・WALKINGMAN(2019年 日本 エイベックスピクチャーズ)

 

川崎を舞台にした映画を時系列でみてきて、最近(2019年)に作られた作品です。エイベックスが作った映画なんだそうです。

 

川崎で特殊清掃業に従事する若き労務者がラッパーになるまでのストーリー。

 

大島渚監督のデビュー作で、川崎の赤貧の母子家庭を暮らしを描いた「鳩を売る少年」から、約70年後の労務者の街川崎の貧困な母子家庭の子供たちのストーリー。

 

日本のラッパーの歴史ももう30年くらい経ってるんでしょうね。米国の黒人社会から生まれてきたHIPHOPカルチャーですが、はじまりは80年代の半ばごろかなあ。

 

毎年、代々木公園では「B₋BOY」という無料野外フェスがあって、私も東京に出てきて、ラッパーのためのフェスがあるとしって、毎年一人で代々木にいって、ライムのバトルを見ていた時期があります。

 

東京に出てきてしばらくは一人で行動して、一人でいろんなところに行ったので、私もライムを勉強して、コンテストに出てみたいなあとぼんやり考えた時期もありました(自分でも発信したいという思いがあったんですね)。でも、オキナワ民謡関係のイベントをやる!裏方になろう!という方に流れてしまったので、ラップの方には結局行かずじまいでしたが。

 

代々木公園はラッパーが多くて、ベンチに座って、真面目にリリックを書いていたりするんです。代々木公園で楽器の練習をしてると「いいですね!お互い頑張りましょう!」と声をかけてきて、リスペクトしてくれました。

 

ラッパーの人たちって、心がまっすぐで、打ち込めるものがある、自己発信する、自分のやりたいことを意志をもってやる、いいたいことははっきり言う!

自分をだれよりも大切にする! 自分を大切にしてるから他人のこともリスペクトして、素敵な関係を築こうとする。

 

「心」を本当に大切にしてるので、「好きなことを一生懸命やってる人」を、リスペクト!して友達になってくれます。「素敵な人たちだな」と思ってずいぶん勇気をもらいました。

 

この作品は、川崎の貧困家庭の子供の話で、働ける年齢になっても、幼い頃からの過度のストレスのせいで、どもり(まともに話ができない)、まるで知恵遅れのような青年を、まさかのイケメン野村周平さんが演じています。

「えっ、この人野村周平じゃないでしょ」というくらい、さえない、悲惨な感じの青年でした。

 

それが、遺品整理の仕事で、死んだ人の部屋を片付けに行ったときに、そこがラッパーの部屋で遺品を片付けながら、ラップの世界の世界と衝撃的な出会いをする。そこから、どもりで知恵遅れに見えた青年のなかで何かが変わる。

 

リズムを打ちながらであれば、少しずつ言葉がしゃべれること、歌詞を書いて、それを暗誦していけば、自分の考えを声に出して話すことができるということに気が付く。

 

「身分の思いをちゃんと言葉に出して言ってみたい」と願うどもり青年の

もがく姿が感動的でした。

 

蓄積した心の叫び、怒りや悲しみを、みっともなくてもいいから、「言ってみろ!」「ほえろ」というのがラップ。エイベックスは着眼点がいいなあと思いました。

 

 

ストーリー展開も丁寧に作られていて、登場人物も出し方がうまいし、ただのグレイのパーカーにジーンズの青年が、ロールプレイイングゲームで欲しいアイテムが増えていくように、おしゃれなファッションアイテムが手に入って、ぐんぐんカッコよくなっていくのが、面白かったです。そして彼は、外見がラッパーぼくなって、そこからラッパーになろうと決意する。その成長の過程の演出が面白かったです。

 

「人間、形から入る」といいますが、たしかに、野球選手を目指す人は、幼いころに野球チームのグッズを集めることから「野球が好き」ということを自覚して、「おおきくなったらやきゅうせんしゅになりたい!」と公言するようになって、努力を始める…という流れがあるから、外見(服装から変わる)というのは、たしかにそうなのかもしれません。

 

その青年のファッションや言動が変わっていく運命の場所が「チッタ」だったのも素敵でした。川崎のなかでチッタはイタリアンな街並みを再現してつくった商業施設で、「夢のような場所」です。

あそこを歩く人は、非日常、映画の登場人物のような気分になれるチッタの街並みを歩くことで、新しい自分との出会いを求めているのかもしれません。

 

WALKINGMANというタイトルもイカしていて、ソニーのウォークマンを使ってる世代には、胸アツのアイテムですよね。

そう、街に音楽を持って外出するようになったのはウォークマンが始まり。

スマホやアイポッドではない。

 

どもりでしゃべるのが下手な青年。あれ、いじめられてたり、生活苦で、世間の冷たい風をダイレクトに受け続けて、社会の救済の手も届かず、世間から見捨てられているような状況下で、ひっそりと暮らし、世間から虐待を受けるような生活を送ってるうちに、声でなくなっちゃったのかなと思って、胸がいたみました。

 

東京に出てきてからお知り合いになった川崎出身の社長さんが、そういえば、10年くらい前までどもりでいらっしゃいました。子供のころ生活保護を受けていたという話で、世間の風が冷たい中で生きてきて、どもりになってしまったのかなと、思い出してしまいました(今はどもりもなく、自信にあふれて、堂々と部下を采配して働いていらっしゃいます)。

 

人は夢を見れば努力できるし、どんぞこから抜け出せます。人は変われるし、成長できる。困難も乗り越えていける。

 

ロックンロールの精神というのもおんなじなんだそうです。

前に進め、たとえ手がもげて足がなくなって、体だけになっても、前に進め。

石のように転がって前に進め!「それがローリングストーン!」なんだそうで(ロック評論家の増渕先生から聞いた話です)。

 
彼は、歩いて、歩いて、前に進みました。