8月2日、晴れ | 熊猿の仲 ~ゆうえんのなか~

熊猿の仲 ~ゆうえんのなか~

モンチッチのようなヨメが、ツキノワグマのようなダンさまとのゆる~りとした日常を綴ります。
果たして熊と猿は仲がいいのか悪いのか…。
今日も中年夫婦はとことんマイペースに暮らします。

新宿二丁目・三丁目を中心に生活していた頃、周りはたくさんの酒豪で溢れていた。
それぞれが飲み過ぎ武勇伝(?)を持っていて、興が乗ってくると誰ともなく自慢話を始めたものだった。
中には明らかに誇張されているようなモノもあって、信憑性は確かではなかったけれど、酒の肴にするには十分面白かった。

電車を乗り過ごすというのは鉄板ネタの1つで、距離や時間を競うように話していた。
最も多かったのは山手線をぐるぐる回るパターン。
1周1時間。
ぼーっとする頭の片隅で高田馬場駅のアナウンスを2回聞いたとか、気づいたら3時間経過してたから俺は3周してたんだとか…
自慢要素一切ナシ。
武勇伝どころか、全く迷惑な話。

でもそんなバカ話を聞いて、ちょっと羨ましくなる。
極度の貧乏性で小心者のあたしは、電車の中で眠りこけることができない。
乗ってる間に仕事のメール済ませておこう、気になっていた店の情報調べよう、旅行のパンフレット比較しよう、なんて考えてしまう。
乗り過ごしなんて無駄以外のナニモノでもないから、寝落ちしないよう常に気を張っているくらいだし。
ただただ何もすることなく、2時間も3時間も寝ているだなんて…
もしかしたら最も贅沢な過ごし方なのかもしれない。

だけど性格は簡単には変えられない。
ぐっすり寝るなんて今後もできないと思う。
その代わり、他にやりたいことがある。
山手線で読書。
電車の中で本を読むのが好き。
ざわざわした現実と、ふわふわした妄想の世界。
気持ちの良い揺れに身を任せて、2つを行ったり来たりするのがとにかく心地好い。
それを思う存分、気の済むまで続ける。

友達に話したら、意味不明と呆れられた。
家でゴロゴロしながらの方が絶対良い、と。
確かにそれも素敵。
でも、電車読書の誘惑とは別のモノ。
なぜこの魅力が伝わらないのか。

あたしと同じような想いを持っている人もいるはず。
いた。
フィクションだから、作者が同じ気持ちかどうかはわからない。
しかし、ここにはあたしの理想がある。
架空の人物像とはいえ、同志に出会えたという喜び。

お気に入りの小説片手に、ワンデーパスで山手線乗り放題。
お腹空いたら構内グルメを楽しんだり、ちょっと目を休めて人間観察したり。
憧れる。

うっとりするあたしに友達が言う。
本読んで山手線何周もしてるヤツ、酔い潰れてぐるぐるしちゃったヤツよりよっぽどヤバいでしょ?

あたし、何もしてないのに酔っぱらいを越えた。