少ないながらも習い事の経験がある。
あたしは1年生から水泳を、2年生からそろばんを、3年生からサッカーを習い始めた。
何かをしたいと思ったらまず父に直談判し、その理由をプレゼンするのが我が家のお決まりだった。
そして熱意が認められ、ひと度許可が下りると、最後に必ず目標設定をさせられる。
水泳は1級合格、そろばんは3級合格、サッカーは卒業するまで続けると宣言。
いずれも無事クリアすることができ、小学校終了と同時に、それぞれの習い事とも決別した。
振り返ってみると、実はどれも望んだことではなかったように思う。
友達に誘われたわけでもなければ、興味があったわけでもない。
父の思惑通りに動かされていたにも関わらず、自分の意志でやり始めたかのように誘導されていたに違いない。
だから、通い出した途端にイヤになった。
しかし、辞めたいと言って聞いてくれるような父ではない。
目標を達成しない限り終わりはない。
でも、やっぱり行きたくなかった。
頭をフル回転させて考え、秘密基地を持つことにした。
住宅街の奥にあるひっそりとした森。
その一角に、枝や葉を組み合わせて小さなドーム型のスペースを作った。
物置小屋に眠っていた古い毛布を敷き、段ボールを机や座布団代わりにして、快適な空間になるよう工夫した。
果たして基地は素敵な場所になり、あたしは習い事に行っているフリをして、結構な時間をそこで過ごすことになる。

子供はスゴイ。
時として、大人には到底敵わない発想力と行動力を見せつけてくる。
誰にもあったたはずなのに、いつしか失ってしまう期間限定の才能。
だからこそ、昔の思い出はいつまでもキラキラしているんだろう。
あの当時のパワーを持ち続けることができたら、あたしは今頃大金持ちになっていたかもしれない。
それなのに、結局残ったのは天才的に人を欺くという能力のみ。
習い事は、少女を嘘吐きにしましたとさ。