日本のマリアフレーダー社の製品は最高級とされた。

 

個人個人の肉体バランス、運動能力、利用頻度に合わせ細かく設定を変えていく。

 

過度な性能を入れ込んでしまうと、体全体のバランスが崩れ、身体そのものの疾病につながりかねない。 

 

シドは付け替えた左手を、もう一度じっくりと眺めた。

 

不意に不思議な感覚に襲われる。

 

完全な四肢を備えたフレイアが納品されたのは今から2年前だ。

 

そしてそれを発注した自分の本来の姿は、不完全な形で生まれて来た。

 

精神を持ち得た人は容姿が不完全で、データをカスタマイズし自己学習機能を備えた作られた人形は精神的な成長の点では不完全だが、容姿は完全である。

 

「どうしたの」

 

ふと我に帰り、取り繕うようにソファを立った。R05が一人分の食事を持って来てテーブルに並べ始めた。

 

「フレイア」

 

「なあに」

 

フレイアは体をねじり、こちらを向いて答える。その行為がつい生身の人間と勘違いしてしまう。

 

「君は外に出たいと思うかい」

 

彼女は視線を落とすと、少し寂しげな表情を見せた。

 

「いいえ、あなたの仕事を増やしたくないもの。最近の事件、難しくなっているんでしょう」

 

「ああ」

 

フレイヤとの時間を十分に取ることなく、次の事件の捜査に出かけなければならない。

 

セクサロイドのデータハッキング事件だ。

 

「最近は損壊以外に、データの消去、バックアップデータのハッキングにまでつながっている。君もできるだけスタンドアローンでいてくれよ」

 

「そうするわ、ありがとう。あなたとの思い出まで消されたくないもの」

 

人と変わらないガイノイド、彼女にとっての思い出とは記録の階層の重なりの事だ。

 

それでも人工汎用知能の個別学習システムのおかげで、思い出話に笑いもすれば、泣きもする。喜びや悲しみを共有できるようになった。

 

今のところデータを含めたガイノイド損壊は器物破損として罪に問われる。

 

しかし、一緒に時間を過ごしている人にとって、それは殺人と同じ事なのだ。法と心情の間にある罪をどうやって埋めるかが今後の課題だろう。

 

以前はある一部のモラリストの犯行が主であったが、そこに宗教的介入が起きた。

 

「人型を作り、そこに知能を与えることは、神に対する冒涜だ」

ということらしい。

 

この事が事件を一層難しくしている。

 

はじめのうちは製造元や支援団体に対する抗議で済んでいたが、いつの時代にも極端な行動原理勢力は生まれてくる。

 

そして、そういった過激思想持つもの達は、その犯罪的な手段を隠すため、複雑なネットワークシステムを利用し結社の秘匿性を高めていった。

 

食事を済ますとシドはまた上着を着て、外出の準備をする。

 

「今日は夜も遅くなる。このまま電源を落とすこともできるけど

 

寝室から車椅子を持ってきて、フレイアを座らせた。

 

「このままにしておいて、あなたを待つ時間を感じていたいの」

 

フレイヤは頼み込むような瞳でシドを見つめた。

 

「わかった。それとネットワークは切っておく。連絡は取れなくなるけど、それはいいね」

 

彼女は微笑むと、両手を広げた。

シドは腰を落とし、その腕の中に包まれると、軽く唇を合わせた。

 

次へ▶️

 

この作品はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません

 

オリジナル小説 

Psy-Borgシリーズ

※Psy-Borg プロトタイプ

精神感応義体

※イサイマサシコラボ小説「頭の中の映画館」

終末の果実

※Psy-Borg意識の発端の物語

飾り窓の出来事

※アンドロイドと人工知能の錯綜

ORGANOIDよ歩行は快適か

※過去と魂の道程の物語

邂逅

※人工知能は世界平和の夢を見るか?

錯乱の扉

※神との遭遇のお話し

静寂

 

Psy-Borg 参考文献 レビューはこちらから

 

自己紹介「そろそろ自分のことを話そうか」

 

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