やまたくの音吐朗々Diary

フリーライターのやまたくが綴る、

映画レビューを中心としたバトルロイヤル風味。


テーマ:
ゆれる

ワーナーマイカル(板橋)のアンコールシネマにて、見逃していた2006年話題の邦画「ゆれる」を観賞。

監督は西川美和。出演はオダギリジョー、香川照之、真木よう子ほか。

東京で活躍しているカメラマンの猛は、母の一周忌で帰省する。彼は実家のガソリンスタンドを継いだ兄の稔や、そこで働く幼なじみの智恵子と再会。3人で近くの渓谷に行くことに。猛が単独行動している間に、稔と渓谷にかかるつり橋を渡っていた智恵子が転落する……。

評判に違わぬ作品であった。

人間は感情に支配されやすい生き物である。支配と書いたのは、その感情が確固たる真実や正義に基づいてばかりとは限らないから。ときには怒りやら、憎しみやら、やましさやら、悲観やら……そうした負の感情に、人間は乗っ取られることがある。

つまり、支配者である感情は、常に柳のようにゆれているのである。ボクやアナタの感情も。一瞬一瞬。

そんな感情の「ゆれ」について描いた作品が、本作「ゆれる」である。物語は一見兄弟の絆を描いたヒューマンドラマのように見えるが、ドラマとしてあつらえられた安っぽい絆は、これっぽっちも見当たらない。

感情の「ゆれ」のなかでも最もやっかいな“思い込み”と、そこから生み落とされる悲劇にまつわるリアルな人間模様を、この作品は描いている。

“思い込み”は、顕在意識ではなく潜在意識に刷り込まれる。そして一度刷り込まれた“思い込み”は、それ自体が、本人にとっての主観的真実となる。固着すれば、はがすことすらできなくなることもある。

こうした人間の重要な性質を内包した物語を、余計な感傷や同情を挟むことも、ともすれば拾い上げたくなるおいしいエピソードに目をくれることもなく、気鋭の女流監督は、おごそかかつシリアスにつむぎ上げている。

主人公はオダギリジョーと香川照之が演じる兄弟だが、ふたりはヒーローでもなければ、できた人間でもない。むしろ、相手に対して、思いやりも、思い込みも、期待も、羨望も持ち合わせている、そんな、どこにでもいる人間である。ゆえに、観客はつい無抵抗のまま感情移入させられる。

制作費を何十億とつぎ込んでも、何も残らない映画が多い昨今、赤裸々に、真摯に、真っ向から人間を描くことで観る者に深い感慨を残す本作は、映画作りに対するひとつのテーゼをも示している。

結局、(あくまでも個人的にだが…)感銘を受ける作品というのは、同じ傾向をもっているように思う。

常に観客の想像力を刺激し、その結論を観客一人ひとりに委ねる映画である。

想像力を刺激し、は、固定観念を溶解させ、と言い換えてもいい。つまり、意識を撹拌してくれるものである。

家族、人生、恋愛、友情……そうした題材の映画や小説が無尽蔵なのは、おそらく、それらのテーマに画一的な答えがなく、なおかつ、そこに生じる「ゆれ」に、人間の本質を見るからなのだろう。

そして、その本質は、折につけ、観る者の想像力を刺激し、固定観念を溶解させる。

本作では事故(事件?)の真相解明がひとつのテーマになっているが、そうした謎解きは二次的、三次的な見どころにすぎない。

見逃せない核心は、ひとつの出来事をきっかけにあぶり出される人間の「ゆれ」、そのものである。きっと、その「ゆれ」の大きさをより敏感に感じ取ったひとほど、この作品に高い価値を見いだすはずである。

簡単そうで難しい主題の物語を、若き女流監督は、兄弟というモチーフにミステリー風の味つけを施しつつ、見事な筆致で描き上げている。

人物描写以外の、捨てカット的な風景やモノの写し方も実に意識的で意味シン。しかも、それらがいちいち美しい。効果音をそぎ落とした丁寧な演出もまた。

2時間19分という長丁場を、冗長すれすれに抑制を利かせ、また、豊かな観察眼をもって切り取った手腕は、作品のテーマとは裏腹に、日本映画界の未来をも明るく照らすサーチライトのようである。

この映画に描かれている「ゆれ」の“美しさ”と“恐ろしさ”は、いつまでも心に残るだろう。

オススメ指数:85%(最大値は100%)

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