【謹賀新年】『古事記』序文とは何か? | 邪馬台国と日本書紀の界隈

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邪馬台国・魏志倭人伝の周辺と、まったく新しい紀年復元法による日本書紀研究についてぼちぼちと綴っています。

新年あけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

 年の始めに、『古事記』の序文について考えてみました。

 『古事記』序文は太安万侶の上表文の形をとって記されています。

 以下に、原文に出来るだけ忠実に現代語訳をしてみます。

 ※便宜上、ブロック分けをしています。

 【参考文献】中村啓信『新版 古事記』角川ソフィア文庫2009

 

臣安万侶が申し上げます。

(第1ブロック)

固まり始めたとはいえ、気の形はまだ現れない原初の混沌では、名もなく何かが為されることもなかったので、誰もその形を知りようがありません。

しかし、混沌が分かれ天と地となり、三神が造化主となり、陰陽が開け二霊が万物の祖となられました。

現世と黄泉の国を出入りし、目を洗って日神と月神が現れ、海水で禊をして天津神と国津神が現れました。

世のはじまりは実に不明瞭ですが、本教により島産みの時を知り、先聖により神生みと人を立てた世のことを知りました。

まことに知るのは、鏡を懸け、珠を吐いて百王が続き、剣を噛み、虵(おろち)を切って万神の子孫が反映したことであります。

安河で議って天下を平らげ、小浜で論いて国土を清め、これをもって番仁岐命(ほのににぎのみこと)が初めて高千嶺に降り、神倭天皇が秋津洲に経歴しました。

熊に化けたものが川から現れると天剣を高倉から獲て、生尾(せいび)が径を遮ると大烏が吉野へ導きました。

舞を列ねて賊を攘い、歌を聞いて仇(あた)を服従させられました。

夢で覚って天津神・国津神を敬ったために賢后と称えられました。

烟を望みみて民を綏撫したために今に聖帝と伝えられています。

境を定め、国を開き、近淡海で国を治められました。

姓を正し、氏を撰んで、遠飛鳥で国を治められました。

遅速はおのおの異なり、外見や内面も同じではありませんが、古を稽えて道徳の頽れたのを縄し、今に照らして守るべき教えが絶えんとするのを補われないことはありませんでした。

(第2ブロック)

飛鳥の清原の大宮で大八州を統治された天皇の世に至りました。

皇太子は天皇の徳を備え、即位の時期に応じられました。夢の歌を聞き、夜の川で天皇位を継承することを知られました。

しかし、天の時はいまだ到来せず、南山に出家されました。

人事が備わると、虎のごとく東国に進まれました。皇輿は素早く進んで、山を越え川を渡り、天皇軍は雷鳴のように進み、将軍の率いる軍は稲妻のように進みました。

矛は威勢をあげ、勇猛な兵が烟のように現れ、天子の赤い旗は武器を輝かせ、凶徒(近江軍)は瓦解しました。わずかの日数のうちに妖気はおのずから清らかとなったのでした。

そこで、牛を放ち、馬を休ませ、心安らかに都に帰り、旗を巻き、矛を納め、舞い歌って都に滞在されました。

そして、二年の二月に清原の大宮において天皇位に即かれました。

(第3ブロック)

その道は黄帝に勝り、徳は周王を超えていました。

乾符を握て(三種の神器を受け継いで)天下を統治し、天統を得て、国の隅々まで包み込まれました。

正しい陰陽に乗り、五行の順序は整い、神の教えを定めて人々に奨め、優れた教化を国中に広められました。

さらに、天皇の知識は海のように広く、深く上古を探り、鏡のような心は光り輝き、先代のことをはっきりと見極められていました。

(第4ブロック)

天皇は詔されて、「朕聞く。諸家の持てる帝紀と本辞はすでに真実とは違い、多くの虚偽が加えられているそうだ。いまこの時にその誤りを改めなければ、年を経ずにその真実は失われてしまうだろう。これは国の根幹をなすものであり、天皇教化の基本となるものである。故に、帝紀を選び記し、旧辞を検討して、偽りを削り、真実を定めて、後世に伝えようと思う」と仰せられました。

(第5ブロック)

舎人あり。姓(氏)は稗田、名は阿礼。歳は二十八でした。生まれながら聡明にして、一度目にしたものは口誦でき、一度耳にしたことは心に記すことができました。

それで天皇は阿礼に勅語して、帝皇日継および先代旧辞を誦(よ)み習わすことを命じられました。

しかし、時は巡り御代は変わって、その事はまだ成し遂げられていません。

(第6ブロック)

伏して思うに、皇帝陛下は天皇位を得て光宅し、天地人に通じて亭育されました。皇居にいながら徳は馬の蹄の極まるところまで被い、皇居にいながら教えは船の舳先の逮(およ)ぶところまで照らしておられます。

日が昇り月と光を重ね、雲は烟のごとく散り、枝を連ね、穂を併わす瑞祥など史官が書き記すことは後を絶ちません。烽火を列ね、通訳を重ねて届く貢物で、庫が空になる月はありません。名は夏の禹王より高く、徳は殷の湯王より優れておられると言えます。

(第7ブロック)

ここにおいて、旧辞の誤りや改変を惜しみ、先紀の偽りや間違いを正そうとされ、和銅4年9月18日に臣安万侶に詔して、稗田阿礼が勅命によって誦み習わした旧辞を撰録して献上せよと仰せになりましたので、謹んでお言葉に従い、子細に採録いたしました。

(第8ブロック)

しかし、上古の時は言葉と意味は素直であり、漢字で文章にすることは難しいものです。訓によって記せば、漢字が言葉の意味を表さないことがあり、すべて音をもって記せば、記事がとても長くなります。

そこで今は、あるいは一句の中に音と訓を交えて用い、あるいは一つの事柄をすべて訓を用いて記しました。言葉の意味のわかりにくいものには注を付けてわかりやすくし、理解しやすいものには注を付けませんでした。また、氏の「日下」を「玖沙訶(くさか)」と読み、名前の「帯」という字を「多羅斯(たらし)」と読みます。このような類はもとのままとして、改めませんでした。

(第9ブロック)

およそ記したところは、天地開闢に始まり、小治田の御世に終わります。天御中主神から日子波限建鵜草葺不合命までを上巻とし、神倭伊波礼毗古天皇から品陀御世までを中巻とし、大雀皇帝から小治田大宮までを下巻としました。合わせて三巻に記して、謹んで献上いたします。

 

臣安万侶が恐れかしこまり申し上げます。

 

和銅五年正月二十八日 正五位上勲五等 太朝臣安万侶

 

 

 最初に市販本で『古事記』序文の現代語訳を読んだ時には、普通に「元明天皇」という名前が出てきましたので、太安万侶が元明天皇に上表したものということに何の疑問も持ちませんでした。

 その箇所は、第6ブロックの冒頭の一文ですが、漢文で記された原文に「元明天皇」とは記されていません。「皇帝陛下」としか記されていないのです。

 

 当然、漢風諡号の選定前ですから「元明天皇」とは記されようがありません。しかし、たとえば天武天皇は、第2ブロック冒頭のように「飛鳥清原大宮御大八洲天皇(飛鳥の清原の大宮で大八州を統治された天皇)」というように特定できるような文言で記されています。ところが、元明天皇を特定する「平城京(ならのみやこ)」などの文言は見当たらないのです。

 

 それで俄然内容の怪しさが気になりだすと、次々と以下のような違和感が芽生えてきました。

●元明天皇への上表文になぜ天武天皇に関する内容が多いのか?

●第2ブロックの語る天武天皇即位の経緯を『古事記』は記さないが(天武天皇記自体がないが)どこから引用したのか?

●第5ブロックで唐突に稗田阿礼について語られるが、そのような能力を備えた人物は本当に『古事記』編纂に必要だったのか?

●第7ブロックで『古事記』は稗田阿礼の誦み習わした旧辞を撰録したと語るが、〈日下〉〈帯〉はそもそも文字資料として存在したのではないか?

などです。

 

 さらには、

●『古事記』が第4ブロックに記された天武天皇の詔によるものなら、なぜ仁賢天皇以降の事績を記さないのか? 天武天皇朝の正統性を確立するための編纂なら、少なくとも天武天皇即位までが事績として語られるべきではないか?

などということまで気になってきました。

 

 そこで、そもそも『古事記』序文とは何なのか?という根源的なところを考えてみました。

 結論は、「『古事記』序文は、別の史書の序文あるいは上表文だった可能性がある」ということになりました。

(以下の動画にそのようなことをまとめました)

 

 

 

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『古代天皇たちの真実』目次

第一章 「紀年論」のこれまで

第二章 『原日本紀』仮説による無事績年削除短縮法

第三章 『日本書紀』の編纂過程を考える

第四章 『原日本紀』編纂の論拠

第五章 『原日本紀』の年代観

第六章 天武天皇の意向と謎の第二期無事績年

第七章 継体天皇朝と仁賢・武烈天皇朝並立の根拠と歴史の真実

第八章 二王朝並立を復元するとみえてくるもの

    ◎真の「武烈天皇陵」◎「磐井の乱」新解釈 ◎「仏教公伝年」新説

 

 

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