じっとり暑苦しい季節、背筋がゾクッとするような感覚は悪くない。
いつだったか前の職場で、従業員がそれぞれの霊体験を披露することになった。
先輩のおじいちゃんが亡くなった時の話は、怖いやら切ないやら。
後輩ちゃんが海に行った時の話も、スーッと寒くなるよう。
すると、そんなことあるわけない・勝手な思い込みだ・非科学的で根拠がない!と、どんどん不機嫌になる上司。
いるんだよな、こういう人。
勝手に輪に入ってきたくせに、盛り上がりに水を差すヤツ。
微妙な雰囲気の中、いよいよあたしの出番。
いわゆる霊感の有無ということでは、あたしはどうやらアリの方らしい。
小さい頃から謎の方向をじっと見つめたり、見えぬ誰かに話しかけたりしていたと聞く。
世の仕組みがわかってくるにつれ、歓迎される系統の話ではないと理解するようになる。
口にこそ出さないものの、3・4年前までは時折得体の知れない何かを目にしていた。
だけど、残念ながら(?)みんなを怖がらせるような体験はない。
あるのは、ほんのり何かを見たというあやふやな実感だけ。
格好つけても仕方ないから事実を正直に語る。
職場の中で、社長室につながる廊下で時々見かける人物のことを話す。
黒いTシャツにデニム、スニーカーを履いた20代半ばくらいの男性。
スタイルが良くて、真面目そうな爽やか好青年という印象。
後ろ姿ばかりで、顔は見たことないんだけど。
怖い話の趣旨から外れている気がして、てへへと誤魔化し笑い。
そんなあたしに、社内に何かいるってことですか!?そういうのが一番怖いんですけど!と、キレ気味の後輩ちゃん。
…なんか、ごめん。
再び、何とも言えない微妙な雰囲気。
すると、さっきまで不機嫌だった上司が素晴らしい!と声を張る。
今までこういう展開になると、100%の確率でテラーが聞き手を怖がらせようとしてきた。
全ての霊は人を怯えさせようとしているのか?そんなはずない。
それは恐怖心が作り出した勝手な解釈だ!
常々、そう考えていた。
でも、違うのもいると知り気持ちが変わった。
まさか怖い話をして誉められるとは思いもしなかった。
後日、会社の生き字引である会長の話。
それね~、我々がここに引っ越す前にあった会社の若手みたいだよ~。いい子だったんだけど病気で亡くなったんだって。昔いた社員の中にも見かけたってのがいたもんだから、そこの社長に聞いてみたらそんな話してたよ~。まだいたんだね~。働き者だよね~。
全員、想定外の展開に絶句。
仕事熱心な幽霊って…
計らずも、あたしの話が勘違いではなかったと裏付けすることになり、社内でちょっとした時の人に。
まさか怖い話をしてヒーロー扱いされるとは思いもしなかった。
人間現役と人間リタイアの共存。
あたしは悪くないと思う。
