話題になっていた『翔んで埼玉』をテレビ地上波で放送していたので、ちょっと見てみました。笑うところたくさんでおもしろかったです。

 

川の向こうの東京は高層ビルが立ち並ぶ大都会なのに、手前側の埼玉は江戸時代の農村みたいになっていて、通行手形がなければ川を渡れないとか、埼玉県人が通行証をなしで東京に侵入すると逮捕されるとか、極端なデフォルメが爽快でした。

 

まあ学生時代に茨城に9年間住んでいた私に言わせれば、埼玉は茨城よりずっと都会です。安心してください(笑) (ちなみにこれは私の茨城愛ですので、茨城の皆さん、ご理解のほど)

 

ポスターに「空前絶後のディスり合戦開幕!」と書いてあります。「ディスる」の語源となっている英語のdisrespectは、軽蔑する、無礼なことをする、というような意味の動詞ですが、日本語の「ディスる」はそんなに深刻なものではなく、「ちょっとバカにする」とか「おちょくる」ぐらいの意味で使われているようです。

 

この映画ものっけから埼玉をディスりまくっていますが、仲の良い友達に軽口をたたくような感覚で、埼玉への愛や親しみが表現されていて、埼玉県人の方も観てそんなに不快にならなかったんじゃないかと思います。
 

それに、主人公・麻実麗(Gacktさん)や埼玉デューク(京本政樹さん)は容姿も振る舞いもカッコよく、その活躍によって埼玉の地位が向上していくわけですから、むしろ埼玉アゲアゲ映画と言うべきでしょう。当初、「埼玉県人にはそこらへんの草でも食わせておけ」との暴言を吐いた壇ノ浦百美(二階堂ふみさん)も途中から麗とともに埼玉解放のために戦うわけですし。

 

そもそも埼玉のことをこれほどクローズアップして盛り上げた作品は他にないわけですから、埼玉にとって得にはなっても損にはならないでしょう。埼玉県知事から映画製作者や主演のGacktさんが表彰されてもよいぐらいじゃないでしょうか。

 

とにかく十分に楽しめた爽快な作品でした。【鑑賞記第1部おわり】

 

 

【ここから鑑賞記第2部】

せっかく映画を楽しんだあとに、あまりマジなコメントを書いては興ざめだとお叱りを受けるかもしれませんが、ちょっと植民地主義を思い出させるところがありますね。例えば、大英帝国の人々が植民地インドをどのように見ていたか。ナイフとフォークを使いこなすのが紳士淑女の証であるとする英国文化の尺度でインドの手食を見れば「野蛮」と映ったでしょう。高貴な英国人と卑しいインド人という対比。それこそ本もののdisrespect(軽蔑)が行われていたわけです。その植民地主義と戦ったのがマハトマ・ガンジーでした。

 

もっとも、インド人の人権を尊重し、愛をもって接した英国人も当時からいたことを、私は3ヶ月のインド滞在で知りました。そして今のインドには非常に優秀で能力も誇りも高い人が大勢いるということも忘れずに付け加えておきたいと思います。

 

そうした植民地主義の視点から見ればしゃれにならない話になります。埼玉県人とばれて劇場からつまみ出される青年がいましたが、あのガンジーも南アフリカで有色人種だというだけで列車からつまみ出されています。インドに戻ってからのガンジーの戦いはあまりにも壮絶な命懸けでした。

 

キューバを植民地としたスペイン帝国はアフリカから連れてきた人々を奴隷として働かせました。実際に鞭を打って使役したそうです。それと戦った闘士がキューバ独立の英雄ホセ・マルティでした。世界の歴史はそのような植民地主義や人種差別と戦ってきた歴史でもあるわけです。

 

日本は植民地支配をしたことはありますが、されたことはないので、この映画が示すような差別感をあまり深刻でない軽口レベルでやれるのだと思います。まあしかし、それはこの映画の製作者の意図とは無関係で、私が勝手に想起した私見であることをご容赦いただければと思います。