京都市立堀川高等学校
校長 荒瀬克己さん
きっかけなんて出会い頭ですから、私
の場合、教師になったこと自体に何か
目的があったわけじゃないんです。
この仕事、挫折の末に落ち着いた先と
いうか、私らのころには“教師にでも
なるか”とか、“教師にしかなれない
よ”とかいう、いわゆるデモ・シカ教
師がゴソッと生まれたんですが、私も
その一人です。
私のように、ではなく、自分の夢を適
えるかたちで社会に出られる人も大勢
いるんでしょうけど、実はそこがゴー
ルでもスタートでもないんですよね。
気付けば、ただ道程を少しずつ前に
進み続けているだけで、だからこそモ
チベーションを保てる何かを見つける
ことが大切なんでしょう。
私は、教師という仕事にそれを見つけ
ました。
私、教育というのはサービス業だと思
っています。
堀川高校の場合、教職員は公務員です
から、行政サービスの一環としての立
場ということです。
その範囲の中で15~18歳までの青少年
を預かって、3年の間に私たちができ
ることを彼らに対してするわけです。
教育というサービス業は、時には求め
られていないことまで提供するという
部分が、一般のサービス業と違ってお
もしろいところなんですが、ともかく
そういう過程の中で、彼らは成長して
いくんです。
これ、見えるんですよね。この歳ごろ
というのは大変にピュアですから、ホ
ント、とてもよく見えるんです。
私たちが何かをしたからそうなった、
ということが必ずしも言えるわけでは
ありませんが、少なくとも彼らの成長
というドラマは日々、私たちの目の前
で展開していくんです。これは、最高
に楽しいことで、緊張感が途絶えない
ということも含めて、モチベーション
を保てるんです。
では、具体的に何を教えるのかという
ことになりますが、実は、生徒たちが
学校で受けたいと思うサービスという
のは漠然としていますし、統一されて
いるわけでもありません。
ですから、教師が彼らに教えるべきこ
とは、個々の目標を実現するための創
造的な計画性。つまり段取り力じゃな
いかと思ってるんです。
私は、人が高見を目指して成長してい
く様が大好きなんです。
人は各人、目標に向かって進もうとし
ますが、世の中には組織じゃないとで
きないことが、たくさんあります。
一人ではお金もないし、力も足らない
し、実現不可能だとわかれば、人は組
織を作るんですね。
それがチームワークで、それぞれの力
が大したことなくても、人数を集めて
対処すれば何とかなったりするわけで
す。
けれども、ここで間違ってはいけない
のは、チームワークが最高のありよう
ではない、ということなんです。
チームワークが当たり前だという発想
が染みついてしまうと、他人に依存し
てしまう部分がだんだん増えて、各人
が無責任になってきます。
また、組織の手柄や影響力を自分の実
力と勘違いしてしまいがちにもなりま
す。
いいことは自分の手柄、悪いことは連
帯責任。
これでは、人は伸びません。
だから本当は、一人ひとりが力を伸ば
して、自分のやりたいことを一人でで
きることが目標であるべきなんです。
そのために大切なことは、個々が自分
の目指す高見はどこにあって、そこに
到達するためにはどうすればいいのか、
ということを考えることができる段取
り力が、何よりも大切だと思うんです。
生徒たちは、そうやって興味の幅を拡
げていって、昨日まで知らなかったこ
とを今日知る、というような感動を重
ねながらどんどん成長していきます。
そんな彼らの様子を目の当たりにして
ると、実は感動しっぱなしなのは私の
ほうじゃないのかな、なんて思うんで
すよ。
だから私は、教師という仕事が大好き
なんです。
Interview, Writing: 山口宗久
「かもめ」2008年10月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです。
※記事掲載への思いについて。
山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
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