永田農法 創始者
永田照喜治さん
永田農法は、作物をいじめ抜いて育て
ることで、本来の野生種が持っている
おいしさを引き出しているのだと考え
てる人が多いんです。
そうではない……。作物が気持ちよく
育つこと、それが永田農法なんです。
育つ環境によって作物に違いが生まれ
ることを知ったのは、偶然のできごと
でした。急逝した父親の後を継いで、
故郷の天草でみかんを育てることにな
ったんです。そのときに、十分な肥料
を与えられた肥よくな土地で収穫され
たみかんより、険しい岩山で育ったみ
かんのほうが、甘くておいしいことに
気づいたんですね。
一般的な常識とはまるで反対の現象が
起こっていることが、私の興味をそそ
ったんです。
私なりに試行錯誤を重ねている中で、
九州大学の福島教授に出会いまして。
植物が成長するために必要な要素は、
窒素、リン酸、カリウムの3つで、そ
れを配合した液体肥料が開発されたこ
とを教えていただいたんです。
そもそも植物が地中から取り込むのは、
それらの無機物なんです。どんなに有
機肥料を撒いても、バクテリアがそれ
らを無機物に分解してからでないと、
植物には吸収されないんです。
つまり、有機肥料を大量に撒く現代の
農法は、土壌を糞まみれにしているだ
けで、温暖化ガスの発生や、川や地下
水の汚染といった公害の原因にこそな
れ、植物が成長するための心地よい土
壌を作っていることにはなっていない
というわけです。
私は、これはおもしろいと、思いまし
た。その気持ちが、今も続いているん
です。
おかげさまで永田農法は、広く知られ
るようになりました。けれども私自身、
大それた使命感とか目的があって、や
っているわけではないんですよ。平た
く言うとこの農業で、遊んでるんです。
私が育った時代は、戦争の時代でした
からね。ちょっとしたきっかけで簡単
に死んでしまうような、そんな時代で
した。
戦争が終わってからも、夢を抱いて何
かに向かう、というような甘いことを
言える状況じゃありませんでしたし。
その歳その歳で、自分を受け入れてく
れる場所としてぽっかり空いている穴
に、順に収まっていくことしか許され
なかったわけです。
そんな中で、私は時代に流されつつ、
でも自分の気持ちが心地よくある生き
方を選んできたように思うんですよ。
こういう生き方をする人間は、極めて
少数派で、ほとんどの方はもっとまじ
めに社会のシステムの中に身を投じて、
努力されるんだろうと思います。
私のような変わり者は、そのような多
くの方々が社会を構築してくださるお
かげで、こんなに好きなことをやらせ
ていただいてるんだと思うわけです。
どういうんでしょうね、そんな生き方
をさせていただいた恩返しというか、
何が残せるのかということを考えるよ
うになってきたんです。
例えば、農法に関する特許を取得した
りね。特許を申請するということは、
その内容を公の場所に公開するという
ことでしょ。それを見て、誰かが個人
のレベルで役に立ててくれるなら、何
の問題も起きませんから。永田農法を
広く知ってもらって、多くの人が個々
の庭やベランダで、公害の少ない健康
的でおいしい野菜を育ててもらえるの
なら、それは私ができる世間への恩返
しになると思うんです。
Interview, Writing: 山口宗久
「かもめ」2007年7月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです
※記事掲載への思いについて。
山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
Twitter / nineover
facebook / Yamaguchi Munehisa