台湾総統府国策顧問
JET日本語学校専務理事
金 美齢さん
私、弁護士になりたかった。もっとい
うとファッションデザイナーになりた
かった。スーパーモデルにもなりたか
ったのよ。ジャーナリストにも、漠然
と憧れていましたけどね。
ただ自分っていうものがあるじゃない。
司法試験は難しいなって思ったり、こ
んなに絵が下手じゃ困ったものねとか、
ファッションモデルなんて、ね、どう
しましょう。
大学の時に通訳のバイトを始めたんで
す。そのうち翻訳の依頼も来はじめて、
台湾語の訳なら金さんだよ、って引っ
張りだこになるくらい重宝がられたの。
仕事が来るたびに、この仕事の評価が
悪ければ次はない、って頑張った結果
だと思う。
そんなことを積み重ねているうちに、
自然と言葉に対する感度も磨かれてい
ったのね。
生きてるうちに、いろんな可能性が出
てきたり消えたり、自分の特徴が見え
てくることってあると思うの。
それには、まずやってみることが大切。
最初から分かっていることなんて、ほ
とんどないんじゃないかしら。私の場
合は、通訳であり翻訳であり教師であ
り、ジャーナリストであり、結局言葉
なのよね、人から喜ばれるのは。
仕事ということで考えれば、他人の評
価はとても大切なわけですよ。私には
できるって思ってても、仕事がなけれ
ばそれまでじゃない。
私、弁護士にはなれなかったけど、言
葉で思いを伝える仕事ができている今
が、素晴らしく楽しいわよ。夢のひと
つだったジャーナリストのようなこと
が、できているわけですしね。
なんだかなりゆきのようにして、今の
仕事に辿り着いたようなところがある
みたいだけど、ある種の目標というか
理想は、常に失わないで持ち続けてき
たんです。
それはね、職業がどうとかいうことで
はなくて、人間としての姿。まっとう
な人間として、どう生きるかというこ
となんです。
常に一歩ずつ前向きに、上に向かって。
それが私の人生としての基本的な姿勢
だと思うの。
でもその過程では、一種の柔軟さも必
要なのね。自分の都合だけで物事を考
えたら、絶対にうまくいかない。常に
相手があるんだから、相手にも良かれ
という姿勢を採りなさいって、私は自
分にずっと言い聞かせてきたの。その
ためには全てに対してフェアであるこ
とが、とっても大切なんです。
組織で働いていると、きっと色んな問
題があるでしょう。何かを言いたくな
るときだって、あると思う。
そんなときにこそ、客観的な判断が必
要だと思うわけ。組織に属するという
ことは、個人の責任を半分肩代わりし
てもらっている代わりに、半分服従す
るということなんですよ。
自分が選んだその会社で、どういう仕
事を与えられて、どれだけの給料をも
らって、それに見合う働きを自分はし
ているのか。
自分のことを棚に上げて、会社のこと
だけを批判するのは、アンフェアでし
ょ。努力もしないでブスブス文句を言
う人って、たくさんいるのよ。でも私
はそういう人、軽蔑するわ。
それでもやっぱり理不尽だ、人間とし
ての尊厳が許さないということなら、
声を上げればいいと思う。大いにやり
なさい。クビになったっていいじゃな
い。そういう人は、どうやったって
生きていけると思う。周りはきちんと
あなたを見ているわよ。それ相応の貢
献があれば、あなたを支持してくれる
人はきっといるはず。
そういう姿勢で生きて働いているかど
うかっていうことが、人生、愉快かど
うかの分かれ目だと思うのよ。
Interview, Writing: 山口宗久
かもめ・2005年2月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです
※記事掲載への思いについて。
山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
Twitter / nineover
facebook / Yamaguchi Munehisa