株式会社UCJ 代表取締役
楊 鳴一(Yang MingYi)さん
中国は、日本だけでなく世界中から注
目されている新たな巨大マーケットで
す。
ところが多くの企業が、本国での成功
の如何を問わず、中国への進出に苦戦
しているようです。
私はそれらの敗因の多くは、既存のビ
ジネスモデルに頼った戦略にあると思
っています。
中国に限らず、それぞれの国や地域に
は特有の文化や習慣があり、それは仕
事や消費に対する考え方にも反映され
ています。
すなわち、中国で商売をしたいのなら、
中国に馴染むスタイルに自らを変化さ
せなくてはならないということなんで
す。
私は日本の大学で学びましたし、卒業
後もこちらに生活の拠点があります。
ですから、日本には第二の故郷と言え
るほどの愛着がありますし、日本のビ
ジネスモデルについても理解していま
す。
しかも私は、やはり中国人ですから、
中国の商習慣についても理解しやすい
という側面も持っています。UC(ユニ
オン・シティズ)という会社を興して、
インターネット上のモールで日本のサ
プライヤーと中国の消費者を結びつけ
る仕事を始めようと考えたのは、私に
はできる、という自信があったからに
他なりません。
けれども実は、大学を卒業してすぐに
日本と台湾の間で同じような仕事を始
めたのですが、そちらは当時の私の経
営の未熟さもあって失敗しています。
ただ、その失敗のお陰で多くを学ぶこ
とができたことも、今の自信につなが
っているんです。
私は、ほとほとポジティブ思考な人間
だと自分でも感じていますから。
それでも何かを決定しなくてはならな
いときには、相当悩むんですよ。
そういうときに、私が最終的な答えを
導く基盤になっている考え方は、自分
は何をいちばん失いたくないのか、と
いうことを明確にさせることなんです。
何かを選択するときに、必ず何かを失
うことになるのは道理です。そのとき
に、これだけは失うわけにいかないと
いう事柄を守り抜く選択をするんです。
中国は、現在猛烈な勢いで経済的な発
展を遂げています。
あらゆる業種が、中国のビジネスモデ
ルとして確立していく過程にあって、
ベンチャー企業を受け入れやすい状況
だと言えます。
一方、日本は経済的に完全に成熟しき
った社会です。
すべての業種に、確固たる業界地図が
できあがっていますから、新しい企業
がそこに割り込んでいくことは極めて
難しいと言わざるを得ません。
日本の企業で働く多くの人たちや、自
ら起業してみようと考えている人たち
がぶつかる壁というのは、実はそうい
う成熟しきった日本の社会構造にある
ように感じます。
ですから、思い切ってアクションを起
こしてみようとするときは、八方美人
を目指すような選択肢を模索するので
はなくて、プライオリティの低い事柄
を切り捨てる決心をしてみてはどうで
しょうか。
ベンチャー企業に有利な中国というス
テージが身近にある私ですが、初めて
起業するときは、素晴らしい条件で働
ける企業からの内定を諦めることにな
りました。
家族を含む周囲の誰もに猛反対されま
したし、結果的にその会社は成功しま
せんでしたが、それでも後悔はしてい
ません。
なぜなら、私にとっていちばん失いた
くないものは、保守的になりたくない
という思いだからなんです。
チャンスを目の前にして、安定したサ
ラリーのためにそれを諦めるなんてこ
とは、私にとってもっともプライオリ
ティの低い選択肢だということなんだ、
と感じているんです。
Interview, Writing: 山口宗久
「かもめ」2007年3月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです
※記事掲載への思いについて。
山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
Twitter / nineover
facebook / Yamaguchi Munehisa