伊吹有喜『四十九日のレシピ』の文学的な冒険
今週は、小説家や文芸評論家、歌人やコラムニストの方々と会う機会が多かった。文学の話をしながら、コーヒーを飲んだりビールを飲んだり、その後ロックバーへ行ったり。
ふと気がつくと、それらの多くの表現者の人達が年下だ。
「時が流れるお城が見える」(ランボー)だよなぁ。
30代、40代、がんばってるよね。
負けられないなと思います。
さて、今日は伊吹有喜さんの新刊小説を紹介します。
伊吹さんは昭和44年、三重県生まれです。今年、ちょうど40歳だね。
ポプラ社小説大賞特別賞受賞作『風待ちのひと』(ポプラ社)につづく、第二作目『四十九日のレシピ』が刊行されたのだ。半年後に受賞第一作だから、いいペースだよね。しかも、非常にクオリティの高い力作で、ぼくはこちらのほうが好きだ。
少し前に一気に読み、泣きはしなかったが(がまんした)、感動した。
登場人物が、みんな温かい。
とりわけ、エンディングが素晴らしい!
この原稿を書こうと思い、また読んだ。一回目より、ずっと味わい深かった。
不思議な出会いからスタートするのは、「“心の風邪”で休職中の男と、家族を亡くした傷を抱える女が海辺の町で出会う」という、『風待ちのひと』と同じである。
だが、『四十九日のレシピ』のほうがずっとポップだ。そういうトーンが、ぼくは好きなんだろうと思う。
熱田家の母、乙美が亡くなった。
気力を失った父、良平のもとを──どういう人物が訪れるかで小説は決まる。作品全体のトーンを決定する、大切な出会いだよね。
良平を訪れるのは、真っ黒に日焼けした金髪の女の子、井本なのである。
やられたよ!
この井本のおかげで、四十九日という重くなりがちな素材が、ポップに生き生きと展開していく。
この子↓
乙美は生前「教え子」だったという井本に、「四十九日までのあいだ家事などをやってほしい」と頼み、既に料金も支払っているのだという。
そして井本は、乙美が作っていた、ある「レシピ」の存在を伝えるのだ。
あんまり書くとネタバレになってしまうので自重するけど、ぼくがいちばん感動したのは、たいして美人でもない乙美と、前妻と死別し再婚をすすめられている良平との出会いのシーンだ。回想シーンなのだが、乙美がバスで去っていくこの場面は胸にささる。
「おまえ、さっさと結婚してやれよ!」とぼくは思い、ああ、妻との回想シーンなんだから結婚はするんだよな、よかった──などと間抜けなことを考えるのだった。
乙美は、ものすごく魅力的な女だ。井本も、真っ黒で金髪だけど、魅力的な女の子だ。だってそれは──というところで、やめておく。
とりわけ、エンディングが素晴らしい、とぼくは先に書いた。
四十九日とは仏教の世界観であり、こうした世界観を前提にしたいわばファンタジーの世界に作者は一歩踏み出している。
そこが、いい。
伊吹有喜さんの文学的な冒険に、惜しみない拍手を送りたいと思います。
しかしさ、またすぐに次の作品を読みたくなるよね。書くほうはたいへんだけど、読むほうは「早く!」とつい思ってしまう。
多くの読者が次の作品を心待ちにする小説家。
伊吹有喜さんは二作目にして、そういう作家になったのだと思う。
PS まだ1作目を読んでない人は、こちらから読んだほうがいいと思います。
↓
ふと気がつくと、それらの多くの表現者の人達が年下だ。
「時が流れるお城が見える」(ランボー)だよなぁ。
30代、40代、がんばってるよね。
負けられないなと思います。
さて、今日は伊吹有喜さんの新刊小説を紹介します。
伊吹さんは昭和44年、三重県生まれです。今年、ちょうど40歳だね。
ポプラ社小説大賞特別賞受賞作『風待ちのひと』(ポプラ社)につづく、第二作目『四十九日のレシピ』が刊行されたのだ。半年後に受賞第一作だから、いいペースだよね。しかも、非常にクオリティの高い力作で、ぼくはこちらのほうが好きだ。
- 四十九日のレシピ/伊吹有喜
- ¥1,470
- Amazon.co.jp
少し前に一気に読み、泣きはしなかったが(がまんした)、感動した。
登場人物が、みんな温かい。
とりわけ、エンディングが素晴らしい!
この原稿を書こうと思い、また読んだ。一回目より、ずっと味わい深かった。
不思議な出会いからスタートするのは、「“心の風邪”で休職中の男と、家族を亡くした傷を抱える女が海辺の町で出会う」という、『風待ちのひと』と同じである。
だが、『四十九日のレシピ』のほうがずっとポップだ。そういうトーンが、ぼくは好きなんだろうと思う。
熱田家の母、乙美が亡くなった。
気力を失った父、良平のもとを──どういう人物が訪れるかで小説は決まる。作品全体のトーンを決定する、大切な出会いだよね。
良平を訪れるのは、真っ黒に日焼けした金髪の女の子、井本なのである。
やられたよ!
この井本のおかげで、四十九日という重くなりがちな素材が、ポップに生き生きと展開していく。
この子↓

乙美は生前「教え子」だったという井本に、「四十九日までのあいだ家事などをやってほしい」と頼み、既に料金も支払っているのだという。
そして井本は、乙美が作っていた、ある「レシピ」の存在を伝えるのだ。
あんまり書くとネタバレになってしまうので自重するけど、ぼくがいちばん感動したのは、たいして美人でもない乙美と、前妻と死別し再婚をすすめられている良平との出会いのシーンだ。回想シーンなのだが、乙美がバスで去っていくこの場面は胸にささる。
「おまえ、さっさと結婚してやれよ!」とぼくは思い、ああ、妻との回想シーンなんだから結婚はするんだよな、よかった──などと間抜けなことを考えるのだった。
乙美は、ものすごく魅力的な女だ。井本も、真っ黒で金髪だけど、魅力的な女の子だ。だってそれは──というところで、やめておく。
とりわけ、エンディングが素晴らしい、とぼくは先に書いた。
四十九日とは仏教の世界観であり、こうした世界観を前提にしたいわばファンタジーの世界に作者は一歩踏み出している。
そこが、いい。
伊吹有喜さんの文学的な冒険に、惜しみない拍手を送りたいと思います。
しかしさ、またすぐに次の作品を読みたくなるよね。書くほうはたいへんだけど、読むほうは「早く!」とつい思ってしまう。
多くの読者が次の作品を心待ちにする小説家。
伊吹有喜さんは二作目にして、そういう作家になったのだと思う。
PS まだ1作目を読んでない人は、こちらから読んだほうがいいと思います。
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