今日はクリスマスイヴ。といっても前記事の理由により外出は控えます。
自分へのクリスマスプレゼントを購入したので、ご紹介しようと思います。
丁寧に梱包されたこちら。
以前検討していると書いた新しい財布です。2つの製品が梱包されているのですが、先ずは左側のメインとなるラウンド長財布から確認してみましょう。
購入したのはこちら。普段ならメーカーや商品名を書くのですが、今回はありません。
こちらは、とあるレザー作家の方が製作した作品です。その仕事の丁寧さと、使用されているレザーの美しさに一目惚れしました。
作家の方をご紹介したかったのですが、本人様のご意向により控えさせて頂きます。モノとしてのレビューは問題無いと伺っているので、早速細部を見ていきましょう。
メインで使用されているレザーは、イタリアのROCADO社製コードバン。銘柄はMUSEUMというものです。
素材としてのお値段は、1枚(平均50cm四方くらい)あたり税込33,000円と、レザー素材としては極めて高価な部類になります。
コードバンですが、ランダム性の強い染色が施されているのが特徴です。
「タンポナート」というイタリア伝統の手作業で染色されたこのレザー。好き嫌いがハッキリ分かれるかと思いますが、私は非常に好みです。派手なようで派手で無く、かと言って無個性とはほど遠い色味になっています。
光が反射する角度にすると、コードバンらしいギュッと詰まったような質感が強く出ます。
サラサラとした手触りと併せて、所有欲を存分に満たしてくれる逸品に仕上がっています。
「出典:GANZO ホームページより引用」
コードバンといえば、単色の仕上げがごく一般的。単色は非常にシックな仕上がりになりますが、私はもう少し遊び心を大切にしたいと考えました。
デザインや色味は視覚的に伝わると思うので、ご紹介はここまで。
本題はここからとなります。私がこの財布に惚れ込んだのは普通の方が見向きもしない、見ても分からない様なマニアックな要素が、価格に比してあり得ないほど高品質だったからです。
先ずはレザー断面の「コバ」と言われる部分です。よく見る「内側に折り込んで断面を見えなくする」という手法がとられていません。
日本の伝統技法である「切り目磨き」が採用されています。ヤスリがけの後にロウを塗り込み、さらにその上から磨くという、コバの処理で最も手間のかかる手法を用いて仕上げられています。
アップでお伝えしたかったのですが、カメラ性能の限界を超えていますね…
このコバ処理により断面の毛羽立ちを防ぎ、摩擦に負けない強度を確保しています。
縫製も非常に丁寧で、太めの糸が使われています。こちらは天然の麻糸で、非常に高い強度を誇ります。
再びマニアックな箇所ですが、ステッチが右上から左下にかけて斜めに入っているのが見てとれるかと思います。手芸をされる方なら、この凄さが分かるのではないでしょうか。
右上から左下へ斜めに入る縫い目は、ミシンでは出せません。これらの縫製が手縫いである事の証左です。ステッチの直進性が最も分かる角度から撮影すると、少しだけ蛇行している事が分かりますね。
これを「不良」とみるか、はたまた人の手が通った「作品」と見るか…私は後者です。
先ほどの写真はかなり意地悪な角度から撮影しています。真上から撮影すればこの通りで、「人の手の限界に近い」と言えるだけの美しいステッチになっています。
次のマニアックポイントはファスナー。こちらも拘り抜いた仕上げがされています。
アウターの持ち手は同じROCADO社のMUSEUM。大きさが適度で触り心地良く仕上げてあります。鋲打ち固定なので、劣化して脱落してしまう心配はほぼありません。
インナーファスナーの持ち手はメタル。見慣れないロゴが刻印されています。
こちらはYKKのメタルファスナーの中でフラッグシップとなる、エクセラという銘柄のファスナー。その価格は、同社のスタンダードなメタルファスナーの3倍以上となっています。
アウターも当然のようにエクセラを使用しています。
高価な理由は、その製造にかかるコストが通常品と一線を画すからですね。
ファスナーの噛み合うパーツは「エレンメント」と呼ばれるのですが、これら1つ1つ全てに磨き作業が施されています。
写真右側、手前側ファスナーが肌色に反射しているのが分かると思います。コレ、カメラを持つ私の左手が反射しているのですよね…
エレメント単体は1mm×2mmあるかどうかという極小サイズ。こんな小さな製品にここまで拘るとは…
YKK、恐るべし。
そんなエクセラの開閉の感触は、少し抵抗を感じる重厚なものです。
メタルファスナーは金属で構成されているので、使用していくうちに少しずつ磨耗していきます。新品のフィーリングが重いのはある意味で当然の事なのですが、指に感じる「緻密な物を動かしている」という感触は、これまで味わった事の無い独特なものでした。
一般人にとってファスナーの故障=財布の故障なので、そこに高品質なパーツが使われているのは非常に有り難いです。
マニアックなレビューは一段落して、次は内装を見ていきます。
内装はブラックレザーですね。汚れても目立たないブラックなのは好印象です。
こちらは牛革仕様で、使用されているレザーは国産の「アラバスタ」という銘柄。去勢された牡牛から採取される、柔らかい革質が特徴のレザーとなっています。
センターにある小銭入れの内装はスエードですね。
起毛しているので、小銭がジャラジャラ鳴るのを軽減してくれそうです。
小銭入れの外側にはカードポケットが1つあります。
ココは使用頻度の高いカードを収めておきたいですね。
写真でいう「小銭入れの向こう側」にも同じポケットが備わっているので、ヘビーユースなカード2枚を最も取り出し易い位置に保管出来ます。
前述のポケット含め、カードポケットは全部で12枚分備わっています。
これまでの財布は16枚のカードポケットを備えていましたが、全てのポケットが埋まった事はありません。これだけあれば十分と言えます。
内装も当然のように手縫い…
先ほどの斜めステッチに加えて、カードポケットの段が分かれる部分には二重に糸が通っています。これもミシンでは出来ない仕上げですね。
また、装飾のラインが各ポケットの上端に入っているのが分かります。
こういった細かい部分の装飾も非常に好感が持てます。芸が細かい…
最後のマニアックポイントは…大分変態っぽいですが、香りです。
こればっかりは文章で伝えられませんが、この記事を書きながら休憩がてらベランダで一服して戻ってくると、部屋がレザーの香りで満たされていました。財布に鼻を近づけると、むせそうな程の濃いレザーの香りが…嫌いな匂いでは無いので、香りも暫く楽しめそうです。
これで財布のレビューは終了…なのですが、冒頭で書いたもう一つの作品が残っています。もう少しお付き合い頂ければ。
こちらですね。
パスウォレットというミニマムな財布です。メインの財布と同じマテリアルで作られており、統一感があります。
使い方はこんな感じ。
極力軽装で出かけたい時や、財布として使わない時はパスケースとしても使用可能です。
こちらは作家の方にお願いして、ワンオフで製作して頂いたものです。
以前から鮫革のパスウォレット(写真右側)を使っていたのですが、5年使用して劣化が目立ってきました。デザインテイストをメインの財布と合わせるカタチで更新出来たので、非常に満足しています。
コバの処理や縫製はメインの財布と同等のクオリティで、小柄ながら非常に高い質感に仕上がっています。
前面のカード入れは曲線なのですが、装飾のラインが均一に入っています。コレ、どうやって入れたんだろ…
断る事も出来た依頼だったにも関わらずこのクオリティでご対応頂けた事、とても感謝しています。
これでご紹介は終わりです。
重箱の隅を突くようなレビューでしたが、その全てに高いクオリティで応えてくれました。いつもなら少し辛口な事も書くのですが、今回に関しては一切ありません。
レザーならではのエイジングを楽しみつつ、長く使用していく予定です。
レビューが終わったところで価格のご紹介を…と思ったのですが、こちらに関しても作家の方への礼儀として控えさせて貰おうと思います。
ただ「このクオリティをこの価格で!?」と、レビューを書きながら10回は思った事だけは添えさせて頂きたいですね。
最後に、今回購入した作品を製作してくれた作家の方へ。
非常に良い買い物が出来ました。貴方の技術とセンスを反映した作品は、いつの日か擦り切れてしまうまで永く大切に使わせて頂きます。
機会があれば、またご依頼させて下さい。