働くということ・24 水越洋子さん | くるまの達人

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とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

「かもめ」2006年2月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです



ビッグイシュー日本、
創刊して3年目なんですけど、
大赤字なんですよ。もう大変。

もちろん大きな利益を追求することは、
この雑誌の目的ではないんですけど、
できれば早く財団を作れるくらいになって、
ホームレスの方たちが再就職するための
職業訓練などまで活動の枠を広げたいですね。

でも私、ホームレス問題だけに
関心があるわけじゃないんです。
例えば若い人たちに係わる問題にも、
すごく関心があるんですよ。


私はね、奈良の田舎の出身で、
実家は農家をやっているんです。

農家には隣百姓っていう言葉があって、
近所の農家同士助け合いながら
代々生きてきたんですね。

農作業の方法を隣の畑を見て学ぶ
隣百姓という言葉や、
忙しい季節には地域で共同作業する
仕組みもあります。

個人的な能力のばらつきを
みんなが補いあって地域として生きていく
というシステムが根付いているんです。
人間関係が密なそういう社会では、
仕事や暮らしの面で
誰かが阻害されて孤立してしまうなんて
ことはあり得ないわけです。

だから都会に出て、
ホームレスの存在やニートの出現を
目の当たりにしたときに、
これは一体どういうことなのっていう
疑問が素直に湧いたんだと思います。


ビッグイシューの存在を知ったのは、
そんな中での出来事でした。

すぐにイギリスへ行って、
創始者に話を伺って、
日本でもこの活動を起こそうと決めたんです。

帰国して相談したほとんどの人に、
やめなさいって反対されましたけどね。
でも、
やらずに後悔するの、イヤだったんです。


まだ人生を振り返るような
時期じゃないですけど、
ふと思い返してみると
私の人生って決して平坦じゃなかった
って思います。

公務員として勤めた最初の仕事も
1年で辞めましたし、
その後の仕事も長続きしませんでした。

誰にでもあるようなこと
なのかもしれませんが、
20代はそういうことの連続でしたから。

結局、
自分のことがよく分かってないんですよ。

だからトライ&エラーを繰り返す中でしか、
先へは進めないんですね。

当然、やってはみたものの
力及ばず失敗したことなんて、
数え切れないくらいあります。

でもね、それって残念だと
感じることはあっても、
後悔という気持ちにはつながらないんです。

それよりも、やらずに終わって
しまったことのほうが、
はるかに悔やまれるんです。

個人でも組織の中でも、
きっと同じなんじゃないでしょうか。

もちろん組織の中では、
ひとりで暴走するのは
具合が悪いと思いますけど、
やってみたいことやアイデアを提案もせずに
終わらせてしまうのはどうでしょう。

もし、その意見が通らなくても、
焦らずに執着することなく
次の機会を待てばいいんですよ。

とっぴょうしもない発想で
あったとしても、
自分の意見を出してみるという姿勢は
十分評価に値します。

上司もきっと、
そういうのろしが挙がってくるのを
待っていると思いますね。


日本の社会では、
いちど失敗すると永遠に流れから
逸脱してしまうという雰囲気があるので、
余計なことを口にしない、
つまり優等生になってしまう
傾向が強いんですが、
排除していくばかりでは
社会自身がやせ細ってしまうと思いませんか。

これだと思ったら熱くなって
バカになる瞬間を感じながら突き進む。
認められなかったり失敗したら、
次の機会を待つ。

社会もそういう人間の敗者復活を待ち望む。
自己擁護じゃないかって笑われそうですけど、
本気でそう思うんですよ。
そういう生き方してますから。


ビッグイシュー日本版編集長
水越洋子さん




Interview, Writing: 山口宗久



※記事掲載への思いについて。




山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
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