働くということ・26 和田一夫さん | くるまの達人

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とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

元ヤオハン・ジャパン会長
上海国際経営塾 塾長
和田一夫さん


私は八百屋の息子ですから、八百屋だ
けを一生懸命やってれば、こんなこと
にはならなかったと思います。

経営者として失敗して、信頼してくれ
た多くの人を路頭に迷わせた。自分の
決断によって起こしたことへの責任は
強く感じます。

けれども人生の中にはチャンスがあっ
て、その時々に与えられた状況に全力
を尽くすのは大切なことだと思うんで
す。

小さな八百屋のときは八百屋が天職だ
と思って全力を尽くしてきました。

スーパーのときはスーパーがいいと思
って、海外戦略のときは海外戦略がい
ちばんいいと思って、全力を尽くして
たんですね。

小さかろうが大きかろうが、
そんなことが問題ではないんです。

もちろん、煎じ詰めれば自分が本当に
したいことは何なのか、ということを
徹底的に考えて、自分自身で答えを出
すことは重要です。

けれども特に、なにが本当にやりたい
ことなのかが分からないときこそ、答
えは明白なんです。

今、目の前にある仕事に全力を尽くす
ことなんです。

それが一日に10万円売ることにつなが
り、100万円、1000万円、最終的には
10億円になり、グループで年間5000億
円くらいまで上り詰めたというわけで
す。

ところが私は失敗をしました。
すべてがゼロになってしまいました。

私は、なにが失敗の原因だったのかを
よく考えるのに十分な暇をもらうこと
になったのですが、いいときがいちば
ん危ないのだという、ひとつの結論を
見たような気がします。

状況が悪いときは、細心の注意を払い
ますからね。

香港や中国、アメリカでの事業が成功
しているという風向きが、日本での赤
字に対する注意力を鈍らせたわけです。

実際に赤字を出したのは、倒産した2
年前なんですが、そのときに社長を替
えるとか、なぜそうなっているのかと
いうことについて自分自身でチェック
することを怠っていたんです。

そして粉飾決済のチェックを怠ってし
まったんです。事実の把握ができてい
なかったわけです。

銀行からは日本での商売はもうダメだ
から、見切りを付けた方がいいと忠告
を受けていました。それなのにヤオハ
ン・ジャパンを切れなかったのには、
海外の好調ぶりに強気になっていたと
いうだけでなく、情がかぶっていたこ
ともあるんです。

創業期のヤオハンは、みんな寮生活を
してまして、若者たちと一緒にヤオハ
ンの将来について、意見を述べあって
いく中で運命共同体の様相を呈してい
きました。

まだ小さな規模でしたから、初めてブ
ラジルにお店を出すときには、ブラジ
ル政府から出る永住資金をあてにする
ようなありさまでしたが、彼らは海外
出店という夢を実現するために永住覚
悟でぶつかっていったわけです。

そのことを思うと、私は情感を禁じ得
ません。そういう仲間たちが作り上げ
た店を失いたくなかったんです。

結果から言うと、その判断は間違って
いたということになります。

それでも私は牽引力のあるリーダーが
部下に教えるべきは、愛情だと信じて
います。

言葉だけでなく、態度で示せるくらい
強い愛情がなければ、人は育ちません。

そして失敗を恐れるなということです。
うまくいくかどうかなんて、やってみ
なければわからないんです。どんどん
やりなさい、と。

それでダメだったら早くやめなさい。
そこが私には足らなかった。

これからの日本を作っていく若い人た
ちに、そんな私の失敗を赤裸々に語る
こと、私がまだ前を向いて進んでいる
様を見てもらうことは、今の私が態度
で示せる唯一の愛情だと思うんです。

Interview, Writing: 山口宗久


「かもめ」2006年4月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです

※記事掲載への思いについて。


山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
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