移動のお知らせ

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樋口サキです。
グループ再編成により、pastaへ移動となりました。
今後は以下のブログにて記事を更新いたします。

新ブログ
http://ameblo.jp/teampasta/


近代文学班の皆様、半年間お世話になりました。
今後ともよろしくお願いいたします。
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さいごの始まり

テーマ:
『これは例えばの話なんだけど、目の前に自殺をしようとしている人がいるとするじゃん。ものすごく高いビルのてっぺんに立って、今にも投身自殺をしようとしているの。そんな人に「だめだ!自殺はよくない!」と説得する方法なんだけどさあ。簡単には説得に乗ってくれないわけじゃない。説得力がないっていうか、信じてもらえないんだよね。
 信じてもらうには、まあ普通は二つ理由があって、ひとつはお金、ひとつは実績だよね。
 つまり「自殺はよくない!」と言いながらアラブの石油王が60億円をポンと出すことができたらそれは自殺をやめるだろうし、もしくはイチローがシーズン安打記録を塗り替えた時のバットに「自殺はよくない!」とサインして渡してくれたらやめるだろうよ。でも僕らにはお金も実績もないから、どんなに大事なことを伝えたくても信じてもらえないんだよね。
 そこでどうにかして信じてもらうために添えるのが、「過去」だよね。「僕はこんな過去がありました」っていうのをさらけ出すことでしか、信じてもらえないと思うんだよ。恥だとか、苦しみだとか、そういった過去のほうが説得力が出るわけで、リアリティがあるんだよね。だから僕は過去を切り売りするようなことをしているわけなんだけど』
 と、一方的に言いながら馬乗りになって殴り続けていたらついに抵抗する力がなくなったと見えてピクリとも動かなくなった。死んだな。そう確信した。血で真っ赤になり肉もえぐれ元の造形がわからなくなった顔からは生気を感じることはできないから、きっとそうだろう。もっとも僕自身も殴り続けることで拳のダメージは限界に達し、めくれた皮の下からヒクヒク動く筋のようなものが見えた。感覚はとうになくなって、しかしものすごい熱を発していることはなんとなく感じられた。喉はカラカラで、やはり血の味がした。
 フゥと一息ついた瞬間、尻のあたりでぐにゃ、と動く感覚がした。股の下で息絶えていたものがゆっくりと状態をもどし始めて、起き上がろうとしている。ヒッと一声上げて押し倒そうと思ったが腕が動かない。それは僕の股下から血のすべりを使ってぬるりと抜けだすと立ち上がり、潰れた目で僕を見下ろした。しばらく空気が止まる。小首を傾げ、余裕であるとでも言いたいのか微笑みのような表情もしていた。僕は動くことができず女座りのまま慄いた。ツバを飲み込みたかったが上手く喉を通らず、逆に吐き気がした。
 それがフラっとバランスを崩して背中の方に倒れると、そのまま柵を越えて238メートル下のコンクリートに落ちていった、と、思う。バランスを崩した後は一瞬で、もはや見ることはできなかった。コンクリートに肉が叩きつけられてひしゃげる音も、骨が折れる音も、断末魔さえも聞こえなかった。

「さいしょの終わり」に続く(了)
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