サハラマラソン挑戦記 レース ステージ3 Part2
2017/04/11/8:30~
31.6km (10H30)
水をこぼしてしまったものの気持ちを切り替えて、CP2を超えると、昨日通過した山にたどり着きました
ちょっと思い出してほしいのですが、ステージ2は、岩の坂道を延々と登り続け、下りはまるでパウダースノーのスキーをしているかのような場所を逆方向に登り、そして下っていきます。
ニセコのパウダースノーばりのフカフカな砂山をまずは登っていくのですが、足を踏み込むたびに体が沈み、そして落ちる…。これはヤバい!
手に持ったスティックで必死になって踏ん張り、足をチョコチョコと踏み込んで、なるべく落ちないように進んでいくのですが、フカフカ斜度25%のパートに差しかかったときは、這いつくばるように登るしかありません。
ここを通り過ぎると、次は岩の崖を平行移動しながら登っていきます。一瞬たりとも気が抜けません。
スティックを片手に持ち、両手を使ってよじ登っていく。しかも、足をかけた岩が落ちることもあるのです!
上から岩が降ってきたら怪我をするでしょうし、もし足を滑らせたりしたら崖に真っ逆さま…。きっと即死に違いありません。
そんなことを思いながら、岩山を登ろうした瞬間、寝るときに使うマットが岩の隙間に引っかかりました。体がグッと後ろに引っ張られ、とっさに近くの岩にしがみつく。
「危ない…」
万一転倒していたら、自分が怪我をするどころか、後続のランナーにも迷惑をかけるところでした。
「集中しろ」「集中しろ」
絶対にあせることなく、着実に前に進むように…。
崖登りも終盤になると、今度は岩さえなくなるので、ロープを伝って登っていきます。ロッククライミングならぬ、まさにサンドクライミング。しかも命綱なし!!
「マジでヤバいな、サハラマラソン! 一瞬でもミスしたら本気で即死やん!!!」
こういうとき、人はアドレナリンが全開になります。握力はどんどん弱まっていくのですが、手を離すわけにはいきません。正真正銘の必死!
こうして、どうにか登りきった! 「やったぞ!」と充足感に包まれたのですが、ゴールはまだ先…。
今度は大きな岩の道を下っていきます。このパートは登りと違うキツさがありました。
それは足です。傾斜が付いていて、かつ岩の下りは、足が横すべりしやすいのです。
すべるたび、水ぶくれを削られるような痛さが走ります。
なるべくスピードは一定、足の踏み込みを慎重に進め、ようやく山パートを超えて、直線が約10kmのパートに。
目の前には丘が見えて、僕はそこにゴールがあると信じていました。
時間は、ちょうど13時から14時の間。風もなく、無風状態。気温は40度。グングンと気温が上昇してくるのがわかりました。
目の前に見える丘は、なぜか進んでも進んでも近づいてくる気配がまったくありません。
ただひたすら、真っ直ぐなのに、まるで進んでいない感覚に襲われていきます。
「暑い…」
「喉がカラカラだ…」
「脱水状態になっているかも…」
ここで、残りの水がほとんどなくなっていることに気がつきました。
水がない!
その昔、砂漠で水を欲しているシーンをアニメか何かで見た記憶がありますが、今の自分はまさにそのキャラクターそのもの。
アニメでは蜃気楼でオアシスが見えてきて、頑張って近づくと消えている。そんな無情さが表現されていましたが、蜃気楼のオアシスさえ出てこない現実は、小説よりも残酷。
本当に今、自分は歩いているのか。もしかしたら夢なのか、それとも現実なのか。そんなことさえわからなくなってきました。
残る水の量を確認しながら、倒れそうになる一歩手前で、少しづつ少しづつ水分補給をしていきます。
ペースは大幅にダウンして、次々に他のランナーに抜かれていきます。
「水をくれ」と何度も言いそうになるのですが、水をもらったら失格になってしまうかもしれないとと思い、心の中で「水をくれー」と何度も何度も叫び続けました。
油断大敵。
調子の良かったとき、僕は油断をして水をこぼしてしまう大失態をした。
こうしたことは、レースでも日常生活でも起こり得ることで、「調子が良いときほど気を引き締めなければいけない」と、これまで自分に何度も言い聞かせてきたはずが…。
時折、そよ風が吹く。
そのそよ風は、本当に少しのやさしい風で、熱中症の僕の体を癒してくれる恵みの風でした。
意識が遠ざかるなか、少しでも自分をごまかすため、自撮りをしてみました。
「つらいときの自分はどんな感じなんだろうか」
そうこうしてるうち、あれほど近づいて来なかった丘が見えてきました。
「よし、もう少し!」
と思うと同時に、ある事実に気がつきました。
丘のふもとにあるはずのゴールが、ない…。
「あれ、丘の上かな?」
「ここから先、もしまだ距離があるのだとしたら、水がなく死んでしまうかも…」
そんなことを思いながら、一口だけ水を口にふくみました。
そして、丘に近づいていきます。とにかく丘を登れば、そこがゴールと信じて。
しかし、頂上に登ったとき、そこには絶望がありました。
見えた景色は、ただただ真っ直ぐに広がる岩道、ゴールがないんです。
見張りでスタッフの方が立っていたので、「あと何km?」と聞くと「2kmぐらいかな」と教えてくれました。
僕はクラクラとする意識のなかで、最後の力を振り絞って、そして希望を持つことを決めました。
倒れる寸前の体を、精神力でどうにか支えながら、フラフラになりながら歩き続けました。
そして、ついに水が底をついたとき、坂を下ったところにゴールが見えたのです。
「あった!!!」
最後の10km、かなり失速してしまいましたが、こうしてどうにかゴールできたのでした。
それでも、水を飲んでも飲んでもオシッコが出ない。
ゴールしたときにもらう1.5リットルのペットボトル2本を少しづつ飲んで、3本目の半分ぐらいのところで、ようやく出てきました。
明日は86kmのロングステージです。
「オーバーナイトステージ」と呼ばれるステージで、ここでしっかり体力を回復させないと持たないので、僕はいつもよりも早めに眠りにつきました。
熱中症になったためか、夜中に何度も目が覚めましたが、そのたびにレースで感じた絶望とゴールできたときの充足感を思い出していたのでした。
<続く>