働くということ・16 島田耕園さん | くるまの達人

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とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

御所人形作家
五世 島田耕園さん


御所人形いうのはね、平安時代に使わ
れてた呪術用の人形が由来やと言われ
てるお人形さんです。それが時代とと
もに姿を変えて、江戸時代の初期には
今と同じ元気な男の子を象った三頭身
のものになったんですね。参勤交代の
折りには、大名たちが天皇に挨拶をす
るために立ち寄った際に、贈り物の返
礼として配られていたという歴史があ
ります。

うちとこは、僕で五代目になりますが、
京都でも代を継いで続いている御所人
形屋は数件しかありません。

小さいときから、周りの大人たちには
五代目五代目って言われてましたけど、
後を継ぐやとか、そういう家なんやと
いうプレッシャーは全然ありませんで
した。そもそも父親が、そういう育て
方をしなかったですから。

だから普通に大学へ進学して、普通に
就職活動をして、大手銀行の内々定を
もらえるところまで駒を進めてたんで
す。

ところが、そこでふと考え込んでしま
いまして。

子供の頃、夜中におしっこに起きたら、

父親の仕事部屋がまだ明るくて。そっ
と中をのぞき込んだら、人形作ってる
わけです。

「起きたんか。立って見てるんやった
ら、横へ座って見とけ」って中へ呼ば
れて。

父親の手の中で人形が出来上がってい
く様子を見ながら、あぁそこはその色
を塗るのかとか、そこはそういう風な
形なんやとかね。

なにも会話のない静かな時間なのに、
心の中がすごくわくわくしてる自分が
おってね。

人形作ってる父親の姿がすごく楽しそ
うに見えてたんですね。

このまま就職してしまったら、あの仕
事はなくなってしまうんやなって考え
ました。

やらなければならないという義務感じ
ゃなくて、なくなってしまうことがす
ごく寂しくなったんです。

でも実際のところは、子供心に格好い
いなって感じ続けるという誰しもが抱
く存在に過ぎなかったのかもしれませ
ん。僕の場合はそれが身近にいた父親
とその仕事やったというわけです。

仕事は、まず生活のためにしてるんで
すよ。

珍しがられる職業ですけど、芸術を極
めるんやとか、伝統を守るんやとか、
そんなことが第一義なわけじゃないで
す。

それは人間として生きていくために最
低限せないかんことで、当然でしょう。

けどね、自分の中で幸せやと思える仕
事であることは確かですわ。もちろん
きついこともありますよ。僕も最初は
技術的なことで悩みました。そやけど
ね、技術なんて頑張れば誰でもある程
度のとこまではいけるんです。

大切なんは、継続していくことや、前
を向いて進んでいくことで得られる喜
びを感じられるかどうかってことやと
思います。

よそから見て幸せそう、ではなくて、
自分の中でそれを楽しめているかどう
かです。

おもしろいとか、変に思ったりとかい
うことをどんどん体験していくのが
人生の醍醐味やと思うんです。

その心持ちさえあれば、途中で凹むよ
うなことがあっても、また次へ突き抜
けていくことができるでしょ。本人は、
それさえも楽しんでるわけやから。

会社勤めをしてる人も、もっと言えば
社会からニートと呼ばれてる子らかて、
もっとどん欲にそういうものを追求し
ていくべきと違いますか。

もちろん、答えはすべてそこにあると
は思ってないですし、そうするしかな
いとか偉そうに言うてるんでもないで
すよ。

そういう喜びも経験してみれば? っ
ていうことですよ。今まさに、日々そ
れを経験してる真っ最中のもんとして
は、そう思うんです。

この世に命与えられた、たった一回き
りの人生ですから。

Interview, Writing: 山口宗久


かもめ・2005年6月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです

※記事掲載への思いについて。


山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
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