働くということ・14 清塚光夫さん | くるまの達人

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とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

ハイパーレスキュー隊 部隊長
東京消防庁 第八消防方面本部 
消防救助機動部隊 
一部部隊長消防司令 清塚光夫さん


僕らの仕事っていうのは、人が逃げて
くる方向に逆らって進んで行かなきゃ
いけない仕事なんです。現場は、目を
覆いたくなるような散々たる状況であ
ったり、生命の危険を感じるような場
所であったりするわけです。

はた目には勇敢に見えるかもしれませ
んが、正直言って怖いです。でも誰か
がやらなきゃいけないことが、そこに
あるのも事実なんですよね。そういう
仕事ですから。

僕がレスキュー隊になりたいと思った
のは、東京消防庁に最初に配属になっ
た部隊で現場のことをいろいろ教えて
くれた隊長が、たまたまレスキュー隊
のオレンジ色のユニフォームを着てい
たからなんです。消防には、こういう
部隊があってこういう人たちが活躍し
ているんだっていうことを、そこで初
めて知ったわけです。

世間的には、先日の新潟中越大震災の
ときに、がれきの下に埋まった子供を
救出している様子がテレビ放映された
ことで知られるようになりましたよね。

生存者が救いあげられたときの映像を
見て感動した、という声が多数寄せら
れました。

でもあの瞬間、僕は小躍りするような
感動を味わっていたわけじゃないんで
す。もちろん、助かってよかったとい
う気持ちはありましたけど、早くがれ
きの下にいる隊員を外へ出してやらな
ければならないという気持ちのほうが
ずっと強かったわけです。

僕はあの現場では、隊長として一歩下
がった位置から隊員たちに指示を出し
ていました。

隊員たちは、救助を待つ人を助けよう
助けようという気持ちが先走って、時
に正確な判断を欠くような心理状態に
なっていることもあります。

そういう状況下では、上に立つ者が適
切な指示をしてやる必要があるんです。
けれどもこれが、なかなか難しいんで
す。なぜならば、最前線の状況をいち
ばんよく認識しているのは、実は最前
線にもっとも近づいている隊員たちで
すから。

僕は隊員たちに絶対に、どうしましょ
うか、と聞いてくるなと言っています。
そうではなくて、現場の状況の報告と
考えられる方策を伝えて、どっちでい
きますか、と提案してこいと言ってる
んです。そうすれば、Aパターンでい
こうとかBパターンにしようとか、あ
るいは待て、と命令することもできる
わけです。

これはどんな仕事でも一緒なんじゃな
いでしょうか。すなわち、上に立つ任
を与えられた人間は、現場で動く部下
たちの意見をよく聞いて、的確な判断
を下すということが役割なんですよね。

そして、隊員たちに自信を持たせてそ
の任務にあたらせてやる環境を作るこ
とだと思うんです。

ああしろこうしろと言われてやらされ
ているだけでなく、自分の意見に基づ
いた指示で送り出されれば、その隊員
は100%の自信を持って現場へ戻れる
じゃないですか。

自信がないという状況が、いちばん危
険なんですよ。

けれども僕は、命がけでやってこい、
とは言いません。

誰かを救出するために隊員が犠牲にな
ってしまうようでは、その作戦は決し
て成功したとは言えないですから。

かつて隊長の下で危険な現場を経験し
た自分であるからこそ、僕は僕の下で
働く隊員たちが、誰よりも大切だとい
う気持ちを持てるんだと思います。

生身の人間であるというのは、そうい
うことなんじゃないですかね。

Interview, Writing: 山口宗久


かもめ・2005年3月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです

※記事掲載への思いについて。


山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
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